九日目
(またこの人がやって来たわ)
六日ぶりにウィリアム邸にはウィリアムの友人のノアが訪れていた。フェリシティは警戒心を持ちながらもウィリアムに連れられ、六日前と同じ応接室にいた。
「まだいたのか! こいつは」
ノアはフェリシティをちらりと見た。
「お前も飽きないな! あんなことがあったのによ」
あんなこと――ウィリアムがペットとして飼っていた動物が実は獣人で襲われかけた事件のことだ。確かにそんなことがあったのにフェリシティを飼うのは謎だ。
「うさぎは珍しいだろう? それに可愛いじゃないか」
(か、か、かわいい!?)
フェリシティは全身が赤くなる気がした。家族には可愛い、可愛いと言われ育ってきたが、家族以外の、それも異性から可愛いと言われたのは初めてだ。だからか、ドキドキと胸が高鳴りっぱなしだ。
「可愛いか? グレーのうさぎなんて変じゃないか!」
そのノアの発言がフェリシティの心臓にぐさりと刺さった。おばあさんのように灰色――アッシュグレーの色にコンプレックスを持っているのだ。
ノアも、まさかフェリシティが獣人だとは思っていないので、そう言ったのだろう。
「この色はサファイアのような目をより際立たせているよ。だからそんなことは言うな」
珍しくウィリアムが強い口調で言った。己の愛玩動物が貶されているのが嫌だったのだろうか。
ノアはうっと怯み、ごめんとフェリシティに向かって謝罪した。それとは対照的に、フェリシティはそんなことを言ってくれるウィリアムに感動した。
コンプレックスであるアッシュグレーの色合いも、ほんの少しだけ好きになれるような気がする。
「で、今日は何しに来たんだい」
確かにそうだ。以前ノアがウィリアム邸に訪れたのは六日前で、何か用事がない限り普通なら来ないだろう。まあ、ノアは以前、大した用事もないのに訪れたのだが。今回も大事な用でないというのは否定できない。
「これだよ」
ノアは懐から一通の手紙を取り出した。ウィリアムはそれを受け取り、ペーパーナイフで開けた。そしてじっと内容を見る。
フェリシティはソファーに座っているだけなので、手紙の中身が見えない。と言っても、人の手紙を見てはいけないのは常識なので見る気もない。
「パーティーをするのか」
「今は社交シーズンだろ? ウィリアムに来てほしくてさ」
今は社交シーズン真っ只中である。ウィリアムにも何通も招待状が届いている。九日間、一度もウィリアムはパーティーに出かけていないが、全て行かないわけにもいかないので、今後増えていくのだろう。
フェリシティは社交シーズンと聞き、ふと危機感を覚える。
(ずっと人間の私が参加しないなんてできないわ!)
ウィリアムに比べたら少ないが、フェリシティにも数通は届いているだろう。行かなければ、男爵令嬢で平凡なので、今でも肩身が狭いフェリシティは、もっと社交界の爪弾きにされてしまう。また、一向に姿を現さないフェリシティを怪しみ、調べられ、獣人だとバレるかもしれない。
(アンナが帰ってきたら相談しないと!)
獣姿のフェリシティの言葉が分かるのは同じ獣人、或いは獣人の血が入ったハーフであるアンナしかいない。アンナはあと四日で帰ってくる予定だ。
それまでにフェリシティはどうすることもできない。バレませんようにと願うだけだ。
そう考えた後はフェリシティは与えられた野菜を食べ、ウィリアムとノアは談笑して時間を使ったのだった。




