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十三日目




「この度はご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした」


『ア、アンナ!』


 フェリシティが逃げたことにより、一週間休まされていたアンナがやっと戻ってきた。フェリシティは嬉しさと申し訳無さでいっぱいだ。


『本当にごめんなさい、アンナ。ごめんなさい』


「いいのです。フェリシティ様が無事であれば、それでいいのです」


 アンナは優しくフェリシティを撫でた。


 その優しさにフェリシティは歓喜余って、ボロボロと涙を零した。


「この一週間、どうでしたか? 何もありませんでしたか?」


 アンナはこの一週間、フェリシティが獣人であると悟られていないか心配で仕方なかったのだろう。自分がいない間に何かあれば……と考えていたのかもしれない。アンナにとってフェリシティは主であるのと同時に妹のような存在でもあるのだから。


『えっとね、あのね』


 フェリシティはそれでアンナに言いたいことを思い出した。これを思い出すだけでまた涙が出てきそうだ。


『私って汚らわしい……のかな……?』


 そう口にするだけで、昨日のことがすぐに頭に過ぎる。


 ――こ、こっちに来ないで! 汚らわしい!


 人生で初めて言われた言葉はフェリシティの心を深く深く傷つけたのだ。この思いを誰にも言えず、昨日は過ごした。ずっと頭から離れないで、呪いのように頭の中で鳴り響いているのだ。


 本当は皆も汚らわしいと思っているのではないか。


 そういう思いが出てきてしまった。ウィリアムがもてなすから、ウィリアム邸の人たちはフェリシティに好意的なのではないか。ウィリアムが甘やかすのは後から惨いことをするつもりなのではないか。


 否定的な考えは膨れ上がり、消えることを知らない。


『ほ、本当は皆嫌なんじゃないかって思うの……。本当は私のことが汚らわしいって……』


「そんなことはありません!」


 フェリシティの言葉を遮って、アンナが強くそう言った。


「フェリシティ様は汚らわしくありません! 愛らしくてモンロン男爵家の宝です」


 アンナはぴしゃりとそう言い切った。


 ただそれだけを言われただけなのに、フェリシティの心は温かくなっていった。ずっと近くにいるアンナが言ってくれただろうか。“フェリシティ”という存在を肯定してくれたからだろうか。


「フェリシティ様がそのようなことを思う必要もありません! そのようなことを言ったお方はきっと、フェリシティ様が羨ましかったのです」


『羨ましい……?』


「はい。フェリシティ様は愛されておりますから」


 それを聞くだけで、今まで悩んでいたことが飛んでいった。


 ずっと一緒にいるアンナが嘘をつく人ではないことくらいフェリシティは知っている。だから、信じられる。


『ありがとう、アンナ』


 アンナには助けられてばかりだ。いつもフェリシティを思って行動してくれるアンナに感謝しかない。


「他には何かありませんでしたか?」


 心配そうにアンナがフェリシティを見た。そこで悩んでいたもう一つのことを思い出す。


『今って社交シーズンでしょ? 私にも何通か招待状が届いていると思うのだけど……』

 

「参加しないといけない、ということですね?」


 さすがアンナと言うべきか、フェリシティの心を読んだかのようにそう伝えた。


『うん……。さすがに一つも行かないのは怪しまれるかなって』


「確かにそうですね。……では帰省するというのはどうですか? 何か理由をつけて」


『うん! そうしよう!』


「では行ってまいりますね」


「独り言を言っているの?」


 部屋の扉近くにアイラが立っていた。二人――一人と一匹は驚いて、目を見開く。


「いつからそこに?」


「今。それでどこか行くの?」


 それも聞かれていたのか。


 アイラは正式にフェリシティの世話係に任命された。それと共に、ウィリアムの部屋の隣の部屋のリフォームが終わったので、フェリシティはそこに引っ越した。


 フェリシティとアンナだけしかいないからといって、油断はできない状況になってしまった。


「はい。少しウィリアム様の元へ。それを今、フェリシティ様に伝えていたのですよ」


 アンナは何もなかったようにそう告げた。幸いなことにアイラは疑っている様子もない。


「そうなのね。いってらっしゃい」


 アンナはアイラと二人っきりでフィリシティが心配だったが、そう言ってしまった手前、行かざるを得ない。仕方なく、足を進めた。


 フェリシティはというと、りんご仲間――果樹園でこっそりとりんごを貰った仲間――で、親しい。だからそんなに心配はしなくてもいいのにと思ってしまったのだった。




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