080 : スグルがグチってドローンが飛ぶ
待ての勇者と急ぎの姫騎士
080 : スグルがグチってドローンが飛ぶ
先の見通しが効かないというのはくたびれるものだ。
こないだまで29歳だった俺は、その見通しが効かなかった。
非正規のまま三十代を迎えようとして、ちょっとアンニュイ。
まあまあの営業成績だったけど、このまま三十代に突入していいのかという思いがあった。
不安……学生の頃に感じていた漠然とした不安ではない。
二十代は人並に給料がもらえて、社会保険とかにも入っていて、月に七日ほどの休日、年に十日ほどの徹夜とかのハードな仕事があって、これまで3回のピンチがあって、そのピンチも先輩のお陰で乗り越えられて……仕事を続けている限り4回目が無いとは言えない。いや、責任が重くなっていく分、確実性は高くなるわけで。その4回目は来年か再来年か。そもそも、業界でも周回遅れと言われているうちの会社自体、大丈夫か?
三十歳になって、もう若者とは言えなくなって、後輩のイベントを見に行くのもどこか気がひけて。四捨五入してアラサーのアキを『偉い!』とも『大丈夫か?』とも思って、思うことに微妙な優越感を感じて、羨ましさもあって。電車の中で自衛隊をググったら、32歳まではOKと知って、なるつもりもないのに安心したりして。
……会社も、まあ五六年は大丈夫だろうけど、先輩が定年で居なくなって、いや、歳のわりに見通しのきく人だから、ある日電撃的に退職ということもありえて……俺一人で、今まで通りやっていけるんだろうか……とか。
そうだトイレの修理……間に合わなかったら、コンビニのトイレ……まあ、大きい方はいいとして、小の方、日に5回も6回も行くわけにもいかない。管理人さんに頼んで空き部屋のトイレを使わせてもらう……これが順当なんだろうけど、去年の春から入った管理人さんはちょっと苦手だ。もと公務員で、70歳まで再任用、で、死ぬまで金の心配のないご身分で、非正規の身分では会うたびにプレッシャーだもんな。
そう言えば、アキはヒルデの名簿を持って姿を消した。追撃したヒルデを難なくいなして姿をくらました。おそらくは相当な魔物がアキに化けている、あるいは、取り込まれている……そうだとしたら、助けてやらなければ……しかし、どうやって……ヒルデでさえ取り逃がしたあいつを……。
悪いことばかり頭の中でループする。
やっぱり、大唇との戦いが苛烈で、奴を倒した後の大地は見渡す限りのグチャグチャ、ライズゼニヒ山は遠いままだ。
ヒルデが立ち止まった。
「エマ、ドローンを飛ばしてくれ」
「はい、ただいま」
二人ともキッパリした声だ。弱気を読まれてしまったか。
ピシャ
思わず自分の頬を叩いてしまう。
ギギが「ん?」という顔をする。
「ハハ、虫が停まったんでな(^^;)」
「殺虫剤を撒きます」
プシューーーープシューーーー
エマがドローンを操作しながら殺虫剤を撒く、ちょっと申し訳ない。
ゴチン! あいて! アハハハハ!
モニターを7人で覗いたもので、魔術師姉妹が頭をぶつけ、ギギが遠慮なく笑う。
「あ、グチャグチャが途切れてますよ!」
親指姫が胸に持ってきていた手をパチパチ叩いた。
「喜べスグル、さすがに荒地全てが呑み込まれていたわけではないようだぞ!」
「向こうに霞んでいるのはハイデベルクの街のようでございます!」
「あら、なにかバス停のようなものが……」
親指姫が画面の手前の方を指さした。
「なんだこりゃ?」
いぶかるギギを押しのけて、カリーナが覗き込む。
「お姉ちゃん、これ、道のギルドだよ!」
「「「ええ!?」」」
みんなが声を上げた。むろん、俺もな!
だって、受付さんが言っていた『この先ハイデベルグまでは道のギルドはございませんので、ご注意ください』ってな(036:受付さんの依頼は幻影魔術師のことだった)。
「本物でしょうか?」
今まで、いろいろ誑かされてきた。エマが疑うのももっともだ。
「行けば分かるだろう」
「行ってみようよ!」
ヒルデの言葉にギギが賛同して、俺たちは一気にグチャグチャを走り抜けた!
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物




