14.【別視点】執政官補佐の肖像①
別視点エピソードその①です
【下級官吏A】
執政官補佐のアルベルト様は、一言でいうと…
『人外』だ。
私が毎日運んで行く、山のように(文字通り山になってる)積まれた案件を、信じられない早さで処理していく。
先代領主様がお亡くなりになってからは、更に
その『人外』振りが際立っている。
エリシア様が新領主に就任するまでは、不急の案件
以外を一人で代行決裁していた。
就任後はエリシア様が、空白期間の残務を四苦八苦しながら決裁してたが、それでも当月分のおそらく1/2はアルベルト様が処理していた。
エリシア様のもとに運ぶ最終決裁案件が、"小山"程度になっているのがその証拠。
エリシア様は、運ばれてくる"小山"を前にして、アルベルト様に毎日泣きを入れているが、過程を知る私には同情心は湧いてこない。
何をこの程度で、といったところだ。
しかし、誰もが異例だと思う代行決裁案件数
だが、これに異論を挟む人間も、実は誰もいない。
不思議な事だ。
見ようによっては、アルベルト様の専横にも
映りかねないのに。
新領主の経験不足につけ込んで、どこかの特定勢力や商人に有利な政策運営をして、その裏で賄賂を−−なんて、どこにでも転がっている腐敗の典型例だろうに。
私は毎日、要決裁案件を集めるため、各部門を渡り歩くので、わりとそこの上席者達とも顔なじみだ。この辺りについて、いろんな人にそれとなく尋ねてみた。
結果は、こうだった。
(それなりに接点がある方々)
あの“生真面目“な男が、特定勢力の利権のために便宜を図ることなど、あるはずがない
(あまり接点のない方々)
あの”偏屈”な男が、特定勢力の利権のために便宜を
図ることなど、あるはずがない
正直、驚いた。
形容詞が全然別なのに、その後ろの部分はみんな同じ。
あの人の執務姿勢を見る人達は、全く違う橋を渡りながらも、同じ地点に到着している。
こんなにも人物評が違うのに、同じ結論になるのか……。
文官のトップだからか?
組織の内部だからなのか?
忖度があるんじゃないのか?
疑問を解消するため、思いきって上司に、引退した
上級官吏の方を紹介してもらった。
既に身を引いた方ならば、しがらみのない率直な意見が聞けるだろう。
その結果は……同じだった。
『人外』アルベルトに、私は改めて畏怖を覚えたものだった。
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それからしばらく経った。
先代領主様死去後の混乱がほぼ収束し、エリシア様の執務もだんだん板についてきた感はある。
だが、依然としてエリシア様の処理量調整は続き、
アルベルト様の事務量は膨大なまま。
それを相変わらず信じられない早さで処理している。
下級官吏如きが口を出す事でないのは重々承知だが、やはり確かめねば気が済まない。
ある日、意を決して、素直に疑問をぶつけてみた。
「アルベルト様は、なぜおひとりで、こんなに案件を抱え込んでらっしゃるのですか?」
アルベルト様は私を一瞥し、サラリと答えた。
「私の前にある書類は、既に幾つもの目を通過し、
各部門長が承認したものだ。
私が一から精査し直す必要は全くない。
私は、彼らの職責の範囲外で、案件が街に与える功罪を最終チェックしているだけだ」
一拍置いて、アルベルトがテーブルの上で手を合わせ、私を見る。
「君の質問への回答としては不十分かな。
私は、“責任“が人を作り、育てると考えている。
人は責任を与えられると、それを果たそうと努力し、自身を磨く。
そうやって能力を伸ばし“本物“になっていく。
だが、見合わぬ責任は、その者にとって害悪にも
なり得る。
押し潰され、心を折られそうになる者も大勢いる」
椅子に深く座り直し、虚空に視線を移す。
「今のエリシア様がまさにそれだ。
15,16の少女が突然、独立都市全体の責任を負わされた。彼女がどれだけの心労を抱えているか、我々には
推し量る事すら難しい。
だが、彼女は自身の未熟さを痛感しながらも、持ち前の実直さで、それに負けまいと必死で抗っている。
これは美点であり、敬意を払うべきだ。
であれば周りの我々が、成長の芽を摘まぬように努めればいい。
今は、仕事の量を彼女の限界ギリギリより少し多めに調整しながら、もうすぐ通常に戻るとウソをついている。
来月も再来月も、彼女は減らない仕事に愚痴をこぼすだろう。だが、処理能力は着実に付いてきてる。
大きすぎる服も、時間が経てばじきにちょうど良くなるはずだ」
そして、もうひと言、ボソッと呟いた。
「…彼女は、ゆっくり“本物“になってくれればいい…」
アルベルト様がまさかこんな事まで……
私は、柄にもなく感動してしまった。
当然私は周りに話した。
この逸話は、あっという間に各部門長をはじめとする全内政機関に、驚きと感銘とともに知れ渡りーーー
そしてエリシア様に対しては、徹底的に秘匿されることとなった。
明日は別視点エピソード②
その他に日常回を投稿します




