二十六日目
今日は流星群が見れる日だ。フェリシティは朝からウキウキとしている。
フェリシティは一度も見たことがない。だから、夜になるのが待ち遠しい。
どうやらウィリアムは幼いときに一度だけ見たことがあるようで、星が落ちてくるようだったと言っていた。
そんな情景は全く予想もできない。微動だにしない星が落ちてくるなんて、信じられない。そして、それはどれほど美しいのだろう。
待ち遠しく感じるほど日は長く感じるもので、まだ起きてから一刻ほどしか経っていない。チラチラと時計を見ては落胆する、そんな様子だ。
『全然時間が進まないわ』
今、アイラは休みでこの場にいないので、アンナしかフェリシティの部屋にいない。だから久しぶりにアンナと会話をしている。
「何かされますか?」
アンナは声を潜めた。以前、普通の声量でフェリシティと話していたとき、アイラに独り言かと尋ねられた。あのときはどうにかなったが、今後バレるかもしれない。
本当はフェリシティと話さないことが良いのだろう。しかし、フェリシティがずっと誰とも話さないのも心に影響するかもしれないと危惧したので、こっそりと話すようにした。
『ウィリアム様はお仕事よね……』
フェリシティはしゅんと落ち込んだ。
ウィリアムは旅行した三日間と昨日は一度も仕事をしていない。だから、今日は仕事をしなければならず、まだ朝なのに書斎から出てこない。
『ボール遊びはどうかしら?』
「ダメです」
アンナがぴしゃりと言った。まさかそう言われるとは思っておらず、あんぐりとなった。
「以前はアイラがいた手前、言うことができませんでしたが、ボール遊びは貴族令嬢としてはしたないです。確かに今はうさぎですが、人に戻ったときに後悔しますよ」
確かにはしたない。それは常日頃、フェリシティも思っていた。しかし、ボール遊びの楽しさを知ってしまったので戻ることができない。何度もボール遊びをしてしまう。
『じゃ、じゃあ、何をすればいい……?』
ボール遊び以外、フェリシティは思いつかない。果樹園に行くことも考えたが、もうりんごが収穫されたことを思い出し、悲しくなった。だから、当分は行かないでおこうと決めているのだ。
「ダンスはいかがですか? ダンスでしたら今後に役に立ちます。ダイエットにも、ですね」
フェリシティは渋々やることにした。やりたくはないが、ダイエットのためと言われればやるしかない。人に戻ったときに後悔しないように。
その後、フェリシティはダンスのレッスンをアンナから受けた。うさぎの姿でのダンスは難しくて、何度もぽて、ぽてと転んだ。
もう止めたい、と思ったが、鬼教師のアンナが止めさせてくれるはずもなかった。
時間はあっという間に過ぎていったものの、うさぎでのダンスの時間は地獄のようなものだった。その反面、終わったときの解放感は果てしなかった。
「ここからならよく見えると思うよ」
フェリシティは普段は入ることもないとても広い二階の部屋のバルコニーに出ている。バルコニーには椅子と丸机が一つずつ置かれて、机の上には紅茶が入ったコップが一つある。
ウィリアムは椅子に座り、ウィリアムの膝の上にフェリシティが座っている。外は寒いので、ブランケットがかけられている。
(まだかな? まだかな?)
フェリシティは子どものようにそう待っていた。しかし、いくら待っても流星は見えない。
「今日は月が明るいから見えないのかもしれないね」
今日は月がいつも以上に明るい。それはもう、流星群を見せないようにしているみたいだ。そんな月が今日だけ憎く感じてしまう。
一刻、また一刻と時間だけが過ぎていく。月はその明るさを保ったまま、動いていく。
(見れないのかな……)
寒い季節なのでこれ以上外に出てしまえば風邪を引いてしまう。落ち込みながら部屋の中に入っていこうとするとき――
『わぁ!』
星が何度も落ちては消えていく、そんな流星群が見えた。偶然、月が雲に隠れ、流星が見えるようになったのだ。
流星は話に聞いていたよりも美しく、言葉に出来ない。こんな素晴らしいものを見ることができる自分は幸せだ。
また月が現れ、流星は見えなくなってしまった。
ほんの一分ほどしか見えていないだろうが、その時間が永遠にも感じられた。それほど集中していた。夢中になっていた。
(今夜は良い夢が見れそう)
そう思いながら、フェリシティはウィリアムの隣で眠りについた。興奮で眠れないと思ったが、昼間の疲れのためかすぐに夢の中に入っていった。
「いつ…………た……僕……本当の……見…………」
誰かが夢の中で何か言ったような気がした。




