066 : 荒れ野の神・2
待ての勇者と急ぎの姫騎士
066 : 荒れ野の神・2
「ここじゃよ」
そう言って指し示したとたんに、森は大きな屋敷に変わった。
「ギ(;`皿´;)」
怯えて牙を剥く姉の幼体。反射的にエマにしがみ付いている。
「だいじょうぶよ」
「すまんすまん、この子たちはセイレーンじゃったな……ホイ」
爺さんが指を振ると、姉のセイレーンの顔つきが変わった。
「顔つきだけではないぞい」
「あら……背中の羽が?」
「ギ?」
なんだか、普通の幼女になった。
「いちおう人にしてやったが、体だけじゃ。心までいじると障害が出ることがあるからな。ゆっくり付き合ってやるがいい。さ、みんな入ってくれ」
門を入るとアプローチの向こうに観音開きの大戸。近づくと、その大戸も開いて教室ほどのホールがあって正面に階段。
「エスカレーターにしてやってもいいんじゃが、子どもが驚くといかんからのう、まあ、足で上がってくれ……上がって正面の部屋じゃ。わしは準備をするから、まあ、寛いでいてくれ。あ、子どもには名前を付けたやった方がいいのう……姉がギギ、妹がククじゃ」
「ギギ?」
意味が分かったのか自分と妹を指さす。
「そうじゃ、それで、少しずつじゃが、スマホのアプリを使わんでも話ができるじゃろうて」
そう言って微笑むが、ギギは唸りこそしないがエマの後ろに隠れてしまう。
「……今度は自分で開けなきゃならないようだな」
カチャ
ヒルデがノブを回して部屋に入る。自動で開いてしまってはギギとククを怯えさせるからだろう。爺さんの配慮なのか、ひょっとして家自身が学習しているのか。
とりあえず、中央に置かれたテーブルに向かう。
「指定席になっております、ギギはこの席みたいね」
「ギギ?」
「ほら、ここに書いてあるのがギギの名前よ」
「ギ(^▽^)」
椅子にはそれぞれの名前が書いてある。こういう広くて立派なところでは、気後れや警戒心が先に立ってしまう、指定席になっているのは、やはり気づかいだろう。ギギの席はエマの横、ファミレスなんかにある幼児用の椅子だ。ククはエマが抱っこして座った。
「神さまって言ってたけど、なんなんだ、あの爺さん?」
「ロキという神さまだ……義理の叔父にあたる」
「え、ヒルデさまの叔父様なのですか?」
「父と義兄弟でな、力のある神だ。すぐには分からなかったが、オーラがな……『元気にしているかヒルデ』と言ってきた」
「以心伝心でございますか?」
「神の言葉だ、常人には分からん。力も強い、けして挑発などせんようにな」
「そうか、気の優しい爺さんに見えたが」
「制御しているんだ、じつはとんでもない力を持っている……そうだろ、二人とも、一度言われただけで、姉妹のことを名前で認識しているだろ」
「「あ」」
「本人にその気はないのかもしれないが、神の言葉には強い力がある。くれぐれも侮ったりしないようにな」
「はい」「おお」「ハイ」
「え、ギギ、いま『ハイ』って言ったか?」
「エ……ア、ハイ(^^;)」
「俺のこと分かるか?」
「スグル」
「そっちは?」
「エマ」
「じゃ、こっちは?」
「ヒリュデ」
「「おお!」」
進歩早すぎ! エマと二人でビックリした!
「半分以上はロキの力だ」
「魔法でございますか?」
「神は魔法など使わん、意思だ。そうあれかしと思ったことが力になって全てを支配する。気を付けた方が……」
『いいわよねぇ……』
突然の声に振り返ると、入り口に淡いグリーンのドレスを着た美女が立っていた。
「言い忘れたが、ロキは変身の名人だ」
「「「え……?」」」
とっさには意味が分からなかった。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹)




