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祈られなかった神と、変わり者たちの街  作者: 速いの大好き
第一章 神さま、拾いました
17/25

16.酒場

 少し短めです。

 アルベルトは基本的に酒を飲まない。

 それなのに、10日に1度ほどの頻度で、とある酒場を訪れる。


 店に入ると、すぐに奥の個室に案内される。

 出されたミルクを飲みつつ、暫し待つ。


 やがて店主夫婦が入ってきて席に着く。

 男はシド、女はエヴァ。


 エヴァが、紫煙をたゆらせながら、アルベルトに皮肉っぽい口調で言う。

「いつもミルクじゃ、コッチも商売になりませんよ。たまには豪遊してくださいな、補佐さん。」

「悪いが酒は体が受け付けない。帰れば食事もあるので、食い物も要らない」

 アルベルトの毎度の答えに、エヴァはクスッと笑い、相変わらずだねぇという感じで、それ以上は追求しなかった。


「なにか変わったことは?」

 これがアルベルトの目的だった。


 酒場には、毎夜さまざまな背景の人間が訪れる。

 特に外から来た人間は「名無し」だ。仲間以外に素性を知る者はいない。酒が入れば財布も口も途端に軽くなる。

 この酒場は外からの情報の坩堝であり、アルベルトの貴重な情報源だった。


「……そうですねぇ」

 エヴァが大きくタバコの煙を吐き、ペラペラと語り出す。


 シュルツを荒らしてた野盗がこっちに流れてきそうだ

 アミドニアで小麦が不作らしい

 カーチスで子供の誘拐が多発してるetc……


 次から次へとエヴァの口から流れ出る情報は、当然玉石混交。それを一から精査はしない。ただ、記憶の片隅に残す。それだけ。

 こういう情報は一片では価値を持たない。幾つものピースが噛み合って、はじめて有用なものに進化する。

 その欠片を貯めるために来ている。


 饒舌に話し続けるエヴァの傍らで、シドはいつも通り無言だった。今回も、最初の挨拶すらしなかった。

 シドは、別に不機嫌でも、アルベルトを嫌っているわけでもない。もともとこういう人物なのだ。


 シドはいつも店内に顔を出さず、裏で料理に徹する。

 エヴァは酒場の薫りを纏って愛想よく客をもてなす。

 酒と料理で気持ち良く酔わせる対価として、カネと情報を収集する。


 たまに現れる己を知らぬ無礼者には、エヴァの後ろから、このヒゲ面のコワモテがぬぅと姿を見せれば、それだけでお引き取りいただける。

 

 いい役割分担だ、とアルベルトはいつも思う。


 


「ありがとう、いつも助かる」

 アルベルトがテーブルに金を置く。


「ああ、そういえば特級のネタがあったよ」


 金を胸元にしまいながら、エヴァがアルベルトにイタズラっぽい視線を投げる。


「何かな?」


 エヴァがクックッと笑いを浮かべる。 


「どっかの堅物のエライさんが、ユルユルの顔して

幼女の手を引いて街中練り歩ってたってさ。

 エライさん知ってる奴らは、ウソだろって、

2度見3度見してたって話さ」


 アルベルトは背後のエヴァの笑い声を無視して店を

出た。


 酒は飲んでいないのに、なぜか顔が熱く感じられた。


 風邪でもひいたのだろうか。

 

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