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二十四日目




 ウィリアムの領地に滞在する最後の日は近くにある果樹園に行くことにした。そこで多くの梨が収穫される。


(広いわ!)


 そこは王都にあるウィリアム邸の果樹園とは比べ物にならないほど広い。その果樹園が五つは入りそうだ。


 あちらこちらに梨がなっている木が植えられており、奥の方にはぶどうやりんごもある。


 ここはフェリシティにとって宝の山だ。


「ようこそ、いらっしゃいました!」


 二人が果樹園に到着するとすぐにそこの管理人らしき男がやって来た。彼は恭しくウィリアムに接する。


「今日はよろしく頼む」


「はい、お任せください!」


 昨日のように市場に行くと中々店に入れない。だから、ウィリアムの領地の特産物である梨の果樹園に来たのだろう。昨日、フェリシティが美味しそうに梨を食べていたというのもあるだろう。


「こちらはうさぎのフェリシティだ」


 男がフェリシティをちらちらと見ていたからか、ウィリアムがフェリシティを紹介した。犬ではなくうさぎを飼っていることに男は驚いたようだ。


「珍しいですね。それもアッシュグレーのうさぎとは」


「ああ。このサファイアの目はとても綺麗だろう」


 ウィリアムにそう言われると、心がうずく。嬉しくて心が温かくなるのだ。


 うさぎになってから、フェリシティは容姿を褒められるようになった。平凡なフェリシティもうさぎになれば、可愛いと言われる。フェリシティは少しだけ、うさぎのままでも良いかなっと思い始めている。


(ダメダメ!)


 しかし、すぐにその考えは打ち消した。うさぎのままなら、ずっとウィリアム邸にいることになる。そうなれば、バレるかもしれないと考えながら、人生を歩まなければならない。


(それに……)


 もしずっとウィリアム邸にいれば、ウィリアムが誰かと結婚するのを見なければならない。知らない女性と生活しなければいけない。


(きっと、ウィリアム様の幼なじみのあの女性ね……)


 以前、ウィリアム邸の庭園で泣いていた女性だ。結局なぜあんなところで泣いていたかは分からないままだが、彼女はウィリアムを好きなようだった。


 お人形のようにかわいい人だったので、ウィリアムとお似合いだ。


(なんでだろう。なんでかな……)


 ズキズキと胸が痛む。気が緩むと、涙が出そうだ。最近おかしい。ウィリアムのことを考えると、一喜一憂する。どうしてだろうか。


(ウィリアム様の結婚相手を考えて胸が痛むのは相手にされなくなると思っているから)


 フェリシティはそう納得させた。本当はそうではないことくらい、心の奥底では分かっているのに。


(逆に私的には良い方ね。あの幼なじみの女性は動物のことが嫌いだから、私はモンロン男爵邸に帰れる! 帰れるんだから……)


 嬉しい。そう、嬉しいのだ。


 フェリシティは何度も何度もそう言い聞かせた。悲しくなんてない。嬉しくて仕方ないと。


「フェリシティ、採れたての梨を食べるかい?」


 ウィリアムの言葉で思考を止めた。


 フェリシティは自ら進んで、ウィリアムの手にある梨に齧りついた。昨日食べたものよりも美味しい。採れたてだからだろうか。


「美味しそうだね。良かった」


 もぐもぐもぐとフェリシティは無心になって梨を食べ続けた。





「たくさん梨をもらえて良かったね」


 何個も梨を食べるフェリシティの様子を見て、管理人の男が何個も梨をくれた。当分の間は梨パーティーだ。


 フェリシティは今、馬車に乗って家路についている。三日間はあっという間だった。


(また、行きたいな)


 そう思っていると、馬車のゆらゆらで眠気が襲ってきた。


「ゆっくりお休み」


 馬車の中にはウィリアムの膝の上で撫でられながら幸せそうに眠るフェリシティの姿があった。



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