10.はじめての朝
日常回です。少し短めなので2話投稿します。
ベッドの傍らの椅子の上で目を覚ます。
窓から差し込む朝日がまぶしい。
窓辺に立つ少女が笑みを浮かべる。
「……ホントに起きた…」
「起きるさ。生きてるから」
少女がクスッと笑った。
「ゆうべもそう言ってた」
もう、緊張はとけたようだな。
窓の外には朝の街の風景。
それを興味深そうに見つめる少女。
300年ぶりだ、当然か。
暫しの間、少女を眺めていると、ノックの音とともに声を掛けられた。
「失礼いたします。アルベルト様、お食事をお持ちいたしました」
このタイミングの良さ。
我々が起きたら、すぐに運べるように準備してたな。
柔らかいパンと温かいスープ。
新鮮なミルク、バター、チーズ。
質素だが、胃に負担をかけぬよう配慮されている。
さすがはマーサ。
配膳の後、メイドが少し声を落として言う。
「お食事が済みましたら、執務室においでいただくよう、エリシア様から仰せつかっております」
「わかった。ありがとう」
向き直って少女に声を掛ける。
「じゃあ、食べよーーー」
少女は硬直していた。
並ぶ食事に目がクギづけ
はわわわわ……と
なにやら声にならない声のようなモノが……
おいおい神様、よだれはマズかろう……
「早く食べないと、スープが冷めるよ」
笑いを噛み殺しながら、食事を勧める。
ハッとして、
まずスープに手を伸ばし、ひと口。
「……おいしい」
顔がパァっと明るくなった。
スープをあっという間に平らげ、次はパンだ。
「やわらかい…」
「そうだろう、近くのパン屋がいつも焼きたて
を届けてくれるんだ」
「こんなの……はじめて食べた……」
もくもくとパンをほおばる姿が、見た目相応でたいへん愛らしく映る。
「よかったら今日行ってみようか。
お店にはもっといろんなパンがたくさん置いてある。それからこの屋敷の周りも案内しよう」
「お外……つれてってくれるの……?」
「ああ、まずこの屋敷の近くをしっかり覚えてくれ。
ひとりで出かけた時、迷子になっては困る」
「ひとりで…出かけても…いいの…?」
「もちろんいいんだよ」
アルベルトが少女の傍らに立つ。
「君はこの街で、たくさんの人と会って、
いろんな物を見て、多くのことを知って、
そしていつもーーー」
アルベルトは少女の頭に手をやる。
「ここに帰ってくるんだ」
少女が、アルベルトの服の裾をそっと掴む。
「うん……」
「パン屋、行くかい?」
少女は、頭の上の大きな手の感触にモジモジしながら顔を赤らめ、
「行きたい…」
と言って、アルベルトの顔を緩ませた。
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「お前だけズルいだろ〜!」
朝の執務室で、若き領主エリシアが机に突っ伏す。
「前々から、地盤調査から帰った翌日はお休みを
いただくとお伝えしております。お忘れですか」
「私に事後処理押し付けて、ひとりだけ休息取るな〜!」
エリシアのいつもの駄々こね。
いつもの恒例行事のようなものだが、昨日の事件を通過してなお、こうして日常に戻っているということは、エリシアなりに上手く消化できたのだな。
アルベルトが、少しうつむき、しれっと言う。
「……わかりました。あの子とお出かけの約束をしてしまいましたが……確かに私が軽率でした。
あの子に謝って、職務に戻ります」
えっ?と、無言の動揺を見せるエリシア。
「…あの娘と…お出かけ…?」
「はい。朝食に出たパンがとても気に入ったよう
で、店に行けばもっといろんなパンがあるよ、
と話したら、モジモジしながら、行きたいと」
はぁっとため息を吐き、更に良心の呵責に訴える。
「約束を破られてがっかりするでしょうが、仕方ありません。我慢してもらうしかありません」
「あ…あの……」
「執政官たる貴方のご命令に従う。
これも執政官補佐たる私の務め」
「……いや…ほら、事後処理といっても…そんな
急ぎの案件じゃないし……」
「申し訳ありませんが、落胆するあの子をなだめ
るのに、少し時間が要ります。
少々お時間をいただきますが、ご容赦を」
「ま、ま、ま、待て……!」
「お気になさらず。
私が『悪者』になります。
私は『ウソつき』と罵られ、嫌われるでしょう
けど、貴方は彼女の味方でいてやって下さい」
そう言ってエリシアに背を向け、ドアノブに手を掛ける。
エリシアに聞こえるか聞こえないか、そんな絶妙な声量。
「……泣かなければいいが……」
コレが、トドメ。
「だ、だ、だ、だめだ〜〜!
そんなことは許さ〜〜〜ん!
命令だ!!あの娘を連れてってやれ〜〜!!」




