三十二日目
熱が下がって二日目、今日もフェリシティはベッドの上にいた。まだベッドから離れることを許されず、ただぼーっとしている。
今日もウィリアムは出かける予定がないので、フェリシティのところにいる。
(もう治ってるのに……)
今日もまだ雪が降り積もっており、フェリシティは外で遊びたいのだ。モンロン男爵邸にいる頃ははしたないからと雪の中で遊べなかった。
しかし、今は誰も咎めない。こんな時に風邪になってしまった自分が憎い。
「フェリシティ、どこへ行くんだい?」
ウィリアムが部屋を出ていったのでその隙に動こうと思ったのだが、すぐに戻ってきてしまった。ウィリアムの手にはブランケットがあり、それを取りに寝室の隣りにあるもう一つのウィリアムの部屋に行ったのだろう。
フェリシティはすぐにウィリアムに捕まった。
「今日は少しベッドから離れようか」
ウィリアムは暖炉の近くの椅子に座り、自身の膝の上にフェリシティを乗せ、その上にブランケットをかけた。ベッドよりも温かいので、うとうととしてきた。
「フェリシティ、君はどうしてこんなにも可愛いんだろうね」
うさぎの姿になってから幾度となく言われた言葉だが、やはりまだ恥ずかしい。また、ウィリアムはフェリシティの好きな人であり、好きな人からの褒め言葉は特別なのだ。
「ずっと一緒にいてね」
何故だがそれが切なく聞こえた。ほんの少しだけウィリアムの声が震えている気がした。何度も一緒にいてと言われたが、いつにも増して懇願するような声音で伝えた。
(ウィリアム様?)
フェリシティは心配そうにウィリアムを見つめた。ウィリアムの目の奥は泣いている気がした。
「もしかして心配してくれているのかい? すまないね。……こんなに雪が降っている日はあの日を思い出してしまうんだ」
(あの日……?)
あの日とはいつの話だろうか。恐らく随分昔のことだろうが、辛そうな顔をするのはその日のせいなのだろうか。
「……大切で今でも生きていてほしいと思う人が事故に合って……そのまま天に召されてしまったよ」
フェリシティは言葉を失った。まさか人が死んでいるとは思いもしなかったのだろう。だから、胸が痛んだ。そして、それと同時に悲しみで苦しくなった。
(今でも悲しむほどウィリアム様が大切にしていた方……)
フェリシティが思い浮かべたのはウィリアムの好きな人だ。決まったわけではないが、そうとしか思えない。
もしかしたらフェリシティを飼ったのは傷が癒えていなかったからかもしれない。悲しみをうさぎのフェリシティで紛らわせようとしようとしたのかもしれない。
そう考えるとフェリシティの心臓は握りつぶされてしまうのではないのかと思うほど痛くなった。こんなうさぎの姿ではウィリアムに恋愛対象にも見られないと分かっていたはずなのに。
「でももう大丈夫だからね」
ウィリアムはそう言ったが、まだ悲しそうだった。
本当はここで悲しむべきだろうができなかった。フェリシティは死んで尚、ウィリアムに大切にされているその人が羨ましくて仕方なかった。




