12.はじめての散歩
本日も複数投稿します。
街中を二人連れだって歩くアルベルトとリン。
「人がいっぱい…」
「そうだね、このあたりは街の中心部だからな」
リンが、ほあぁぁぁ、と、驚嘆のため息とともに、街のいたるところに興味津々の視線を送る。
なんせ300年ぶりだ。
当時と比べたら、街のあり様も一変しているだろう。
それでいい
子供は、それでいい
自分に素直に振る舞えば、それでいい
年相応の反応に顔の緩みが止まらない。
リンと手をつなぎ、にこやかに歩を進める
アルベルト。
もし職務中の彼を知る人間が、その様子を目撃
したならば、未曽有の特大ネタとしてイジり倒すか、
触れることを禁忌指定するか、果たしてどちらだったろう。
パン屋に着いた。
焼き立てのパンのいい匂いが鼻腔をくすぐる。
「ここ?」
リンのワクワク感が身体中から湧き出ているようだ。
そうだ、と言い、扉を開ける。
かららん…
ドアベルが、乾いた声で来客を告げる。
「へい、いらっしゃい!」
威勢の良い声とともにガタイの良い大男が奥
から現れた。
「親父さん、おはよう」
「おう、補佐さんかい。毎度どうもーーー
あれ?、なんだい、子連れかい?」
「はは…、遠縁の子でリンといいます。
これから一緒に住むんで、今日は街を案内してます。
今朝食べたここのパンが、だいぶ気に入ったようだったんで連れてきました」
「おお、そうかい、そうかい。
ウチの娘より少しちっちゃいくらいか」
「メリッサは今日は休みですか」
「ああ、学問所に行ってるよ。今度会わせてえな。いい友達になれんだろ。
お嬢ちゃん、ウチのパン美味かったか」
リンは、店主の巨体に少しの戸惑いも見せず、
目を輝かせて言う。
「うん、おいしかった。あんなのはじめて食べた」
「ハハハ、そうかそうか。ありがとな。
ほれ、ウチにゃ、他にもいろんなパンが
あるんだぞ。どれも美味いから買ってきな」
「子供にはドライフルーツ入りのパンとかがいいのかな」
「おお、そうしな。ほれ、嬢ちゃん。
食べたいヤツ、自分で選んでみろ」
アルベルトに、いいの?、と目を向けるリン。
アルベルトがコクリと頷く。
リンは、ぱぁっと満面の笑みを浮かべ、店中の
パンを吟味し始めた。
キョロキョロと店の中を眺めたリンが、立ち止まってある一角を凝視している。
馬や犬を形どったものや、動物の顔を模した小さなパンに目を引かれたようだ。
「わぁ~、これかわいい」
「おう、ソイツはな、孤児院の子供たちが作ってくれてんだ。
子供の発想ってのは侮れねえ。俺やカカアじゃ考えつきもしねえパンを作ってる。これがまた評判良くてな、すぐに売り切れる人気商品だ」
「…こじいんの…こども…?」
「おう、そうさ。ウチのパン作りをお手伝いしてもらっててな。余ったハンパな生地がもったいねえって、子供たちがそれ使ってこのパン作り出したんだ。これが当たって今じゃあ孤児院で直販してるよ。こりゃコッチが頼んで分けてもらってるヤツだ」
「へえ〜、すごいね〜」
リンはひとしきり感心したようで、そのパンをカゴにたんまりと入れた。
その後も、あれも欲しいこれも欲しいと、店の中を
4周ほどして、すぐにカゴの中がパンで一杯になった。
「ハッハッハ、それゃいくらなんでも食い過ぎ
だぞ。ウチのパンは美味いけど、食い過ぎる
とウチのカカアみてぇになっちまうぞ」
「なんだって、アンタっ!」
店の奥から大声が上がり、ふくよかな身体
を揺らして、店主の妻アンナが現れる。
「子供に変な事言うんじゃないよ。子供は
いっぱい食べて、いっぱい遊んで、いっぱい
寝る。これが一番さ。ねぇ、お嬢ちゃん」
膝を折り、リンの頭を撫でながら、妻が言う。
「うん。おいしいパン、いっぱい食べる」
パンを抱え、屈託のない笑顔で答える少女に、
3人の大人も満足そうに笑顔を返した。
「本当にひとりで食べられるのかい?」
小さな身体でパンの入った袋を大事そうに
抱え、とてとてと歩く姿を、後ろから見守り
ながら、アルベルトが尋ねる。
その言葉にリンが振り向く。
少しモジモジしながら、
「エリシアお姉ちゃんにも…、分けてあげるの。
おいしいの、分けてあげるんだ」
健気だな
アルベルトは感心する
「おいしいなら、ひとり占めした方がいいんじゃ
ないか」
リンは、ぶんぶんと頭を振る。
「だめ。おいしいのはみんなで分けるの。
みんなで分けると、もっとおいしくなるから」
アルベルトはクスッと笑って、それじゃ、
と、ちょっとしたいじわるを少女に伝えた。
「じゃあ、屋敷に帰って、エリシアお姉ちゃん
にそう言ってあげなさい」
「うん!」
執務室で書類と悪戦苦闘していたエリシアが、リンに差し出されたパンとその言葉に思わず感涙したことは、3人だけの秘密とされた。




