四十五日目
今日、フェリシティはモンロン男爵邸に戻る。兄の結婚式のためだ。
兄の結婚式は明後日行われる。
本当はドレスは社交のためにと何着か作ったドレスの中から選ぶ予定だったが、ウィリアムがプレゼントをしてくれることになった。
四日間でドレスが出来上がるのかという不安はあるのだが、どうやらすでにデザインと型は出来上がっているようだ。後はフェリシティのサイズに合わせるだけらしい。
「ドレスはもうすぐ完成すると聞いてるから心配しなくても大丈夫だよ」
人間には獣の表情が分かるはずもないのだが、ウィリアムはフェリシティの心を読み取ってくれる。なぜ分かるのだろうか。
それはフェリシティの耳や尻尾を見れば一目瞭然だ。嬉しいときはパタパタと揺らし、悲しいときはぐったりと垂れる。これほど分かりやすいのはフェリシティくらいだ。
「可愛いね、フェリシティは。そんなフェリシティのエスコートをさせてほしい」
(え?)
驚いてじっとウィリアムを見つめてしまった。エスコートをさせてほしいと言ったのだろうか。
ウィリアムの幼なじみの女性はいいのだろうか。
(あ、そっか。うちと彼女の家は交流がないから呼ばれてないから……)
きっとエスコートとの相手がいないフェリシティを哀れに思ったから、ウィリアムはそう提案したのだろう。そうでなければ説明できない。
“好きだから” そんな理由だと勘違いしたくない。勘違いをして、ウィリアムが他の人と結ばれるのを見てしまえばフェリシティの心は潰れてしまうだろう。
(きっとウィリアム様にとって私はペットのうさぎのままだわ……)
それは酷くフェリシティの心を傷つけた。最初から分かっていたはずだ。ずっと分かっていたことではないか。
それにも関わらず、涙が出てきてしまいそうだ。もうこの気持ちは止められない。溢れにあふれてしまった。
「フェリシティ? 大丈夫かい?」
ウィリアムが心配そうにフェリシティを見つめた。
「どうすれば笑顔になってくれるかな。フェリシティにはずっと笑顔でいてほしい」
そう言うと、どこから取り出したのか、ウィリアムは三本の真っ赤な薔薇を差し出した。
「これで笑顔になってくれるかい?」
また真っ赤な薔薇だ。それも告白の意味を持つ三本の薔薇を渡すとは。
本当にウィリアムは何も思っていないのだろうか。
「僕の気持ちはこの薔薇と一緒だよ」
(それってどういう……)
ピタリと涙は止まり、部屋に響き渡るほど心臓が高鳴り始めた。期待してもいいのだろうか。
「僕にエスコートの相手を務めさせてほしい」
フェリシティはその答えが知りたくてコクリと頷いた。それを見たウィリアムが嬉しそうに笑うと、ギュッとフェリシティを抱きしめたのだった。




