063 : セイレーン
待ての勇者と急ぎの姫騎士
063 : セイレーン
セイレーンとは半鳥半人の魔物のことだ。
鳥の部分は猛禽類、人の部分は無残なことに女だ。
能力の高い奴は人にも化ける。まあ、半分人間なんだから、そう難しいことでもないんだろうけどな。
『ローレライ』って歌に出てくるだろ。
な~じかは知らねど~ 心わびて~昔の伝えはそぞろ身にしむ~♪ って歌だ。合唱部とかじゃ定番の練習曲になってるらしい。
ライン川を船で行くと、岩に美しい女が居て美しい声で歌うんだ。それに曳かれて船を近づけると船は岩礁にぶつかって粉々、乗ってる奴は波にのまれて死んでしまうって話だ。その歌を歌ってるのがローレライって妖精。あれがセイレーンだって合唱部の部長が言っていた。
十匹近くいると思ったんだが倒してみると三体。すばしっこく飛んでいたから多く見えたんだろ。
「もう少し現れるのが早かったら、ビアンカたちが襲われているところだったな」
「……ウ、もう腐り始めてきたぞ」
三体のセイレーンは、見る見るうちに羽が抜け、体は茶色くなって萎んで煮干しのようになってしまった。
「飢えていたんですね……わたしたちを襲うのに最後の体力と魔力を使ってしまって……危ないところでした」
「そうだな、飢えた猛獣は時に十倍の力を出すというからな……」
「では、なぜ、ビアンカとカリーナではなくて、わたしたちを襲ったのでしょう。こちらは三人、ビアンカたちは二人、わたしたちを襲うよりも容易いでしょうに……」
「三人だからだ、一度の襲撃で得られる肉の量はビアンカたちの倍近いだろう。それに、ビアンカたちとは、まだ距離が離れていない。手間取れば、我々が気づいて助けに行くだろうからな……行くぞ」
「待ってくれ」
「どうした?」
「魔物とはいえ、ちょっと哀れだ」
俺は、自分のスキルを確認し、50キロまでの運搬魔法が使えるのを確認して、三つの遺体を一か所に集めた。
「わたくし、穴を掘ります!」
理解してくれたエマが、魔法で道端に穴を掘り始める。ヒルデは「やれやれ……」と言いながらも「身の丈ぐらいには掘らないと獣どもが掘り返すぞ」と言って、俺たちを手伝うのかと思ったら、原っぱの方から一抱えほどの花を摘んできた。
「今回だけだぞ、いちいちやっていたら先に進めんからな」
「すまん」
花を添えて葬ってやり、静かに手を合わせた。エマは真面目に、ヒルデは瞬間ためらったが、それでも俺に合わせてくれた。
「なにか祈ってやったのか?」
「ああ、こんど生まれてくるときは人に生まれてこいってな」
「まあ、スグルさま!」
「……行くぞ」
「ああ」
墓を後にして、少し行くと草むらに気配!
ズチャ ビシ ブン
三人そろって得物を構える。
構えた先……赤ん坊を抱いた四五歳の女の子が震えてうずくまっていた……。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人)




