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十四日目




「……ィ……ティ……リシティ様……」


(誰……?)


 ぼんやりと何かが見える。光で何なのか、はっきりと分からない。その何かが自分に話しかけている。


(私はまだ眠いの……)


 そう思っても、何かは一向に口を閉じない。ずっと呼び続けている。誰なの、と思いながらも、目は開かない。


 もう少しだけ、もう少しだけ……。


 そう思っているとき――


「フェリシティ様、朝でございます」


 ばさっと温かい布を剥ぎ取られてしまい、寒さで目を覚ました。寒すぎて、一気に覚醒した。


『アンナ……!』


 フェリシティは恨めしいと言いたげに世話係のアンナを見つめた。今は獣の姿だが、モンロン男爵邸にいたときを思い出させる。朝が苦手なフェリシティをあらゆる手で起こしたアンナはウィリアム邸に来ても健在だ。


「朝でございます。そろそろ、起きましょう」


 寒さでもう一度寝る気にもなれず、仕方なく起きた。


 フェリシティのために用意されたうさき用のベッドは床との段差がほとんどない。なので、昨日までは苦労していたこともすんなりとできる。


「ウィリアム様がお待ちですので、食堂に行きましょう」


 ウィリアムは待たせてはいけない! そんな思いがあるフェリシティは急いで食堂に向かう。人間のときは走るなんてはしたないと言われていたが、今はそんなことを言う人は誰もいない。





「フェリシティ、おはよう」


 昨日の昼からフェリシティとウィリアムは部屋を分けたので、今日は今、初めて会う。昨日まではウィリアムと一緒――と言っても、フェリシティはいつもウィリアムの枕元にいたが――に寝ていた。だからか、何だか不思議な感じた。


 今日でまだウィリアム邸に来て二週間しか経っていないにも関わらず、フェリシティはウィリアムに好感は持っていた。優しくされたからだろうか。


 フェリシティが自分用の椅子に座ると、料理が運ばれてきた。いつも通り、ウィリアムは人間の料理、フェリシティは野菜や果物だ。


「本日の予定を申し上げます」


 これまたいつも通りにウィリアムの側近らしい男性がそう告げた。フェリシティはいつもこれを聞いているわけだが、ウィリアムの予定はいつも大変すぎる。だから、自分のところに来ていいのかと不安にもなる。


 側近は今日の予定をざーっと言っていく。フェリシティには時々、呪文のように聞こえてしまう。


「午後からはマグリナ様一同がおいでになります」


「ああ、仕立て屋か」


「左様でございます」


 今日もまた仕立て屋が来るのか。社交シーズンということもあって、服を新調しなければいけないのだろう。四日前に仕立て屋は来たばかりだが、そういう理由もあって、この短い期間に仕立て屋が二度も来るのだろう。


 フェリシティはまだ舞踏会には一度しか参加したことがない。社交界デビューの日だけだ。


 フェリシティはその日の翌日からウィリアム邸でうさぎとして生活している。だから、まだパーティーに参加できないでいた。そのため、貴族が短時間で何度も仕立て屋が来るというのがよく分からない。


「フェリシティ。今日は君の服を持ってきてもらうよ」


(え!?)


 驚いて、食べようと手に持ったセロリを落としてしまった。


 フェリシティの服を持ってくるというのはどういうことなのだろうか。四日前に来た仕立て屋と一緒だろうか。そうであれば、前、来たときに注文でもしたのだろうか。していたのかもしれないが、あまり記憶にない。


「君に似合うデザインだったから気に入るといいのだけれど」


 その日の昼にやって来た仕立て屋は以前と同じ人たちだった。その人たちはフェリシティのためにと服を作り、その場で着させた。皆、フェリシティを見て称賛した。とてもフェリシティ好みのデザインだが、うさぎ姿では動きづらく、着たくないと思ってしまったのだった。



おまけ


「フェリシティ、君はとてもかわいいよ。この服も似合っている」


 確かに似合っているかもしれないが、動きづらすぎる。フェリシティがそう思っていると、ウィリアムがフェリシティを抱き上げた。


 その時、ウィリアムが眉をひそめた。


「大変だ。これではフェリシティを抱きしめた気がしない」


 今着ている服は人間が着るドレスをうさぎのサイズにしたようで、何枚も布が重ねられている。だからたろう。


 これによって、フェリシティはうさぎのときに服を着なくて良くなったのだった。



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