苦労人ジョーは、足止めされる(中編)
※今回も近藤目線の話です。
ドラコンが飛来したことで、魔の森からは早期に撤退するように勧告が出された。
俺たちが居る場所は、魔の森のど真ん中にある野営地だ。
周囲には頑丈な塀が築かれているが、魔物の大量発生が起こった場合に孤立する恐れがあるから留まるという選択肢は無い。
それならば魔の森を出れば良いのだが、問題は進むのか、それとも戻るのかだ。
ラストックとヴォルザード、ここからの距離はほぼ同じで、普通に進めば明日の夕方には魔の森を出られる。
雇い主であるオーランド商店としては、商品をラストックへ届けてもらいたいのだろうし、魔の森から出るということに関しては、戻る場合とリスクは同じだ。
ただし、魔の森から出た後が違ってくる。
ヴォルザードは、言うまでも無く俺たちのホームタウンだが、ラストックは隣国リーゼンブルグ王国の街であり、俺たち四人にとっては曰く付きの街でもある。
「ジョー、ラストックまで行ってくれないか」
エウリコさんに頼まれたが、俺は即答出来なかった。
本来、この依頼はラストックまで荷物を届ける馬車の護衛だから、雇い主のオーランド商店が進むと言うなら、その護衛をしなければ依頼達成とはならない。
もし、ここから馬車はラストックへと進み、俺たちはヴォルザードに戻ったとしたら、依頼を途中で放棄したと見なされ、ペナルティを課される恐れがある。
ただし、この状況でラストックまで進めば、その時点で魔の森への侵入を禁じられ、ヴォルザードへ戻れなくなるかもしれないのだ。
「ちょっと、仲間と相談させて下さい」
「……分かった」
普段であれば、ここで依頼をキャンセルするなんて有り得ない話だが、ドラゴンともなれば話は別だ。
「俺は反対だ!」
他の三人に相談すると、鷹山が真っ先に異を唱えた。
「ドラゴンなんだろう? いつぞやのグリフォンよりも強力なんだろう? そんなの何時ヴォルザードに帰れるか分からないじゃないか」
鷹山は周囲が呆れるほどの愛妻家にして親バカだ。
「ラストックで一週間も足止めされたら、俺は気が狂うかもしれない」
「いやいや、待て待て、バッケンハイムまでの護衛依頼の時には、往復で一週間以上掛かっているよな」
「ジョー、それは戻れる当てのある一週間だ。何時戻れるか分からない一週間とは訳が違うぞ」
「それはそうだけど……」
「ジョーだって、一週間もリカルダと会えなくなるんだぞ。八発様が大人しくしていられるのか?」
確かに、同棲中の恋人と会えなくなるのは辛い。
「一週間ぐらいなら大丈夫だろう。最悪、自分で処理するし……」
「一人で八発もするのか」
「する訳ねぇだろう! 一人だったら一発で十分だよ」
「どうだかなぁ……八発様だからなぁ」
「ていうか、八発もしたのは、あの時だけだ」
「何言ってんだよ、回数の問題じゃねぇよ」
俺と鷹山の会話に横から入って来たのは新田だ。
「ジョーは始めると長いからなぁ……自分で処理するとかいって、便所や風呂場を占領する気じゃねぇだろうな?」
「しねぇよ、する訳ねぇだろう……というか、今はそんな話をしてる場合じゃないだろう。和樹と達也はどうなんだよ」
「俺は、どっちでも良いけど……」
「俺は戻りたい」
これまでだったら、新旧コンビの意見が割れることは無かったのだが、新田にだけ恋人が出来た影響だろう。
新田が戻りたいと言った瞬間、古田の表情が曇った。
「やっぱり俺は進むべきだと思う」
「なんでだよ! 戻ったって状況が状況だからペナルティにはならないだろう」
「そういう状況で依頼主の要望に応えてラストックまで行けば、その分だけ評価が上がるだろう。上を目指すなら、行くべきだろう」
「いつ戻れるか分からなくなるかもしれないんだぞ」
「いや、それは無いな。鬼畜な国分が居るんだぞ、宇宙空間で隕石を砕いて地球を滅亡から救った男だぞ、ラストックとの往来を何時までも止めてなんかおかねぇよ」
実のところ、俺も古田と同じことを考えていた。
この分厚い壁で囲まれた野営地も、国分が眷属と一緒に作ったものだ。
万を超える魔物の大群とか、壁を飛び越えるような魔物だとヤバいのだろうが、オーク千頭程度だったらビクともしないはずだ。
地球に衝突する可能性があった隕石もそうだが、過去にはグリフォンやギガース、ヒュドラなどのヤバい魔物も討伐したと聞いている。
たとえドラゴンであっても、国分が本気を出せば瞬殺とはいかなくても討伐できる気がする。
それに、俺も将来のことを考えるならば、ギルドのランクは早く上げたいと思っている。
そうした話をすると、鷹山が少し迷い始めた。
「確かに、ランクは上げたいと思ってるけどなぁ……」
嫁と娘に安定した良い暮らしをさせてあげたい、それにはギルドのランクを上げる必要があると鷹山は考えているのだ。
あとは新田だけと思っていたのだが、意外な話を口にした。
「でもよぉ、ドラゴンを討伐するかな?」
「どういう意味だ?」
「ドラゴンって、こっちの世界では希少な存在だろう。レッドリスト入りみたいな感じだから、討伐しないで保護する……とか言うんじゃね?」
一瞬、国分だったら有り得ると思ったのだが、直後に古田が否定した。
「いや、魔の森が通れない状態とか、街に被害が出れば討伐するだろう」
「出なかったら?」
「出なかったら、普通にヴォルザードに戻ればいいじゃん」
「そうか……」
結局、俺たちは条件付きでラストックへ向かうことにした。
「エウリコさん、こちらの条件を呑んでもらえるならラストックまで行きます」
「条件は?」
「本来なら、ヴォルザードからラストックまで往復四日の予定ですので、足止めを食らった日数分だけ報酬を上乗せして下さい」
「それは仕方ないな」
「それと、戻れなくなるリスクを冒して行くのですから、その分だけ評価を上げてください」
「いいだろう、そちらも了解した」
オーランド商店側が俺たちの条件を呑んでくれたので、ラストックを目指すことになった。
翌朝、俺たちよりも先に出発する馬車を見ていたが、ラストックへ向かう馬車はヴォルザードに戻る馬車の半分ぐらいだった。
いくら国分が大きな功績を上げても、ヴォルザードで長年暮らして来た人たちは、魔の森で魔物に襲われる恐ろしさを忘れていない。
ここが一年前には、命懸けで通り抜ける街道だったことを忘れていないのだ。
ラストックへ向かって走り始めた直後は、いつもと変わらない街道のように思えたのだが、三十分ほど走った所で前の馬車がオークに襲われているのが見えた。
すぐさまトランシーバーを使って状況を伝え、こちらも戦闘の準備を整える。
「エウリコさん、ここから援護します」
「おいおい、この距離だぞ」
「大丈夫です、横から脅すだけでも戦ってる連中が楽できますから」
馬車を護衛している冒険者と睨み合っているオークに向かって、遠距離攻撃を仕掛ける。
皮下脂肪の分厚いオークにとっては、致命傷には程遠い威力の風の刃だが、それでも切られれば痛みが走る。
睨み合っている状況で、突然横から攻撃されれば均衡は崩れる。
冒険者が攻勢に出たところで、今度は音だけの魔法で脅しを掛けると、オークは襲撃を諦めて森の中へと消えていった。
オークに襲われていた冒険者は、こちらに感謝の合図を送ると、すぐに馬車を走らせ始めた。
その日の夕方、無事にラストックへと辿り着くことができたが、いつもに比べると倍以上の魔物と遭遇した。





