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9.伝承②〜秘匿口伝とテーゼの誕生

 多くの人々が知る、彼の地にまつわる伝承。

 その影で、極々限られた人々の間で密かに口伝されてきた伝承がある。




**********************




 あの『破滅の閃光』の夜、人も建物も、森も山さえも、全てが消失したはずだった。



 しかし実は、僅かだが生き延びた人々が存在した。



 あの夜、隣国軍の暴虐から辛うじて逃れ、近くの森に辿り着いた領民達がいた。


 しかし隣国軍は執拗に捜索し、民を追いつめる。


 暴力に酔う兵達が眼前に迫ったその時ーー


 あの『閃光』が走り、世界が白銀に染まった。



 そして、領民は見る。

 光の中で、あの娘が泣いている姿を……

 領民は聞く。

 あの娘が自分達に詫びる言葉を……


   ごめんなさい……

   ごめんなさい……

   みんなを…守ってあげられなくて…

   ごめんなさい……



 やがて光が消え、まなこに色が戻る。


 周りのものは全てが消え失せていた。



 ただ、領民の佇む一角だけは……

 ポッカリと、もとの姿をとどめていた。




 生き残った領民達は、各地に散らばった。


 新たな生活の地で、新たな日常を築く。


 その日常のなかで、彼らは子供たちに語る。



  わたしたちは神様と暮らしていた、と

  その神様はとてもかわいらしかった、と

  わたしたちの側でいつも笑っていた、と


  でもね

  あの子に祈っちゃいけないよ

  崇めたりしちゃいけないよ

  尊ぶのもだめだ

  跪くのもだめだ


  それはあの子を遠くに連れてっちまう


  あの子はそんなこと喜びゃしない

  

  きっと、寂しがって

  そばにいてって

  泣いちまう



  だから、もしいつか、あの子がお前の前に

  現れたら


  しっかりその手を握ってね

  傍にいておあげなさい  




**********************





 呪われた地に足を踏み入れるなど、なんという

不信心者たちか。

「罰当たり」「異端者」と陰口を叩かれながら

親から子へ、子から孫へ、連綿と受け継がれた伝承を胸に、子孫たちは彼の地に立った。



 難行苦行は覚悟している。

 それでも、祖先が渇望してやまなかった帰郷。

 皆、万感の想いで、まちづくりを始めた。


 彼の地は、彼らに驚くほど優しかった。

 渇けば潤し、湿れば乾かす、穏やかな天候。

 澄んだ水、肥えた土、実り多き森と山々。

 まるで自分達を歓迎してくれている。

 そんな感覚が、大いに彼らを奮起させた。

 

 衣食住は問題なし。

 物資搬入も容易。

 資金も豊富とはいえないまでも十分にある。

 

 自然環境、労働環境、流通状況、財政状況。

 いずれも望外なほど恵まれ、工事は計画を遥かに上回る速度で進捗する。


 都市が形を成してきた事で、将来の流通の中核地に影響力を持とうと、利に聡い周辺の商人たちが競って資金提供を申し出る。


 この折衝を一手に担ったのが、エリシアの祖先であるソーマ・ベルベットだった。


 ソーマは公平公正を旨とし、類まれな交渉力と調整能力で、特定の商人・勢力への権益集中を排除する一方、集まった資金を厳正且つ効率的に運用し、都市の外形が整えるとともに、その器の中に様々な内政組織を埋め込んで、都市の礎を築く。


 独立都市テーゼはこうして誕生し、ソーマが初代領主兼執政官に就任する。


 ソーマは即座に4国と条約を締結して、都市の独立主権を各国の公文書に明文化。


 直後に、4国から無償提供されたはずの建立資金を

借款に変更するとともに、一部を手元の資金で返済する。


 これには皆驚き、無謀とも見えるソーマの決定に異を唱えた。


 しかしソーマは全く意に介さず、都市機能の整備と交通交易の効率化に邁進する。


 結果、テーゼは安全且つ迅速な流通の要衝として地位を確立。

 交通量・交易額ともに飛躍的に増大し、これに比例して増加する税収を原資に、僅か6年で4国への借款を清算した。

 

 政治的・外交的な独立に加え、経済的な独立を果たしたテーゼは、次に「思考」の独立に着手する。


 4国が国教に定めるほど周辺一帯に根を下ろしている女神信仰。


 女神信仰は、各国の支配層の行動原理から一般国民の生活習慣にまで、深々と浸透していた。  

 教会は、各国の「思考」の原点に根ざす事によって、隠然たる影響力を持ち続けていた。


 これを政治から完全に切り離し、都市は一切信仰に関与しない「無宗教化」を宣言。


 教会は激昂し、4国は撤回を求め、信者達は罵倒の声を上げる。


 その一方で、多くの国の法が制約を定めるのに対し、テーゼのそれは自由を定めるのだ、と都市市民と一部の商人達は喝采を贈った。



 かくして、テーゼは名実ともに独立都市となった。


 そして同時に……二つ名も得た。

   不信心者どもが集う

  『変わり者たちの街』と

 

 




 

 

 

 


 

 



  


 

 


 

 


 

 

一挙公開はここで終了です。


明日からは毎日1話ずつ投稿する予定です。

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