四十四日目
ウィリアムに獣人だとバレてから三日目、フェリシティはウィリアムにブラシをかけられていた。
バレたからと言ってウィリアム邸で人間に戻れるはずもない。
昨日は一度ウィリアム邸の外に出て、人間に戻ってから再びウィリアム邸に入った。ウィリアムは服を持っていくことを命じたが、誰にもバレないようにアンナが一度帰省するという名目で鞄に隠して持ってきたのだ。
そのため、ウィリアム邸にいる人たちはフェリシティが獣人だということを知らない。だから、フェリシティは人の姿ではいられないのだ。
『気持ちいい』
ウィリアムはブラシをかけるのが上手く、フェリシティを虜にする。
「フェリシティ、君の毛並みはどうしてこんなにもきれいなんだろね」
突然褒められたので、フェリシティは全身を熱くした。バレていないときならまだしも、バレているときに言われてしまうと勘違いしてしまう。
ウィリアムはどうして思わせぶりな態度を取るのだろう。
「そういえばフェリシティに渡したいものがあったんだ。ちょっと待ってね」
ウィリアムはどこか別の部屋に行ってしまった。
何を持ってくるのだろうか。フェリシティはドキドキと胸を高鳴らせた。
少しするとウィリアムが帰ってきた。その手には真っ赤な薔薇が何本かある。
(また、薔薇……)
本当にウィリアムはフェリシティのことを何も思っていないのだろうか。何度も薔薇を贈られれば気があるのではと思ってしまう。
しかし、肯定はできない。平凡で何も取り柄がないフェリシティが好かれるはずもない。完璧で優しいウィリアムがフェリシティを選ぶはずもない。
もし肯定して振られてしまったら、フェリシティには耐えられそうにもない。そんな思いをしたくない。だから、フェリシティはウィリアムは自分のことをペットだと思っていると思うようにしているのだ。
「以前花屋に寄ったとき、この薔薇を見つけたんだ。冬に咲いているなんて珍しいだろう? だからフェリシティを見せたかったんだ」
“花屋に寄ったとき” 何故花屋に寄ったのだろうか。
(ああ、そうか。きっとあの女性に贈るためね……)
あの女性――ウィリアムの幼なじみである女性だ。婚約間近のようだったので、ウィリアムは花を贈ったのだろう。
何度も何度もナイフで心臓を抉られたような痛みを覚えたが、フェリシティは知らないふりをした。逆にウィリアムが自分のことを好きなどと勘違いしなくて良かったと思うようにした。
「綺麗だろう。はい、どうぞ」
(一、二、三、四、五、六、七、八、……九。今日は九本……)
九本の薔薇の意味を知っているのだろうか。きっとウィリアムは知らないだろう。
花言葉は女性の間では人気だが、男性は花言葉を知らない。ウィリアムもそうだろう。
(ウィリアム様の将来が決まっている、あの女性が羨ましい……)
何か奇跡がない限り、フェリシティとウィリアムの将来はない。だから、ウィリアムの幼なじみの女性が羨ましくて仕方ないのだ。
彼女はフェリシティの欲しい物全てを持っている。容姿や身分、種族も。
フェリシティの中にドロリとした真っ黒な感情が生まれた。




