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十五日目




 今日はヴァネッサの湖に来ている。明日、ウィリアムはパーティーに出かけるので、朝からフェリシティの相手ができない。だから、その贖罪のつもりでフェリシティが行きたがっていたここに行くことにしたのだ。 


『ニンゲント一緒ニイルノカ』


『コイツ、マエモイッショニイタ』


『ニンゲンノコト、庇ウ。コイツ、オカシイ』


 ずっと行きたかったはずだが、こんなことを言われるなら行かなければ良かったと思ってしまう。


 彼ら動物は獣人と違って、ほとんど人間と関わらない。だから人間と一緒にいる獣人に不信感を持つのも頷ける。


 結局、獣人は人間にも動物にも本当の意味で理解されない。獣人は獣人の仲間と苦しみを分かち合うしかない。


『まあ、確かに人間を庇うなんてどうかしていると思うけど、フェリシティにはフェリシティなりの理由があるのよ』

 

 以前、ここに来たときに出会った猫の獣人のマーガレットがそう言いながら近づいた。フェリシティはまたマーガレットに会えるとは思っていなかったので、驚きと嬉しさでいっぱいになる。


『あなたたちが人間に関わらないようにフェリシティが人間と一緒にいるのは理由があるわ。ね、そうでしょ?』


 彼女の意見は動物たちを黙らせた。そう言われてしまえば、何も言い返すことはできない。


『マーガレット! 久しぶりね! 今日は一人なの?』


 前は妹のクララと一緒にいたものだから、今日も一緒だと思った。しかし、辺りを見渡してもどこにもいない。だから、疑問に思ったのだ。


『クララは外出禁止中なのよ。この前、フェリシティが帰った後にここで溺れかけたから』

 

 フェリシティは耳を疑った。たしかにここは湖がある。しかし、それほど深くはないので、溺れたことがある人がいるとは思いもしなかった。


『まあ、よくあるのよ。あの子。ほら、前、人間に叩かれたって言ってたでしょ?』


 フェリシティはぼんやりとだがそのことを覚えている。貴族に叩かれたと言っていた気がする。


『実はあれ、あの子の自業自得なのよ。城下町に行ったときに遊んでたら、その貴族のズボンに爪を引っかけてしまったのよ。その人はすっごく怒ってたわ』


 高級なズボンを穿く貴族なら、そんなことをされてしまえば怒るのも当然だろう。自業自得なのだが、それを肯定するのも気が引ける。


「今日もフェリシティは人気者だね。楽しそうだし、ここに来て良かったよ」


 なんて答えるのが正解なのかと悩んでいると、ウィリアムが助け舟を出すようにそう言った。


 以前も、ウィリアムはフェリシティが困っていると助けた。本人にはその自覚はないだろうが、フェリシティには神様のように思えた。


『そういえば、この男の人とまだいるのね。どう? 楽しい?』

 

『うん、楽しいわ! ウィリアム様は毎日、楽しいことをしてくれるの』


『ニンゲン、信ジチャダメダ。キケン、キケン』


 フェリシティがウィリアムのことを褒めると、また動物たちが警告をし始めた。何度もそう言う動物たちにほんの少し、苛立たちさが生まれる。


(ウィリアム様は悪くなんてないのに……)


 そして、それと同時に悲しさも。


『止めなさい。それ以上は言わないの』


 マーガレットが子どもをたしなめるように動物たちを止めた。動物たちは相手の気持ちを考えずに物事を言うことが多々ある。誰かが止めない限り、彼らには分からないのだ。考えられないのだ…


『私はそろそろ帰るね』


 フェリシティは今、動物たちと一緒にいると苛立たちさが募りそうだと思い、早々と帰ることにした。


『何かあったらまた来てね。今日と同じ時間に基本いるから』


 マーガレットはフェリシティを心配している。フェリシティはそれに嬉しさを覚えた。誰かが心配しているというこの状況に。


「もう帰るのかい?」


 トボトボとウィリアムに近づいてきたフェリシティを抱き上げ、馬車へと向かう。


 馬車の中では落ち込んでいるフェリシティの背中を撫でるウィリアムの姿があった。



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