苦労人ジョーは、足止めを食らう(前編)
※今回は、近藤目線の話になります。
一月五日の早朝、俺たちはラストックへ向かうべく、夜明け前の城門に集合していた。
新年最初の仕事は、オーランド商店からの初荷輸送の護衛仕事だ。
普通の依頼ではなくて、商会主のデルリッツさんからの指名依頼だ。
指名依頼は、通常の依頼よりも依頼料が割り増しになる。
指名された理由は、初荷を確実に届けるために、信用のおける冒険者に依頼したいという事になっているが、それを全面的に信用はしていない。
デルリッツさんとすれば、国分健人という規格外の冒険者との繋がりを切らさないためにも、俺たちとの繋がりもキープしておきたいのだろう。
俺たちとしても、いつもオーランド商店の依頼では慣れや甘えが出てしまい、冒険者としての成長が滞る恐れがあるが、ヴォルザードで一番大きな商会の指名を断る理由も無い。
向こうから繋がりをキープしておきたいと思われているのであれば、わざわざ断って繋がりを切る必要は無いのだ。
まぁ、護衛の依頼はたまにしか受けていないが、タツヤとカズキは日本の製品をこちらで作れないか、あれこれと持ち込みをしているようだ。
すでに蚊取り線香で実績を上げているし、今は缶詰の開発に協力しているらしい。
あいつらは遠征中に自分たちが楽することしか考えていないみたいだが、実用化されれば莫大な権利金が入って来るだろう。
それこそ、冒険者なんて辞めると言い出すのではないかと、少し不安になっている。
まぁ、新旧コンビが抜けるなら、新たなメンバーを探すだけだ。
新しい仲間と組んで仕事をするのも、冒険者の醍醐味だろう。
「よし、みんな、新年一発目の仕事だから気合い入れていこう!」
「おぅ、任せとけ! 家族のために俺は頑張るぞ」
「今年は成長の一年にするからな」
「まぁ、頑張るさ……」
鷹山と新田は気合いが入っているのだが、古田が腑抜けている感じがする。
例によって鷹山は嫁と娘が可愛くて今年も幸せそうだし、新田は革職人の娘と上手くいっているらしくて幸せそうなのだが、古田にだけ浮いた話が無い。
昨日、今日からの依頼について確認したついでに、大丈夫なのかと声を掛けたのだが、まぁ発散はしてるから大丈夫だと言っていた。
たぶん、俺たちが知らないうちに娼館にでも行ってるのだろうが、ずっとコンビを組んでいた新田にだけ春が来ている状態で、依頼に影響が出なければ良いのだが……。
今ここで心配をしていても仕方がないので、古田を信じるしかないのだろう。
オーランド商店の馬車は、先に来て守備隊の検閲も済ませていた。
「今年もよろしくお願いします」
「おう、今年もよろしくな!」
オーランド商店のエウリコさんたちに、全員揃ってキッチリ頭を下げる。
挨拶は全ての基本だと、俺たち運動部経験者は体に染みついているが、冒険者の中には、そうした礼儀に対する意識の薄い者も少なくない。
おかげで俺たちの株が上がっているのだが、冒険者という職業に対するイメージをあげるには、業界全体で取り組むべきなのだろうが、俺たちはまだ自分のことで精一杯だ。
もう少し経験を積んで、他の年下のパーティーとの交流が増えるようになったら、少しは指導した方が良いのかもしれない。
ただ、冒険者は舐められたら終わりだ……などと変に意固地な連中もいるので、意識改革のようなものは難しいのかもしれない。
「エウリコさん、これが今年の初荷なんですね?」
「おぅ、そうだぜ、これがオーランド商店の初荷だ」
オーランド商店の馬車には、赤地に白く初荷という文字を染め抜いた幕が掛けられている。
馬車にこうした装飾を施すのは、金目の物が載っていますと宣伝するようなもので、安全面を考えるならば避けるべき行動だが、デルリッツさんの考え方は違っている。
一流の商会は相応に綺麗な馬車を使うべきであり、襲われたとしても跳ね返すだけどの力を備えているべきだ……と言うのがデルリッツさんの考えだ。
だから、普段ラストックやマールブルグに向かう馬車の幌にも、オーランド商店の文字とブランドマークが染め抜かれている。
護衛を務める身としては、危険度が増すデメリットがあるが、そうした馬車を安全に送り届ければ実績にもなる。
あのオーランド商店の馬車を、一度も襲われることな護衛し続けている……これは俺たちにとって、ギルドからも認められる実績なのだ。
「それにしても凄い数の馬車ですね」
「仕事始めの日だし、魔の森が安全に抜けられるようになって、最初の年明けだからな」
「なるほど、それだけラストックに向かう人が多いってことですね」
かつてラストックとヴォルザードを行き来するのは命懸けだった。
俺たちが初めてヴォルザードに来た時も、道中は国分の眷属に守ってもらわなかったら全滅していただろう。
それが、殆ど魔物に襲われる心配が無くなり、ラストックが洪水で大きな被害を受け、復興の途上であることも手伝って、今は活発に商人たちが往来している。
「さて、そろそろ門が開くぞ。俺たちも準備しよう」
「はい!」
俺たちはヘッドセット式のトランシーバーを準備して、感度チェックを終わらせた。
日本の進んだ技術を使うのも俺たちのアドバンテージだし、他の者からすれば卑怯だと感じるかもしれないが、止めるつもりはない。
夜明けと共に門が開き、俺たちの初仕事が始まる。
「ジョー、随分と薄着に見えるが、寒くなのか?」
「えぇ、中はしっかり着込んでいますから」
厚手の綿素材のジャケットの下には、ダウンのインナーを着込んでいる。
依頼の最中には焚火をする機会が多いので、ナイロン素材のジャケットでは穴が開いてしまう。
でも、風を通さない綿のジャケットだと重たくなるので、良い所取りの重ね着をしているのだ。
ちなみに、寝袋も今の時期はダウンのものを使っている。
ダウンの下はフリース素材の物を使い、更に保温性を高めているから、御者台で風に吹かれていても殆ど寒くない。
それと、真空断熱ボトルには、あたたかいお茶を入れて持参している。
頭はフリース裏地のニット帽を被り、暴風用のマスクをしている。
外気に晒されているのは、目の回りだけだ。
この状態で、もし雨が降り出してきたら防水のポンチョを着込む予定だが、天気は快晴で雨の心配は要らなさそうだ。
「こちら近藤、前方はクリアー、各自問題は無いか、どうぞ」
「こちら鷹山、問題無し、どうぞ」
「こちら新田、同じく問題無し、どうぞ」
「古田も問題無し、寒さも大丈夫そうだ、どうぞ」
「近藤了解、このまま気を抜かずに行こう」
ラストックへ向かう道中は、風も穏やかで順調そのものだった。
最初の野営地近くで、早めの昼食を済ませ、休憩を終えて走り出した頃だった。
「おっ、どうした、どうした?」
先頭の馬車で手綱を取っているエウリコさんが、馬の異変に気付いて速度を落とした。
何やらしきりに、空や森に視線を向けている。
「こちら近藤、馬が落ち着きを失っている。理由は不明、少し速度を落とす、どうぞ」
「鷹山了解、二台目の馬も落ち着きが無い、どうぞ」
「こちら新田、了解、三台目の馬も何かを気にしている様子、どうぞ」
馬が落ち着きを失ったのは、五分ほどの間だったが、俺たちは先へと進み、その日の野営地に辿り着いた所で理由を知ることになった。
「ドラゴンだと? 見間違えじゃないのか?」
「ケント・コクブからの情報だ。誤報の可能性は低いだろう。あんたらも、なるべく早く森を出る算段をするんだな」
門番から異変の理由を聞かされたが、魔の森のど真ん中の野営地に辿り着いたばかりだ。
一日走り続けた馬を休ませない訳にはいかないし、俺たちは腹を括ってここで野営するしかないのだ。
それにしてもドラゴンって……頼むぜ、国分。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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