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十日目



 昨日、ノアの家が主催するパーティーに行くとウィリアムが決めたので、仕立て屋がウィリアム邸にやって来た。新しくウィリアムの服を仕立てるそうだ。


 その間フェリシティはというと、なぜか仕立て屋のアシスタントたちに囲まれ、愛でられていた。


 どうやらうさぎを間近に見ることのない人間たちは、いるだけで可愛らしいうさぎに癒やされているようだ。


「うさぎって、とっても可愛いですね!」


「ええ、本当に」


 子どものようにキャッキャと楽しむその様子は見ていて微笑ましい。が、その対象が自分であるというのはむず痒い。


「ああ、この子にも何か仕立てたいわ」


「あ! 端切れがあったはずよ! それで作らない?」


 彼女たちにとって幸いなことに、時間はたっぷりある。フェリシティはというと、拒否したくてもできず、流されていったのだった。





「できたわ!」


 一時間もしない内にフェリシティのサイズに合った小さな服ができた。少しだけ裾が長い青色のトップスが腰のあたりできゅっと引き締まり、その下に黒色のレースがついたスカートを穿いている。


 端切れと言っても貴族の服を作ったときの余りの布なので、華麗である。


「とっても可愛い!」


 そう言われて喜ぶべきなのだろうが、モンロン男爵令嬢のときよりも遥かに豪華な服を着て、戸惑いと破ってはいけないという恐怖がある。だからか、体を動かすことができない。


(彼女たちの腕は本当にすばらしいけど、これを破ったら大変よ……)


 フェリシティはガッチガッチになり、謎の緊張感に襲われてしまった。


「もう一着作りたいわ!」


(ひっ! も、もういいわ!)


 怯えていると、この部屋に救世主が現れた。


「失礼します。服の仕立てが終わりました。ですので、ご案内いたします」


 彼女たちを呼びに来た執事が入ってきたのだ。


 本来であれば、彼女たちもウィリアムの服の仕立ての方にいなければいけない。しかし、ウィリアムが一匹だけでいるフェリシティの遊び相手をするように命じた。近くには使用人もいる。また、今日呼んだ仕立て屋は、ウィリアムが昔から懇意にしているので、信頼できる。だから、重大な仕事を任したのだった。


 フェリシティは彼女たちから離れられることにほっとした。嫌いではないが、再び高価な服を作られるのは勘弁してほしかった。


「フェリシティ様もですよ」


 執事にそう言われ、フェリシティは服を破かないように変な歩き方でトボトボとついていった。なぜ自分も呼ばれたのかは分からない。おそらくだが、逃げたという前科があるので、ウィリアムはできる限りフェリシティと離れたくないのだろう。


 すぐにウィリアムたちがいる部屋に着き、中に入った。中にはウィリアムと仕立て屋の主人らがいる。


 フェリシティは手招きされ、ウィリアムの膝の上に乗った。最初の頃は警戒して乗ろうとしなかったが、もう慣れてしまった。


「この子がさっき話していたフェリシティだ」


「おお、このお方が! なんと可愛らしいのでしょう」


「そうだろう? ところで、この服は作ってくれたのかい?」


 ウィリアムはフェリシティを撫でながら、アシスタントたちを見つめた。彼女たちは大変なことをしてしまったのかと思い、焦り始めた。


「は、はい! わ、私めが作らせていただきました」


「そうなのか」


 そう言うと、ウィリアムはじーっとフェリシティを見つめた。


(な、何……)


 何もしていないのに、冷や汗が流れた気がした。悪いことは何もしていないはずなのに、したと勘違いしてしまいそうだ。


「ふむ。もう一着頼もう」


 誰もが驚いた顔をした。あの高貴なウィリアムが、うさぎに服を作らせようなどと思うとは想像もしていなかったのだ。


 フェリシティはつい、首を振ってしまうところだった。


(あ、危ない、危ない……)


 首を振ってしまえば、人間の会話が分かるということになる。ということは、獣人なのではと疑われるかもしれない。一度逃げて疑われているかもしれないのに、そのような反応をすれば確実に怪しまれる。


 本当は欲しくないのだが、このままでは買うだろう。


 初めて、贅沢は辛く、身の丈に合ったものが一番良いということが分かったのだった。



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