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十一日目




(喋る相手がいないって、こんなにも退屈なのね……)


 わりといつもウィリアム邸の中は騒がしいので、そんなことを思わなかったのだが、ウィリアムも来客もいないと静かすぎる。使用人たちが真面目に掃除をしたり、黙って待機をしているからだ。


(ちょっと外に出ようかな)


 使用人たちから逃げないかという心配の眼差しはあるが、それを気にしていては暇すぎるのだ。


 フェリシティは人間用の扉の下の方にある、ドアノブがなく、押して開けるうさぎ用の扉を潜った。すると、すぐに使用人――アンナの代わりの侍女が近づいた。


「フェリシティ様、どうかされましたか?」


 彼女、アイラと言葉が通じるわけではないので、これから何をするのかを行動で示す。フェリシティはトコトコと歩いた。


 歩くと、近くにいる使用人たちがすぐにフェリシティの側に集まった。


「あぁ、フェリシティ様ってほんとにかわいいわ」


「アイラってば羨ましすぎるわ!」


 主がいるときでは近くでフェリシティを見て、触ることはできない。しかし、今日は仕事でウィリアムはいない。


 フェリシティの毛は素晴らしい使用人たちと高価な石鹸のおかげで、今まで以上にもふもふしている。


(か、かわいいなんて……)


 フェリシティは可愛いと言われ慣れておらず、照れてしまう。アッシュグレーの毛をしているので分からないが、頬は真っ赤に染まっている。


 一通り撫で終わると、使用人たちは名残惜しい顔をしながらも自分たちの仕事に戻った。


 フェリシティが外に出るまでの道のりで会った使用人は、どの人も同じような行動に出たのだった。




 屋敷の外に出ると、風が気持ちいいくらい吹いていた。


 フェリシティはぶらぶらと歩き始めた。


「おや、フェリシティ様。おはようございます」


 六十は超えていそうな庭師の男が被っていた帽子を取り、恭しくお辞儀した。フェリシティも少しお辞儀をした。


 顔を上げたとき、真っ赤な美味しそうなりんごが木に生っているのが見えた。目を輝かせて見ていると、その庭師が声をかけた。


「りんごがお気に召しましたか? どうです? 一つ。ほれ、あなたも」


 庭師はりんごを近くにある噴水で洗い、器用に六つに切った。そして、三つをアイラに渡し、残りをフェリシティに食べさせた。そのりんごはとても甘くて美味しい。


「ほほほ、喜んでもらえましたかな」


 フェリシティは心配の眼差しばかり気にして、一人のとき、外に出なかったことが惜しい気がした。ウィリアム邸の敷地には果樹園まであるとは知らなかった。


「ウィリアム様には内緒ですぞ」


 庭師はお茶目にウインクをして見せた。


 フェリシティはこの果樹園で一時を過ごして、まだ日にちはそれほど経っていないが、実家が懐かしく感じた。モンロン男爵邸にも同じように果樹園があるのだ。


 モンロン男爵家は獣人一家なので、できるだけ自然と近くに感じていたい。残念なことに領地は持っておらず、王都にしか屋敷がない。だから、少しでも多く緑を増やそうと、先代が果樹園を造ったそうだ。


(明日もまた来ようかな)


 明日もフェリシティは一人だろうから、また来ようと思った。目的の大半は美味しいりんごを食べることになったのだが。


 フェリシティは懐かしく、安らぎの場を見つけたような気がした。



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