十六日目
「フェリシティ、大人しくしているんだよ」
ウィリアムはそう言うと、フェリシティの頭を撫でた。
今日はウィリアムが友人であるノアのパーティーに行く日だ。お昼過ぎの今から準備をするそうで、夕方にはノアの屋敷に向かうらしい。
その間フェリシティはというと、ウィリアムや使用人たちの邪魔をせず、静かに自分の部屋にいるしかない。外に出ることもできない。部屋にはアンナとアイラしかいない。
アンナだけであれば、フェリシティは会話をすることができる。しかし、アイラがいる。フェリシティが獣人だということを知らないアイラが。
「今日中には帰ると思うけど……気にせず寝ててね」
ウィリタムは再びフェリシティを撫で、準備のために自室へと向かった。フェリシティは今も自分の部屋にいるので、動くこともなく、ぼーっと過ごすしかない。
「フェリシティ様、ボール遊びはどうですか?」
アイラがニコニコしながらボールを持ってきた。
フェリシティは獣人なので、本物の動物のようにボールで遊んだことはない。周りも勧めなかった。フェリシティは貴族の末端であるが、歴とした貴族であるのだから。
フェリシティはボールで遊ぶことには抵抗がある。だからか、ジリジリと様子を伺う。
「ほら、ボールです! どうですか?」
アイラがコロコロとボールを転がし始めた。
フェリシティは好奇心に負けてしまい、ボールで遊び始めた。長時間夢中になるほど、楽しいものだった。
フェリシティはこの日、うさぎの姿でいて良かったと心底思った。この姿でウィリアム邸にいるなら、誰にも咎められずに貴族令嬢としてははしたないことをできるのだから。
夕食の時間にはすでにウィリアムがおらず、一匹だけで食べることになった。いつもは美味しく感じる野菜も今日は絶品のようには感じなかった。
食後はそのまま寝る支度をし、うさぎ用のベッドに入った。いつも通り、すぐにアンナとアイラは部屋を出た。
三日ほど一人でこの部屋で過ごしているにも関わらず、フェリシティはなぜか寂しさを覚えた。昨日までは何も感じなかったのに。
なぜだろうか。
今日、あまりウィリアムに会えなかったからだろうか。
ウィリアムとは準備の前の一度しか会っていない。朝食も昼食も仕事のためか、一緒に取れなかった。その後もずっとウィリアムと会わなかった。
ここ三日は一人でベッドに入っているが、今日初めて孤独に感じた。実際はこの屋敷に一人ではないのだが、なぜかは分からないが、真っ暗闇が一人でいるように勘違いさせる。
もし本当にウィリアムに会えなくて寂しいのなら、手遅れになる前にどうにかしなければならない。そうしなければ、ウィリアムの元から離れ、モンロン男爵邸で今までと同じように生活をするときに寂しくなるだろうから。
(……寂しいのはきっと退屈だから。アンナ以外、誰とも話せないから)
そう言い訳するほど、フェリシティの心の中はウィリアムでいっぱいだ。まだそれほど日は経っていないのに、ウィリアムの本心も分からないのに、寂しさを覚えるのは重症だ。
こう考えているのは、もう手遅れだからかもしれない。




