16.酒場
少し短めです。
アルベルトは基本的に酒を飲まない。
それなのに、10日に1度ほどの頻度で、とある酒場を訪れる。
店に入ると、すぐに奥の個室に案内される。
出されたミルクを飲みつつ、暫し待つ。
やがて店主夫婦が入ってきて席に着く。
男はシド、女はエヴァ。
エヴァが、紫煙をたゆらせながら、アルベルトに皮肉っぽい口調で言う。
「いつもミルクじゃ、コッチも商売になりませんよ。たまには豪遊してくださいな、補佐さん。」
「悪いが酒は体が受け付けない。帰れば食事もあるので、食い物も要らない」
アルベルトの毎度の答えに、エヴァはクスッと笑い、相変わらずだねぇという感じで、それ以上は追求しなかった。
「なにか変わったことは?」
これがアルベルトの目的だった。
酒場には、毎夜さまざまな背景の人間が訪れる。
特に外から来た人間は「名無し」だ。仲間以外に素性を知る者はいない。酒が入れば財布も口も途端に軽くなる。
この酒場は外からの情報の坩堝であり、アルベルトの貴重な情報源だった。
「……そうですねぇ」
エヴァが大きくタバコの煙を吐き、ペラペラと語り出す。
シュルツを荒らしてた野盗がこっちに流れてきそうだ
アミドニアで小麦が不作らしい
カーチスで子供の誘拐が多発してるetc……
次から次へとエヴァの口から流れ出る情報は、当然玉石混交。それを一から精査はしない。ただ、記憶の片隅に残す。それだけ。
こういう情報は一片では価値を持たない。幾つものピースが噛み合って、はじめて有用なものに進化する。
その欠片を貯めるために来ている。
饒舌に話し続けるエヴァの傍らで、シドはいつも通り無言だった。今回も、最初の挨拶すらしなかった。
シドは、別に不機嫌でも、アルベルトを嫌っているわけでもない。もともとこういう人物なのだ。
シドはいつも店内に顔を出さず、裏で料理に徹する。
エヴァは酒場の薫りを纏って愛想よく客をもてなす。
酒と料理で気持ち良く酔わせる対価として、カネと情報を収集する。
たまに現れる己を知らぬ無礼者には、エヴァの後ろから、このヒゲ面のコワモテがぬぅと姿を見せれば、それだけでお引き取りいただける。
いい役割分担だ、とアルベルトはいつも思う。
「ありがとう、いつも助かる」
アルベルトがテーブルに金を置く。
「ああ、そういえば特級のネタがあったよ」
金を胸元にしまいながら、エヴァがアルベルトにイタズラっぽい視線を投げる。
「何かな?」
エヴァがクックッと笑いを浮かべる。
「どっかの堅物のエライさんが、ユルユルの顔して
幼女の手を引いて街中練り歩ってたってさ。
エライさん知ってる奴らは、ウソだろって、
2度見3度見してたって話さ」
アルベルトは背後のエヴァの笑い声を無視して店を
出た。
酒は飲んでいないのに、なぜか顔が熱く感じられた。
風邪でもひいたのだろうか。




