091 : ハイデベルク・9・塔の上のブリュンヒルデ
待ての勇者と急ぎの姫騎士
091 : ハイデベルク・9・塔の上のブリュンヒルデ
ハイデベルクの住人は行方知れずで、魔王の眷属に置き換わっていた。置き換わった大多数はヒルデの名簿から蘇らせたヴァルキリー戦士たち。
主神オーディンは、そのラグナロク(最終戦争)に不死身の戦士として戦わせるつもりだった。ヒルデは、そのブァルキリー達を救うために、名簿を父に渡さず逃げ回り、日本のコスプレイヤーたちに紛れ、不幸な事故で俺と共にこの異世界に飛ばされてきた。
その名簿が魔王の手に渡り、ヴァルキリーたちは悪の戦士となって立ちはだかり、激戦の末にうち平らげた。つい昨日まで、魔都に作り替えられていたハイデベルク。
なんとか、魔王の傀儡グズルーンを打ち払い、ハイデベルクの住人も一昨日あたりから少しずつ戻り始めている。
街を取り巻く城壁の上、アリュールと呼ばれる歩廊もあちこち破壊されていたが、いくぶん残った北のアリュール。その先の塔の上にヒルデが立っているのを見つけた。
「探したぞ」
「すまん、少し時間がかかってなあ……」
言わずともわかる。
エアストドルフからハイデベルクに来るまで、多くの戦い、様々な出来事ことがあった。
そして、このハイデベルクの戦いは、それまでの事がチュートリアルに思えるほどの激戦だった。モチベーションを回復するには少し時間がかかるだろう。ヒルデが打ち倒したのは魔王の手先ではあるが、元はラグナロクの戦士たちだったんだからな。
「親指姫がカフェレストランを始めるらしい」
「食堂か……ということは、水回りは回復したんだな」
「ああ、こういう被災地に必要なのは水の出し入れだ。上水下水ともに夕べのうちに回復させた」
「トイレチックスワールだな」
「ああ、それ内緒な。トイレ魔法で上水の整備やったと知られるのまずいからな(^^;)」
「いっそ、ウォーターマジックとでも言いなおしたらどうだ。あれは水魔法としても超一級だぞ」
「考えとくよ……」
さっきまで、そんな気は無かったんだけど、言いよどんでしまう。
塔が高い分、それが踏み台になるかと思ったんだけど、高い分、落ちたら怪我が大きいような気になってくる。
ふと、背後の街で賑わう声が聞こえた。
「なんだ、あれは?」
「ああ、親指姫の店だ」
「あれが……でも、ほとんど露店じゃないか」
「急ごしらえだからな。なに、エマのストレージも半分は戻ってきた。魔王の奴がグチャグチャにしちまってたけど、整理すれば、また使えるようになる。プレハブとか大テントも使えるようになるだろう」
「ビアンカとカリーナが担いでいるのは……看板か?」
「ああ、見世物小屋の娘だから、ああいうの作らせたら上手いものだ」
看板には布が巻いてあって、きちんと掛けたところでお披露目するんだろう。
「……どうだ、お披露目を見に行かないか」
「……そうだな、そろそろ昼だろうしな」
「じゃ、行くぞ!」
本当は、ヒルデとこれからのことを話したかった。
魔王の勢力は強大だ。ここを出て北に進んだら、その艱難辛苦はこれまでの比ではないだろう。破壊されたとは言え、ハイデベルクは大きな街だ。ここを再建するだけで、十分、人生一代の仕事になる。
再建し、再征の準備をするのもいいだろうし、後身の冒険者たちの援護をするのも生き方だろうと思う。
しかし、二人で話したら、この塔の上でも、どこか敗戦処理のような凹んだ空気になりそうだ。
ダララララララララララララ
下りると、ちょうど間に合ったようで、賑やかしにドラムロールが鳴り始めた。
ジャジャーーーン! パパパパーン!
シンバルの音と共に掛け布が落とされ、心ばかりの花火が打ち上げられる。
おお!
新品の店の看板には『カフェレストラン げんこつ山』と立体文字で表されていた!
パパパパーン! パパパパーン! パパパパーン!
感動した野次馬がさらに花火を打ち上げる!
パパパパーン! パパパパーン!!
え?
後ろから、それとは別の花火が打ちあがり、俺も野次馬も振り返った……。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物 グズルーン(魔王に魂を売ったジークフリートの王妃)




