四十二日目
「おはよう、フェリシティ」
上半身だけ体を起こしながらフェリシティを撫でるウィリアムを見て、フェリシティは疑問に思う。
なぜ、ウィリアムの部屋で寝ているのか、と。
フェリシティは昨夜、当たり前のようにウィリアムの部屋で寝た。まるでバレてしまったことが嘘のように。
バレしまった以上、さすがに一緒に寝られない。一応フェリシティは年頃の女性なのだから。しかし、ウィリアムはフェリシティを自身の部屋に連れてきては一緒に寝ることを強要した。
フェリシティは嬉しい気持ちでいっぱいだった。ウィリア厶が傍にいてくれることは気分を高揚させる。
「僕はずっと前からフェリシティが獣人だと知っていたわけだし、ずっと一緒に寝ていただろう?」
眉を下げてそう言われてしまえば、頷くことしかできない。恥じらいもなく寝ていたのは事実だ。
今はもう、ウィリアムの温もりなしでは寝られない。
「そう言えば、フェリシティの兄君――オスカー殿が結婚するんだってね? その日にフェリシティの人の姿を見られるかな」
フェリシティがウィリアムに人の姿を見せたのは実家に帰った日に行ったパーティーだけだ。だから、正直言えば人の姿を見せるのは恥ずかしい。
人間から見れば、どんなうさぎでも可愛く見えるだろう。しかし、フェリシティは平凡だ。どちらかと言えば可愛い方かもしれないが、うさぎのように誰からも可愛いと称賛されることはない。
「ドレスを贈りたいんだけど、いいかな?」
(え?)
フェリシティはウィリアムの発言に驚き、目を丸くする。
“ドレスを贈る” その行為は重大な意味を持つ。
ドレスを贈るのは普通、婚約者あるいは恋人だ。ドレスを贈る相手は特別であり、他の人に男性が自分のものだとアピールするようなものである。
(そんなことしてしまったら婚約していると勘違いされてしまう……)
別にフェリシティは勘違いされてもいい。ウィリアムが好きだから。しかし、ウィリアムはそうではないだろう。
将来有望のウィリアムが貴族の末端であるフェリシティと婚約していると噂されれば、ウィリアムの足を引っ張ってしまう。
「大丈夫だよ。昔は婚約者や恋人が贈ることが多かったけれど、今はそうでもないんだ」
フェリシティが心配そうに見る目を見てか、ウィリアムはそう言った。
「僕はフェリシティに感謝の気持ちを贈りたいんだ。フェリシティが来てから毎日楽しいからね」
フェリシティはそうなのか、と思った。フェリシティはそれほど貴族のマナーのようなものに詳しいわけでもない。また、まだ二回しかパーティーに参加したことがない。だから、そういうことをよく知るウィリアムが言うのなら大丈夫だろう。
「よければ明日、採寸をしてほしい。僕は別の部屋にいるから、フェリシティの人の姿は見ないようにする。オスカー殿の結婚式の日を楽しみにしているよ」
にっこりとウィリアムはほほえみながら、フェリシティの頭を撫でた。
フェリシティはその手が気持ちよくて自身の頭を擦り付けるも、心の中は嬉しさと動揺、そしてほんの少しの不安でいっぱいだった。




