075 : 魔術師姉妹は見た!
待ての勇者と急ぎの姫騎士
075 : 魔術師姉妹は見た!
「だめです!」「引き返して!」
幻影魔術師の姉妹は必死の形相!
知らぬ者なら躊躇しただろうが、ズィッヒャー川以来からの因縁、ついさっきもげんこつ山の魔物退治を共に戦った者同士、いっしょにげんこつ山まで全力疾走した!
「ハーハーハーー(;;;´Д`;)」「ゼーゼーゼーー(;;;´Д`)」
「とりあえず、これをどうぞ」
エマがLサイズポーションを出して二人に勧めると、姉妹は喉を鳴らして一気飲み。
グビグビグビグビ……
「ありがとう」「少し元気が戻ってきました」
ビアンカもカリーナも、八割がたの元気を取り戻し、頬に赤みが戻ってきた。
「他の者たちはどうした?」
ヒルデが聞くと、顔を見合わせてから姉のビアンカが深呼吸して答えた。
「三人食べられたところまでは見たけど、あとは散り散りバラバラ……定石通り四方に逃げたけど、何人助かったかは分からない(-_-;)」
「あいつは、化け物や魔物の概念を超えているよ……{{(;º・º)}}」
続けて答えたビアンカは、まだ指の先が震えている。
「どんな奴なんだ?」
「地面が、土地そのものが化け物だった……」
「土地が……」「化け物……?」
「うん、えと……あの……」
ショックから抜けきれないのか、口をパクパクするだけで、言葉にならないビアンカ。
「ビジョン化したら、お姉ちゃん」
「え、あ、そうだな……」
ビアンカは、左手で妹の手を取り、右手をパーに開いて俺たちの前に映像を出した。
げんこつ山の冒険者たちが歩いていると、後衛の白魔導士が『ちょっと停まって』とみんなを注意。周囲の風景は、俺たちが感じた以上に見通しがきかなくなっている。はっきり見えるのはサッカーコート二面分ほど。その先は、ちょと前まで見えていたライズゼニヒ山が見えなくなっている。
前衛のドワーフがジャンプして振り返り「げんこつ山も見えないぞ」と、ついさっきのギギと同じことを言う。
『なにか来る……』
白魔導士が呟くと、道の先の方が揺れ始め、みんな、震源と思われる北に向けて得物を構えた。
グゴゴゴゴ……
揺れが激しくなったかと思うと、激しくなった分がグルっと彼らの後ろに周る。
二つの激しい揺れに挟まれてしまった!
『逃げろ!』
白魔導士が叫ぶと同時に道の前と後ろが同時に盛り上がり、あっという間に巨大な衝立、いや、口になった! 前が上あご後ろが下あご!
上あごも下あごも、黒部ダムほどの大きさがあって、それが閉じてくる!
それほど早いスピードじゃないんだけど、なんせ黒部ダム。想像してみてくれ、巨大ダムの底に居て、ダムが自分に覆いかぶさってくるところを! 冒険者たちは全速で走り、あるいは飛び上がって逃れるが、全員が間に合うはずもなく、パックリ閉じた時には冒険者たちは半分に減っていた。
げんこつ山で結束が高まった冒険者たちなので、残った者たちも逃げたりはせず、閉じて巨大な唇になったそいつに攻撃を加える!
ピシ パシ コツ カツ トトト タタタ
魔法も攻撃も効く様子がない!
寝そべったゴジラ、それもアメリカが映画化した時の一番巨大なゴジラ、そいつをスズメが突くほどにも効果がない。
谷の化け物ガイストターレン(029~034)に似ているが、あれよりも大きくて凶暴だ!
なによりも、こいつは動く! 敏捷ではないけど、確実に動く! 効き目がないと全速で避難した冒険者たちは、ほとんどが逃げきれずに、僅かに開き残った唇に吸い込まれていく!
『わしが時間を稼ぐ! おまえらは逃げろ!』
最年長の冒険者が、薄く開いた口の中に飛び込む! 一秒後、閉じた唇が「プッ」と小さく笑った! いや、口の中で冒険者が爆裂魔法を使ったんだ! その衝撃がほんの少しだけ口から洩れて、笑ったように見えただけだ……。
そこで映像は終わった。
ここまで見て、ビアンカとカリーナは逃げてきたんだ。他の冒険者たちは確かめる間もなく呑み込まれてしまったか、散り散りに逃げたか。
「どうする、このまま進んだら、あいつに出くわすぞ」
疑問形で聞いたけど——とりあえず引き返すしかない——と思った。
「引き返したら負け犬だ、メンタルを回復して再チャレンジするには年単位の時間がかかるぞ」
「どうするのですか、ヒルデさま」
「エマ、二人をストレージに匿ってくれ。我々だけでやるぞ」
「ヒルデ!」「ヒルデさま!?」
「わたしたちも戦うよ、ねえ、おねえちゃん」「うん、回復したし」
「もう少し休んでろ。ストレージ、東京ドームの医務室でギギも休んでいる。子供一人じゃ寂しいだろうからな」
「ギギちゃんが?」
「ああ、それともう一人女子(げんこつ山の親指)がいるが、いいやつだ。頼んだぞ。スグル、おまえのトイレ魔法……トイレチックスワールだったか、そいつで、道の先をレベルマックスで撃ってくれ」
「「「「ええ!?」」」」
「そんなことをしたら、敵に気づかれて……」
「大丈夫だ、エマ、二人を」
「あ、はい」
心配顔の魔術師姉妹が収容されると、ヴァルキリーの姫騎士は小さく言った。
「トイレ魔法を撃ったら、全速で西にとぶぞ」
「おお」「はい」
細かいことは聞かず、レベルマックスでトイレチックスワールを撃つために呼吸を整える俺だった。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレムとドール




