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二十五日目



(や、痩せなきゃ。痩せなくちゃ……!)


 フェリシティは本気でダイエットを決意した。


 そもそもフェリシティがそう思った理由は朝に巻き戻る。


「フェリシティ、おはよう」


 昨夜、フェリシティは馬車の中でずっと寝ていたようで、朝まで一度も起きなかった。どういうわけか、目を覚ますとウィリアムの部屋にいた。


 フェリシティ自身の部屋はあるものの、昨日はウィリアムのベッドで久しぶりに寝たようだ。


 おそらく、三日間フェリシティとウィリアムは同じ部屋で寝たからだろう。もしかすると、ウィリアムも一人で寝ることが寂しいのかもしれない。


「いい夢は見られたかい?」


 ウィリアムはそう言いながらフェリシティを抱き上げた。そして、もふもふを堪能する。


「近頃は本当に触り心地が良い。ずっと触っていたいくらいだ。前は痩せ過ぎていたから、良かった」


 いつもなら褒められているようで嬉しく感じるだろうが、今は違った。遠回しに「太った」と言われているような気がするのだ。


 確かにフェリシティは太る生活をしている。食っては寝ているからだ。遊んではいるが、体力を消耗するような遊びではなく、ゴロゴロとしている方が多い。


 フェリシティは危機感を覚えた。


 ウィリアムに呆れられるかもしれないという怖さと人間に戻ったときにどうしようもないくらい太っていたらという恐怖があるのだ。


(痩せなくちゃいけない!)


 今日からダイエットだ。大好きなりんごも梨も禁止だ。昨日梨をもらったが、一つもいらない。ちょくちょくアンナからこっそりと貰っていたお菓子も食べない。


 フェリシティの目は炎のように燃え上がっていた。





「フェリシティ、食べないのかい?」


 ウィリアムが梨をもってやって来た。そして、フェリシティの口元に梨を持っていき、食べさせようとする。


 しかし、フェリシティは食べようとしない。決めたからだ。梨を食べないと。これは己のためだ。


 ちくちくと良心が痛む。また、梨の甘い匂いがフェリシティの鼻をくすぐり、食べろ、食べろと言っているようだ。


(が、我慢……)


 一向に食べようとしないフェリシティにウィリアムは心配そうな顔をした。


「どこか痛い? それとも苦しい?」


 ウィリアムは焦ったようにフェリシティに触れた。


「なにか病気なのか……?」


 何も反応を示さないフェリシティを見て、ウィリアムはぶつぶつと呟き始めた。それにフェリシティはより一層、良心が痛んだ。


「医者を呼んでくれ! フェリシティが病気かもしれない!」


 ウィリアムは使用人に向かって叫んだ。その叫び声を聞いた使用人が何事かと部屋の近くに集まる。そして、人から人へ状況が伝わり、皆が心配そうにフェリシティを見つめた。


 彼らにとってフェリシティは日々を癒やす天使のような存在なのだから。


 ウィリアムが医者を呼んでから一刻もしない内に医者がやって来た。


「どういった病状ですかな」


「昨日まではたくさん食べていたのだが、今日は全く食べないんだ。大好物の梨をあげても、全く食べようとしない。これは何かの病気なのか?」


「一度、検査してみます」


 フェリシティは色々な検査を受けた。心臓の音を聞かれたり、痛いところはないか確認されたり……。


「何も病気にはかかっていませんよ。食欲がないようですな」


「そうか。それなら良かった」


 ウィリアムはほっと胸をなでおろした。


 フェリシティはこんな大事になるなんて思っておらず、ついていけない。ただ、ダイエットしたかっただけなのに。


 心配をかけてしまうので、フェリシティは食べることは止めず、運動を積極的にしようと思った。


『ちょっとダイエットするつもりだったのに……』


 ぼそりと無意識にそう呟いていた。それが聞こえたアンナだけが、呆れたようにフェリシティを見つめていたのだった。



その日から部屋の中を走り回るフェリシティの姿があったとか、なかったとか。

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