065 : 荒れ野の神・1
待ての勇者と急ぎの姫騎士
065 : 荒れ野の神・1
正直、途中で居なくなってくれればと思った。
小学校に入ったばかりのころ、ゴールデンウィークのちょっと前、学校の帰りに子猫を拾った。三里ちゃんといっしょだったので二人の気持ちが掛け算になって拾ってしまったんだ。どちらか一人だったら拾ってはいない。家に連れて帰って、うちも美里ちゃんのところもNGだった。「もう、仕方ないんだから……」とお袋が言って、子猫は居なくなった……。
ヒルデが先頭、続いて俺。エマが最後尾で、俺とエマの間をセイレーンの幼い姉妹。
言い出した俺が面倒見るのがスジなんだろうけど、最初に剣を突き付けたせいか、怯えてしまうのでエマが付いてくれている。
三度目に振り返ったとき、エマが赤ん坊を抱っこし、姉はその横に付いて歩いている。四歳児の体格ではいつまでも抱っこしていられないんだろう。姉はエマのスカートを掴んでいる。懐いているのではなく、いつでも妹を取り返せるようにだろう、目は険しいままだ。反対側の右手には羽を三本握っている。母と二人の姉の羽だ。
「ちょっと待ってください」
エマが声を上げる。
「身づくろいをさせてやろうと思います」
見ると、姉の足に血がにじんでいる。幼体なのでセイレーンとしての体ができていない。翼は肩甲骨のあたりから五センチほど生えているだけだし、足もまだ半ば以上人間の足だ。裸足では、そうそう歩けないんだろう。ただ、獣の本能もあるので弱みを見せず、血をにじませても平気な顔をしていたんだ。
ブブン!
ヒルデがオリハルコンを振るって草を一薙ぎすると六畳分ほどの空き地ができて、小休止。
「……よし、これで楽になるわ」
タオルを割いて、簡単な靴を作って見せてやる。「いっしょ、いっしょ」と言って自分の靴を示すと、大人しくされるままにしている。「クークー」と妹の足を指さす。
「うん、妹にも履かせてやろうね」
ほとんど瞬間で赤ん坊用の靴を作って妹の方にも履かせてやる。それから、自分のメイド服と同じ色の布を出して、自分の服と布を示し姉の体にあてがってやる。
「ギ?」
「服を着よう、エマといっしょ、いっしょ」
「ギギ」
「見てなさい……」
裁縫箱を出したかと思うと、一分もかからずに簡単なワンピースを作ってしまった。ワンピースの胸には姉が握っていた家族の羽を少しとってエプロンに縫い付けてやる。そして残った羽根は共布で肩掛け袋を作ってやって、そこに収めて肩からかけてやる。
ざっくりとだけどもエマと同じ服になったので、大人しくなったというか、少しだけ表情が柔らかくなった。
「だれか来るぞ……」
ヒルデが草原の向こうを指さした。
草原に潜望鏡?……と思ったら杖の先だ。それがヒョコっと上がると爺さんの首。向こうも、こちらを確認するためにジャンプしたんだ。
「ウッヒョー、子連れの冒険者とは珍しいのぅ」
髪の毛を抜いてしまえば、どこかフンメルを思わせる爺さんだ。
「子供ではないぞ」
「分かっておるよ、女騎士どの。セイレーンの幼体じゃの」
「ご老人、このあたりの者なのか?」
「おお、この先の森に住んでおる。よかったら休んで行かんか、ハイデベルクまでは三日ほどあるが家らしい家はないぞ」
「……そうだな、靴は履かせたが、三日はもたないだろう。お世話になろうか」
俺たちにはキャンプの用意がある。あっさり乗ってしまうヒルデに——あれ?——と思ったけど、セイレーンの姉妹もくたびれている。まあ、いいか。
前に出るとき、ヒルデがポツリと言った。
「あのお方は神だ、大人しく付いていった方がいい……」
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人)




