093 : ハイデベルク・11・神の妻シギュン
待ての勇者と急ぎの姫騎士
093 : ハイデベルク・11・神の妻シギュン
「少しは役に立とうと申しましてね……」
やっと寝付いたククをトントンしながら神の妻は話をつづけた。
「考えたんですよ、シャイロックさんたちがうちの傍を通って北に向かうのを見て」
ああ……分かったような気がしたが、続けて話を聞く。ヒルデも胸壁に身を預けて聞く姿勢だ。
「ロキもわたしも逃げて来たんです、事情はロキが話した通り。荒れ野の森に棲んでいれば何事もなく過ごせるんだけれど。シャイロックさんもヴェニスから逃げてこられて、細々と荷車で商売をなさっていて、シュプルーデ川では随分のお働き。その上、あのように河川敷と岸辺を立派な場の町にしておしまいになった」
俺たちも、あの戦いを思い出すと胸が熱くなる。
「それだけでもすごいのに、今度は、それをあっさり人に任せて、あなたたちの救援に駆けつける。うちの横を通った時は、まだ二十人ほどだったんですよ。それが、あとからあとから人が続いて……」
「そうですね、ここに着いた時は百人前後になっていた」
「それだけではないぞ、塔の上で気を澄ませていると、まだ同じくらいの人数がここを目指しているのが分かる。シュプルーデだけじゃなく、その南の方からのも混ざっている」
「ええ、そうね」
「そうなのか!?」
ヒルデもシギュンも——やぱり神さまなんだ——と感心する。
「年甲斐もなくロキも、奮い立ってしまって、ストレージからとっておきのミョルニルを取り出して……止めようと思ったんですよ、その時は」
やっぱり、妻の立場になると冷静だ。
「でもね、この子を見たんですよ、ククを」
おっぱいの夢でも見ているんだろうか、口をクチュクチュしながら平和に眠っている。
「うちで預かっていれば無事に育ちはするけれど、それでは、人や社会を知らぬままのお人形さんになってしまう」
あ……考えてみるとそうだ。
俺たちは、いつの間にか冒険者という視点でしかものを見なくなってきているのかもしれない。
人もモノも、それ相応のスパンで見なくちゃな。
「魔物の多くは元々は人間だったのです。過酷な環境に順応していくうちに、容が変わってしまって。ククはまだ赤ちゃんだし、わたしたちは一応は神さまだし、この子を人に戻してやれると思ったのよ」
「戻せるんですか!?」
「影響は残るでしょうけど、あなたたちのところのギギも……」
シギュンに倣って下を見ると、ビアンカやカリーナたちといっしょに宴会の世話をしているギギが目に入った。
「ロキは、このハイデベルクに住み着いて、みなさんを応援することにしたらしいんです」
「え、ロキが(◎◎)!?」
ヒルデが目を剥いた。
「あの人の得意技は変態ですからね。いろんな人に化けて、助言したりアドバイスしたり、そんなことを考えているみたい」
「なるほど……」「そうなんだ……」
「もともとは、ただのお調子者ですから、わたしも傍に居て気を付けてやろうと静かに決心しているところなの(^^;)」
神さまも、いろいろ考えて大変なんだなぁ……耳を傾けながら、俺も決意を新たにする。
アキを救ってやらなきゃな…………思わず拳を握る俺だった。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物 グズルーン(魔王に魂を売ったジークフリートの王妃)




