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067 : 荒れ野の神・3

待ての勇者と急ぎの姫騎士


067 : 荒れ野の神・3





「子ども連れだというのでわたしがお相手いたします。お久しぶりね、ブリュンヒルデ」


 え、ヒルデの知り合いか?


「わたくし、ロキの妻でシギュンと申します」


「ええと……不躾な質問で申し訳ないが、ほんとうにシギュンなのか?」


「あら、ひょっとしてうちのが化けていると?」


「ああ、ロキの化けっぷりは北欧神話の中でも随一だからな」


「まあ、悪戯好きで悪さばかりしてきた人ですからねぇ……」


 チリンチリン


 シギュンが鈴を鳴らすと、カーテンの隙間からロキの爺さんが顔を覗かせる。


「呼んだかい?」


「あなた、信用が無いから、あなたが化けてるんじゃないかって」


「アハハ、こういうことはカミさんの方が向いとるでな、他意は無い。いま、お茶の用意をしとるからな、たのんだぞい」


 ロキが引っ込むとお茶のいい香りが漂ってきて、配膳ロボットがお茶を運んでくる。テーブルの傍まで来ると、横っちょから腕が生えてきて「失礼します」と言いながら置いてくれる。ファミレスのよりも進歩している。いや、神さまなんだから、これくらい当たり前か。


「うわぁ( ゜Д゜)!」


 ギギが人の子供らしく歓声を上げる。


「ククちゃんは、お茶は無理よねぇ……」


 ククはまだ乳飲み子だ、さっきもエマは赤ちゃん用の離乳食をやっていた。まだミルクの方がいいようなんだけど、あいにく普通のミルクしかなかったのでほんの少ししか食べていない。


「よし、わたしの母乳をあげましょう」


 そう言うと、ロキの奥さんはドレスの胸のリボンを解いた。


「スグルさま、すこし席をお外しになってくださいませ(^^;)」


「あ、ああ。済んだら言ってくれ(;'∀')」



 俺は、カーテンの向こうに行ってバルコニーに避難した。



「なあに、シギュンに任せておけば問題ないじゃろうて」


 バルコニーにはロキの爺さんが一人で煙草を喫っている。一瞬、先輩の姿と重なってしまった。


「こちらの世界は長いんですか?」


「百年ほどかのう……この世界は管理が甘いのでな、姿こそ隠して居れば咎められることはない」


「ええと……北欧神話の神さまが、なんでまた……」


 ヒルデは追われた挙句に不可抗力でこっちにやってきた、この老神にも事情があるんだろう。


「少々いたずらが過ぎてのう、神々の怒りを買って山奥の洞窟の中で縛りあげられたんじゃ。その上、天井には毒蛇を張り付けおって、そいつの毒がポタリポタリと……いやぁ、神だから死ぬことはないんじゃが、めちゃくちゃ、それこそ死ぬほど辛い。シギュンがの、その毒を鉢に受けてくれて、助けてくれるんじゃが、女房ながら申し訳なくてのう……それでまあ、いろいろあって、この世界に避難できたんじゃ。まあ、その過程で道がついてしまったのか、姪のヒルデまでこっちに来てしまった……あいつ、戦死者の名簿を持って逃げとるじゃろ」


「はい、戦死した者たちをラグナロクの戦いに出すのは可哀そうだと」


「男勝りじゃが、優しい子じゃ。お前さんが付いているのもなにかの縁じゃろ。魔王を倒せば開けてくる道もあると思う、異世界物のお約束じゃからのう、煩わしいかもしれんが宜しく頼む」


「あ、は、はい」


「隠遁の身で何もしてやれんが、これを持って行ってくれ」


「なんですか、これは?」


 老神が差し出したのは、ガチャのカプセル。中身はシリコンのフィギュアなんだろうかグニャッっと詰められていてよくわからない。


「スレイプニルじゃ」


「スレイプニル……主神オーディンの乗馬?」


 たしか八本足で、空も海の上も飛べるという馬だ。


「その仔馬じゃ。玉子と言ってもよい。熟すと金色に輝く、いざという時はそれを使って逃げるがいい。この世界で、スレイプニルほど速く走れるものはおらんからの」


「あ、ありがとうございます!」


「三人までなら乗れるじゃろ。しかし、なんせ八本足、未熟なまま走らせると、足が絡んで転倒してしまう。それと、ククは置いていけ、いっしょに旅をするには赤ん坊では無理だ。シギュンの乳を飲めば懐くじゃろうし、丈夫に育つ」


「それはありがたいです」


 離乳食にはまだ早いようだったので、この申し入れは嬉しい。


「そのぶん、ギギはちゃんと育ててやりなされ」


「はい、もちろん」



 俺たちは、ギギ一人を連れて旅を続けることになった。


 


 ☆彡 主な登場人物


・鈴木 すずきすぐる    三十路目前のフリーター

・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女

・エマ              バンシーのメイド

・女神(甲と乙)         異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち

・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター

・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者

・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い

・トルクビルト(工藤甚一)    ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)

・シャイロック          ヴェニスの商人

・秀を取り巻く人々        先輩  アキ(園田亜妃) 田中

・魔物たち            謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹)

  

 

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