069 : げんこつ山の冒険者たち
待ての勇者と急ぎの姫騎士
069 : げんこつ山の冒険者たち
『げんこつ山のたぬきさん』を歌いながら進んで行くと、広い範囲に亀裂が入っているところに出てしまった。
「巨大なげんこつで地面を殴ったみたいなところですねぇ……」
「げんこちゅ?」
エマが例えると自分の握りこぶしを見つめるギギ。
「戦いがあったんだな、魔力の残滓がある。迂回した方がいいぞ」
「ああ、そうだな」
地面がグチャグチャなのは経験済み。魔力残滓があるなら——君子危うきに近寄らず——だ。ガイストターレン(029~034)ではひどい目に遭ったからな。
「しかし、これだけの戦いがあったのに気が付きませんでしたね」
「ロキの屋敷に居たからな、あそこは外から見えないだけではなくて、外の騒音も遮断するんだろう」
得意先の会社に行ったとき、外で車同士が衝突する事故があったんだけど、防音が行き届いた建物だったので出るまで気づかなかったことを思い出した。
「迂回するしかないな、あっちから行くぞ」
そう言って俺を促すヒルデ、俺が前衛、ヒルデが後衛の原則を崩さない。
少し行くと草叢や灌木の向こうにギョーザみたいな丘が見えた。
「あ、げんこちゅやま!」
ギギにはげんこつに見えている(^^;)。
げんこつの節と節の間が窪地になっていて人影が見える。人影の二つがこちらに手を振っている。
「あ、ビアンカとカリーナです!」
エマが懐かしそうに指さして手を振る。ギギもいっしょに手を振って、公園デビューしたばかりの親子みたいだ(^^;)。
拳の節の向こうは手の甲のような平地になっていて、十五六人の冒険者たちがくたびれて転がったり体育座りしている。
「ひょっとして……」
「お前たちが、あそこで戦ったのか?」
ヒルデと二人で聞くと、魔術師姉妹は後ろを振り返りながら頷いた。
「飢えた魔物の群れが出ちゃって、居合わせた冒険者の人たちと」
「お姉ちゃんが『大勢に見せかけるんだ!』って、魔法で100倍に見せかけて、なんとか……」
「犠牲者は出なかったけど、みんな満身創痍で……」
「カリーナと二人で見張りをして休んでるところなの」
改めて見ると、みんな疲労困憊。比較的元気な僧侶と白魔導士が疲れた顔で手当てしている。
「俺たちも手伝うよ」
「ありがとう!」「助かる!」
ヒルデは回復魔法、俺はエマに包帯やら消毒薬を出してもらって応急処置。ギギは何もできないけど、エマの横で心配そうに怪我人たちを見守る。ふたりおソロのメイド服なのでメンソレータムのマスコットみたい。
「ありがとう」「かわいいねぇ」「癒される」「痛みが和らぐ」「尊いなぁ」
みんな感謝の一言を言ってくれて、ありがたいし、和んでくる。
メイド服とナイチンゲールみたいな看護婦服は似ている。二人の個性もあるんだろうけど、コスが人に与える影響も大きいと思う。
「あ、どうかしましたか?」
中年の冒険者がうずくまっていたので、ていねいに聞いてみる。
「いや……ちょっと尻の病気でな、情けないんだが水のあるところでないと用を足せないんだ(-_-;)」
あ、痔なんだ。
「待っててください」
魔法でトイレを二つ出す。
「わたしが説明しよう」
ヒルデが——これぞ我が任務——とばかりに説明する。この異世界、栄誉あるウォシュレット体験者第一号はヒルデだからな(^^)。
手当てが一巡し、みんながウォシュレットに慣れたころ、節の一つに腰かけたギギが歌い始めた。
げんこちゅやまのたぬきしゃん♪ おっぱいのんれ ねんねして……(^^♪
幼くも美しい歌声に、いつの間にか耳を傾ける冒険者たちだった。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹)




