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22/22

終 そしてその後…

「――結局のところサ、エドガーはどうしてマリアちゃんの事がそんなに好きだったわけ?」


 駅前にある喫茶店の、窓際の席に腰掛け如月叶が言う。すったもんだの決着がついて翌日の、現在は昼過ぎだ。窓の外すぐ下にある植え込みでは又吉が箱座りして行き交う人々を気のない風に眺めている。そんな又吉を見やりつつイチゴパフェをつついていた朋幸は、うん? と首を傾げてから口を開いた。


「あー、なんか昔、マリアが高校生の頃に一度だけ会ったことがあったんだって。そんで、絆創膏くれたんだって。見ず知らずの人に優しくされたのそれが初めてだったらしくてさ」


 救われたような気がしたのだと、エドガーは話していた。たったそれだけの事だったけれど、

 生きていてもいいのだと、

 許されたような気がしたらしい。


「でもさ、怪我してんの見つけて絆創膏が手元にあったらさ、やるじゃん? 普通。俺はそう思うんだけど、でもずっと好きだったんだってさ」

「ふぅん」

「聞いたら二年前まで、海外にいて、マリアと一度だって会わなかったし、見かけもしなかったんだぜ、エドガー。なのにずっと好きで、ずっとマリアの事を想ってたって、すごいっつーか、うーん……。たったそんだけの事で、人ってあそこまで人を好きになれるもんなんだなぁ」


 エドガーも、朋幸にだけは言われたくない台詞だろう。なんて事を突っ込む者もおらず、いても姿も声も無い。

染み染みと感じ入るように頷く朋幸に、叶が朗らかな微笑をこぼした。


「俺はちょっと分かる気がするけどね」

「うん?」

「不幸な人間は、降って湧いた幸福に弱いんだよ」

「……ふぅん?」


 よくわかんねぇや、とソファへ身を沈める。そうしてから、朋幸は隣に座る魔王を見た。魔王は難しい顔で文面を追っている。昨日桜花が持っていた、そして前に座る魔女が今日改めて持ってきた、あの誓約書だ。とりあえずサインしようとした魔王を小突いてきちんと内容を把握するよう指示したのは朋幸である。本能で即決してばかりいるような朋幸だが、これでも一応社会人なので契約書類関係には慎重ならしい。

 もっとも、魔王が内容を把握出来るのかどうかは別問題なのだが。

 そこまで関与する気は無いのか、手助ける素振りすらなく朋幸は視線を叶へと戻す。


「でも、なんでそんな事訊くんだ? 調書かなんかに書くのか?」

「いや、この件はどこにも報告しないよ。せいぜい桜花ちゃんに聞かれたら教えるくらいかな。示談で済んだ事をわざわざ事件扱いして再点火したってしょーがないデショ。別に上から調べろとも云われて無いし? 俺はそこまでお仕事人間じゃありませーん」

「そっか、お前いいやつだなぁ」

「あはは、朋幸ちゃんは変わってるよね」

「そうか? 普通だろ」

「おい、サインしたぞ」


 和やかに笑みを交わす二人の交錯点に、ずいと書類が割り込んだ。


「はいはい。えーっと……うん、確かに、確認しました。こっちはそちら用の控えね。紛失しても再発行しないだろうからそのつもりで」

「わかった」


 頷いて魔王はそれを小さく折りたたむと懐へ仕舞った。それを見届けてから、叶がさてと、と呟き立ち上がる。


「それじゃ、俺はもう行くね。ごゆっくり」

「ん、そうか」

「もう二度と会わない事を願っとくよ。次も大団円とは限らないしサ」

「そうか? 俺はまた会いたいと思ってるぞ。お前の事、結構好きだからな」

「へぇ、そう? 朋幸ちゃんみたいな美人さんに好かれるのは大歓迎だよ」


 ――だから余計に二度と会いたく無いな。

 にっこり笑顔でそう告げて、叶は伝票を取った手をひらりと振った。


「Ciao」


 すたすたと、叶はレジへ向かい、会計をすませて、ドアをくぐり、消えも飛びもせずに歩いて朋幸の前から去っていった。

 魔女だからって、いつでも魔女らしく去っていくわけではないらしい。

 朋幸はその背中をすっかり見送ってから、魔王、と何気ないふうに呼んで


「お前俺に惚れてるだろう」


 と言い放った。

 ガダンッ、と痛そうな物音が一瞬だけ店内を静まり返らせる。立ち上がろうとしたのかどうしようとした結果か、思いっきり膝をテーブルの底へ打ち付けた魔王は、しかし痛がる様子も無く驚愕を顔に貼り付けて朋幸を凝視した。


「っ、な、!?」

「別に根拠があって言ってるわけじゃ無ぇから、違ったら悪ぃんだけど」

「ちがっ」


 ――違わない。

 とは、言い切れなかった。

 だって拒絶されるのかもしれない。


「ちが……わなかったとしたら、どう、するんだ?」

「どうもしねぇよ」


 半ばまで減ったパフェを突っつき回し、底のコーンフレークを掻き出して掻き回しながら朋幸は、至極どうでもよさそうな口調で言う。


「どっちだったとしても俺が惚れているのは秋広だしな。あんま変わりが無ぇっつーか」


 ううん、とスプーンを口に咥えて唸る。

 どうでもよさそうな口調だけれど、一応それなりに真剣に考えているらしく、ううん、と重ねて唸って熟考した朋幸は、


「愛ってさ、自分勝手でエゴまみれなもんだと、俺は思うんだよ」


 そんな事を言い出した。

 魔王は黙って聞いている。


「俺が秋広の事をずっと好きなのも、俺の勝手なわけだし」


 その言葉は、

 視線が朋幸の、あの指輪へと吸い寄せられる。


「だから魔王が俺の事をどう想ってたって、それは魔王の勝手で、俺がどうこう言う事じゃねぇなって、思うんだよ」

「……朋幸は」


 婚約指輪を注視したまま、魔王は口を開いた。


「うん?」

「俺が、朋幸の事を、その、そういうふうに想っていたとして、嫌だったり、しないのか」

「んんー……」


 即答、では無かった。腕組みをして瞼を閉じそのまま十秒ばかり熟考して、熟考の末に


「よくわかんねぇ」


 なんて、答えになっていない答えを出した。

 がくりと魔王の身体が傾く。


「わ、わからない……のか」

「わかんねぇ。惚れた腫れたとかそういう話題がそもそも俺苦手だし、だいたい俺みたいな男女に惚れる酔狂な男が秋広の他にいるなんて今まで思いもしなかったし」

「すいきょうってなんだ?」

「変人ってことだよ。まぁでもお前魔王だしな。変なくらいで普通なのかもな」

「…………朋幸ほどじゃあ無いと思う」

「俺? 俺は普通だよ」


 そんなわけがあるか。と、言いたかったが魔王は口をつぐんだ。そういう話をしているんじゃなくて、今聞きたいのはそんな事ではなくって。


「俺は朋幸に惚れていてもいいのだろうか」

「いいんじゃねぇの?」


 即答だった。


「愛することは、自由だろ」


 考えるまでもないとでもいうような当たり前の口調でそう言って、朋幸はにかりと笑ったのだった。




…END?

オリジナルでは初めて書いた、恋愛メインの小説です。できるだけ頭をカラにしてラノベちっくに書こう、なんて思っていたら詰め込みすぎの乱雑すぎのけったいな出来栄えに仕上がりました。案の定公募先では一次落ちです。でもまぁ面白おかしく楽しみながら書けたのでこれはこれで良しとして、反省は次回に活かす所存。それはともかく彼女彼らのラヴコメディー、これにてひとまず幕と致します。ここまでお読み下さり感謝感激雨あられ。いずれ別の作品でもお目にかけていただければ幸福至極。ではひとまず、これにて失礼。

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