064 : セイレーンの幼体
待ての勇者と急ぎの姫騎士
064 : セイレーンの幼体
「こいつ、セイレーンの幼体だ!」
ズチャ ビシ ブン
ヒルデが気付いて、俺たちは得物を構えながら飛び退った!
ガルルルル……
大きい方がささやかな牙をむいて唸るけど、八重歯と変わらないし、なによりも小さいのを抱っこして怯えているのがむき出し。
得物の構えを緩めて、様子を見た。
大きい方は四歳ぐらい、正面から見て僅かに翼が見える程度で、まだ空は飛べないだろう。
小さい方は生後十か月といったところ。こいつは人間の赤ん坊と変わりがない。怯えた表情で目を見開き、声も立てない。
「大きいのは自分が切る、小さいのはスグルがやれ」
「待ってくれ」
「ん、こいつら害獣だぞ」
「こんな人間の姿したやつ切れないぞ」
「ニ三年もすれば成獣、また人を襲う」
ギエーーギエーー!
吠えてる顔はいかにも獣……だけど、目に涙を浮かべてやがる。
「ちょっと待ってくれ……」
ダメもとでスマホの『動物の気持ち』のアプリを立ち上げた。取引先の社長が動物好きで、付き合いのために入れたアプリだ。
「おまえたち、さっきのセイレーンの子供か?」
ダメもとで聞いてみた。
ウンともスンとも言わないスマホだったが、五秒ほどのタイムラグで翻訳してくれる。
『オマエラ、カアサンネエサン、コロシタ……』
「「「え!?」」」
言葉が通じて、思わずガン見してしまう。
『ギエーーギエーー(;○皿○)!!』
牙をむいてきやがるけど、溢れる涙と涎は人間だ、人間の子供だ。
『イモウト、コロスナ!』
五秒のタイムラグで返ってきた言葉に胸が詰まる(;'∀')。
こんなの、ゼッテー切れねえ。
「めんどうなことをしたなぁ……まあいい、こいつらは幼体、人を襲う力も無いだろう。行くぞ」
「待ってくれ」
「飢えているようだ、二日も持たんだろ」
「いや、そうじゃなくて」
「え?」
「スグルさま!?」
「エマのストレージにミルクとか離乳食はないのか?」
とりあえず、セイレーンの子供を助けてしまった……。
「やれやれ……助けたのはいいが、どうする。こいつらに捕食能力はないぞ。二日で死ぬところが四日、せいぜい五日に延びただけだ」
「水を残してやれば七日か十日はもつでしょうが」
「飢えが長引いて苦しませるだけだぞ……」
「…………(-_-;)」
「スグルさま……」
「仕方がない、少し面倒だが、別のセイレーンを見つけて預けよう。成獣なら無理だが、まだ幼体だ、受け入れてくれるだろう。わたしがやる、スグルはエマといっしょに先に行け」
「ヒルデ……」
「なに、ここらへんをうろついていたら、すぐに他のが襲ってくる。そいつらに押し付ける。ハイデベルクに着くまでには追いつく。それでいこう。おい、付いてこい」
声をかけるが、怯えた幼体は妹を抱いて後ずさりする。
「やれやれ……」
ズチャ!
「それとも、ここで殺されたいか?」
ギ(;`皿´;)!?
「待ってくれ、ヒルデ!」
「怯えて、おしっこ漏らしてます……」
「連れて行こう。そのうち、向こうの方から見つけてくれるだろうし。な?」
「「……………」」
俺たちの旅は子連れになってしまった……。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人)




