三十日目
(雪だ!)
今日は一段と冷えるなと思っていると、パラパラと雪が降っていた。今年、初めて降った。夜中に大分降ったようで、雪が積もっている。
ウィリアムの領地に行ってから再びウィリアムと一緒に寝ている。恥ずかしくて中々眠ることができないが、特別だと言われているようで嬉しく感じていた。
今、フェリシティはウィリアムの部屋にいる。いつもは寝坊助のフェリシティが雪のためか、いつもより早く起きているので、まだウィリアムは起きていない。
ウィリアムの部屋は窓の鍵がかかっていない。これは少しだけ雪を触るチャンスだ。
フェリシティは小さな手で大きな窓を押して開け、外に出た。やはり外は寒いが、なぜか興奮して中に入ろうとは思わない。
「フェリシティ様、今日は逃げないでくださいよ」
にょきっと騎士たちが現れた。フェリシティは彼らの突然の登場にビクッとなる。
「こんな寒い日に探し出すのは勘弁ですから」
彼らはブルブルと体が震えている。騎士たちはウィリアム邸を守っており、ずっと見回りをしなければならない。交代制と言えども、長時間寒い中にいないといけない。防寒着を着ているが、それだけでは持たないのだろう。
(ご、ごめんなさい……)
フェリシティは心の中で謝った。罪悪感でいっぱいなのだ。
「それにしても朝が早いですね」
「フェリシティ様も雪が好きなんですかね」
騎士はそう言うと、雪を丸め始めた。せっせっと何かを作っている。
「フェリシティ様はここに座って……と」
騎士はフェリシティを何かの隣に並べた。低めの姿勢で座らされたのでお腹が雪に当たって冷たい。
「見てください! 雪うさぎですよ!」
騎士は雪でうさぎを作ったようだ。アッシュグレーと白で色は真反対だが、何だか似ている気がする。まるで姉妹のようだ。
「何をしているんだい」
暖かい格好に着替えを済ませたウィリアムが外にやってきた。
「おはようございます! 見てください、フェリシティ様と雪うさぎを!」
ウィリアムは姉妹のように並ぶフェリシティと雪うさぎを見た。とても可愛い。
「可愛いね。だけど、寒くなってしまうからおいで、フェリシティ」
ウィリアムはフェリシティをそっと抱き上げた。そのとき――
くちっ!
(さ、寒いわ……)
寒くてくしゃみが出てしまった。フェリシティは温もりを求めてウィリアムにより密着する。
「部屋の中に行こう」
ウィリアムは焦ったような声で部屋の中に入っていった。後ろでは心配そうにフェリシティを見る騎士たちがいた。
その日、フェリシティはベッドから離れることができなかった。体が熱くて苦しくて動くこともできないでいた。
数時間前までは元気だったのにも関わらず、突然熱を出した。
苦しそうなフェリシティを見てすぐに医者を呼んだ。医者はただの風邪だと判断し、薬を出した。しかし、ウィリアムや使用人たちは一向に良くならないフェリシティを見て、何か悪い病気にかかってしまったのではないかと心配している。
(苦しいよ……。助けて……)
風邪になってしまったフェリシティは体が溶けてしまうのではないかと思うほど熱くなっていることを感じていた。そして、それに伴って頭がズキズキと痛み、息もしづらくなる。
医者は薬を飲んで寝ると良くなるでしょうと言っていたのがぼんやりと聞こえたが、熱さと苦しさで眠れそうにもない。
(……死んでしまうの……?)
フェリシティはそう思い始めた。それほど苦しくて終わりが見えないのだ。
(まだ……していないこともいっぱいあるのに……。ウィリアム様ともっと一緒にいたいのに……)
死ぬかもしれないと思うほど辛い時に真っ先に思い出したのはウィリアムだった。あれほどウィリアムと関わりを持たないようにとしていたのに、これほど大きな存在になってしまうとは。
(ああ、そっか……。何でウィリアム様と会えなくなるのが辛いのか分かった)
こんなに頭が痛くて息苦しく、体が熱くて何も考えられない時でさえ、ウィリアムの苦しそうな顔を見ると胸が締め付けられる。頭だけではなく胸まで痛くなる。
もうその答えを理解した。
好きだからだ。ウィリアムのことが好きなのだ。
(ずっと、ずっと私は――)
眠れないと思っていたが、薬のおかげか、睡魔が襲ってきた。起きたときに苦しさがなくなっていますように――そう願いながら、意識を手放した。




