092 : ハイデベルク・10・向こうの塔にも人影が
待ての勇者と急ぎの姫騎士
092 : ハイデベルク・10・向こうの塔にも人影が
シャイロック!?
花火を打ち上げながら南門から入ってきたのは……シャイロックだった!
俺が気づくと向こうも花火の筒を持ったままの手を振る。カフェレストラン『げんこつ山』の開店を祝っていた新旧の住民たちも、前に倍する勢いで手や旗を振る。振るものの無い者はシャツやチュニックを脱いで振りまわし、いっしょになって歓喜している。
「シャイロック、どうして!?」
訊ねる俺も声が弾んでしまう(^^;)。
「フ……タイミングのいいやつだ」
ヒルデは不足そうだが、分かってる、こいつデフォルトはツンデレ……
「だれがツンデレだ!」
「ウフフ、スグル様、声に出ていますよ(^^;)」
「聞こえてんなら言えよぉ(>▢<)」
アハハハ ワハハハ エヘヘヘ
陽気にテンションが上がる中、ヴェニスの商人は馬を飛び降りて俺の手を取ってブンブン振る。
「避難してきた人たちが、みなさんの活躍を伝えてくれましてな。いささかの苦難も年寄りには良い刺激、いや、一人で来るつもりだったのですがな。シュプルーデ川の者たちも『スグルさまたちの助けになるなら!』と付いてきてしまいました」
荷車や荷馬車が続いて、総数は100人、いや、それ以上いるかもしれない。
「シュプルーデの方は足りているのですか?」
エマが訊ねると、シャイロックは子供のように手を広げて「いやあ、シュプルーデが隣のウンターヴェークスを追い抜くのも時間の問題ですよ。街の面積はともかく、人数も倍ほどになり、売り上げでは、もう肩を並べておりますよ(o^▢^o)」と満面の笑顔。
声が大きいうえに、恵比須と大黒を掛け合わせてサンタクロースで割ったような笑顔。街も人も心が弾み『げんこつ山』開店祝いは文字通りハイデベルク再出発のお祭りになった!
シュプルーデの一行が加わってバージョンアップしたお祭り騒ぎは夜になっても続く。
屋根も壁も床さえ半分しかできていないげんこつ山だが、みんなで有り合わせの椅子やテーブルをかき集めて半野外の宴の席。いつの間にか小さなステージさえもでっちあげ、ステージの前の床ができていないのを逆手にとって即席のオケピット。破壊されたことがかえって融通を利かせて盛り上がってやがる。
かんぱーーい((((((^▢^))))))!
三度目の乾杯の後、俺は、一人でアリユール(城壁通路)に上がった。
アリユールを半周歩いて酔いがさめたら戻るつもりだ。もっとも一周できるほど城壁は無事ではない。それに、祭りのシメには居ないとな。
塔にぶち当たって登ってみると先客がいた。
「「またか」」
お互いに声が出てしまう。
先客は、宴会が苦手な戦乙女だ。
「気が合うな、ヒルデ」
「というよりは、それほど、このハイデベルクは破壊しつくされて、落ち着ける場所はいくらもない」
「そうだな。しかし、シャイロックが来てくれた。どうやら腰を落ち着けて街を再建するつもりのようだ」
「ああ、成功すれば、川辺の温泉町など目じゃないだろうからな」
「勢いを取り戻せば、ここはズィッヒャーブルグをも凌ぐようになるだろう」
「ここが新たな始まりの街になるんだな……」
「ああ、この異世界も昭和の日本ほどに安定し繁栄するかもしれん」
「昭和を生きてきたようなことを言うんだな」
「フ、まあな……」
「そんなに斜に構えて言うことかぁ」
言われて気づいた、少し斜に構えて昭和を懐かしむのは先輩の癖だった。
「ロキの姿が見えない……気づいていたか?」
「あ、ああ、世を忍んでいたから戻ったんじゃないか、元々荒れ野の神さまなんだし。いや、ミョルニルのハンマーの威力はすごかったな。あれは、ヒルデのとは別物なのか?」
「複数あるとトールは言っていたが、わたしも見るのは初めてだった。武器には相性があるが、ことミョルニルのハンマーに関してはロキの方が上手のようだ」
「そうなのか?」
「わたしも認識を改めなくてはならんのかもな……」
「どうかしたか?」
「あそこ……」
ヒルデが指さしたのは西に取り残された城壁の塔。わずかにアリユールが残って人影が見えて……小学校の近くで気を付けしていたお巡りさん人形を思い出した。
「だれだ……」
まだまだ宴はたけなわ、誰だろうかと目を細めると、その人影が振り向いた。
「「あ」」
それは、赤ん坊のククを抱っこしたロキの奥さん、シギュンだった。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物 グズルーン(魔王に魂を売ったジークフリートの王妃)




