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四十三日目




「ではよろしくお願いしますね!」


 以前ウィリアムの服を仕立ててくれた仕立て屋がやって来た。仕立て屋の店員は皆、キラキラとした目でフェリシティを見つめている。


「よ、よろしくお願いします」


 フェリシティはそれに圧倒されながら返事をした。


 今日、フェリシティは実に二十五日ぶりに人の姿に戻っていた。うさぎの姿で何度もこの部屋にいたはずだが、何故だが緊張してしまう。


 ウィリアムは約束通り、フェリシティの人の姿を見ていない。ウィリアムはうさぎから人の姿に戻ったときに服を着ていないフェリシティのためにドレスや下着を用意するように命じただけだった。


 本当にフェリシティの兄の結婚式で人の姿が見られるのだろうか。


 見てほしいような見てほしくないようなそんな気持ちだ。フェリシティを見て落胆してしまうかもしれない。しかし、ウィリアムに自身の本当の姿を見せたい気持ちは強い。


「それにしても、キャメロン伯爵様が女性をお連れになるだなんて!」


 店員たちはきゃあっとでも言いたげにフェリシティを見つめた。一方でフェリシティは耳を疑った。


(ウィリアム様は女性をお連れしたことがない……?)


 ウィリアムの幼なじみもだろうか。彼女は両家の親にも認められているのではなかったか。


 彼女のことを考えると、自分が劣っていることがはっきりと分かる。そして、ズキズキと胸が痛んだ。まるで刃物で心臓を刺されたように。


 分かっていたことではないか。


 ウィリアムは誰もが結婚したいと思うほど素晴らしい男性だ。そんな人が平凡でただの男爵令嬢であるフェリシティを選ぶはずがない。


(何よりもウィリアム様とあのお方はお似合いだわ。それに比べて私は……)


 端正な顔立ちのウィリアムと人形のように美しいウィリアムの幼なじみはおとぎ話に出てくる王子様とお姫様だ。フェリシティはそれを見守る脇役といったところだろう。


 悪役にすらなれない。同じ土俵にすら立てない。


 ウィリアムのことが好きでいてもこの思いが返ってくることはない。


「では測らせていただきますね!」


 すでにフェリシティの体を測る準備ができたようだ。フェリシティは指示された通り体を動かす。


 その間もウィリアムのことを考えるのは止まらない。


(こうやってドレスを作ってもらえるのは特別なんかじゃないわ。ウィリアム様も言っていたじゃない)


 そう思わないともっと辛くなってしまいそうなのだ。ウィリアムがフェリシティに対して持つ思いはペットに対する気持ちと同じようなものだろうから。


 ウィリアムにはすでに相手がいるのだ。両家の両親が認める、何もかも優秀な女性が。


「失礼いたします」


 フェリシティが少し休憩をしていると、部屋に侍女が入ってきた。侍女は真っ赤な薔薇が生けられた花瓶を持っている。


「これをフェリシティ様に、とウィリアム様が」


 侍女はフェリシティの近くにある机に薔薇を置くと、部屋を出ていった。


(また、薔薇……)


 この赤い薔薇にはどんな意味があるのだろう。


 最初は「あなたしかいない」という意味を持つ一本の赤い薔薇だった。二回目は「この世界は二人だけ」という意味の二本の薔薇、獣人だとバレた一昨日は「あなたに出会えたことの心からの喜び」だ。そして今日は六本、つまり「あなたに夢中」だ。


 ウィリアムは薔薇の意味を知っていて渡しているのだろうか。それとも、ただ単に美しいから贈っているのだろうか。


 これほど頻繁に贈られれば、ウィリアムも自分のことを好きなのではないかと勘違いしてしまう。


 心はそんな未来を想像しては嬉しさで満たされていくが、頭ではそんなことないと否定し続けるのだった。




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