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11.名付け

日常回です。本日2話目です。

 出かける前にやる事がある。


 アルベルトは少女を連れて、執務室に戻って

きた。


「名前…か…」

「はい。出自は私の遠縁の娘でいいとして、やはり

ここで暮らすからには名前は必要です」

「そうだな……」


 エリシアが少女の目線までかがみ込んで、

少女に静かに問う。

「あなたは、以前は名前があったが、今それを呼ぶ人は誰もいないと言った。

 大切な人からもらった名前だ。

 大事にしなければならない。

 しかし、その名で呼ばれるのは、たぶんあなた

にとっては、辛いことだろう。

 それを強いるつもりもない」


 少女が、少しの間を置いてコクリと頷く。


「どうだろう、新しい名を付けられるのは……嫌か?」


 少女は少しうつむき、逡巡する。

「わからない……。でも…あれは大事……」


 少女の葛藤は、エリシアには痛いほどわかった。

 当然だ。

 父と慕ったウォーケンからもらい、今残っているただひとつのもの。


「そうだな。お父上がくれた名前なのだろう。

 大事に決まっている」


 そっと少女の手を取るエリシア。

「私の名前も父がくれた。私にとっての宝物だ。

 捨てるなんてできるわけがない」


「ただ……」

 少女の頭を優しく撫でながら、少女に語りかける。

「ここで暮らすのに、名無しというわけには

 いかん。人はお互いを名前で呼び、その違いを

 知り、分かり合おうとする」 


 エリシアが少女の目を見つめて言う。

「この街では“仮“の名前で過ごしてくれないか?

 あくまで"仮"だ。いつ捨ててもいい。

 逆に、お父上がくれた名前を無理に捨てる必要

はない。

 それは大事に胸の中にしまっておけばいい。

 どうかな?」


 暫しの沈黙。


 葛藤、動揺、逡巡、希望、期待

 少女の蒼い目の奥で、様々な感情が入り乱れ

交差する。


 そして……


 しばらくの静寂の後、それらがひとつにまとまった。


 少女がエリシアを見る。

 驚くほどはっきりした口調で答える。


「わかった」


 ホッと安堵するエリシア。

 アルベルトも、心のなかでエリシアの尽力に

喝采を上げた。



「ふふ…、それでは、何にしようか」


 少々ワクワク感が顔に出ているぞ、エリシア

 それは見えないようにしなさいよ


「ん〜、そうだな…、私がエリシアだから……」

「却下」

「まだ何も言ってないぞ」

「私の遠縁という設定です」

 

 少女はこのやり取りをキョトンと見ている。


 子供にはわからないかもしれないが、大人に

とって、名付けとはワクワクするものだ。


 ここは保護者たる私がーー



 ふと、アルベルトの脳裏に、少女との邂逅の

場が浮かび上がった。


 少女に声を掛けた時

 声に答えるかのように指が動いた時


 ……リーン……

 

 鈴の音のような、涼しげな音色が

 確かに聞こえた

 

 

 ……あれは啓示か…?


 ……そう思って


 そして一笑に付す


 ……まあいい、高尚に考えることはない

 この子に合う名前であれば、それでいい


 

 アルベルトが口を開く。


 「リン……はどうですか」


 エリシアが頭の中で吟味する。

 「…ほう……リン…か…」

 

 ……合格かな…


 エリシアの思案顔から、ほぼ結論に至った

ことを察し、今度は少女に目線を合わせる。


「君は、いかがかな?」

 

 少女が、口のなかでその名を転がす。

「……リン……」


 口にするたびに、少女の顔に笑みが広がる。


 その様子を見る2人の眼差しも、また笑みを

含む。


「決まり……だね」



**********************



 少女の名前はリンで決まったが、そのリンが

2人をどう呼ぶかで、またひと悶着あった。


 エリシアは「エリシアお姉ちゃん」で

無難に落ち着いたが、アルベルトはどうにも

煮え切れなかった。


「おじちゃん」「おじさん」は、本人にとって

非常にデリケートな部分を痛打するようで、

提案を全て拒否。


 名前呼びは、アルベルトとエリシアの立場が

混沌カオスになると主張し、エリシアが却下。


 最終的にようやく「補佐=ホサ」と決定した。


 

「ホサ…?」

「そう。ホサだ」


 リンは多少戸惑いを覗かせたが、何度か口の

なかで呟き、自分なりに消化したようで、

最後には「ホサ」と笑顔で呼びかけていた。


 

 


 

 

 

 

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