11-4 公爵令嬢のお茶会
「次のお休み、よろしければまたお茶をご一緒しませんか?」
昼食を終えた頃、そう声をかけてくれたのはコレットだった。
学院祭の事件からしばらく経ち、ノエルもコレットも以前と変わらず授業に出席している。最近では廊下ですれ違うだけでなく、昼食や休憩時間を一緒に過ごすことも増えていた。
「ええ、ぜひ」
セレスティーナが答えると、隣にいたミアも嬉しそうに頷いた。
「私もご一緒したいです。今度はどちらにしましょう?」
「中庭はいかがでしょう。午後になると日陰もできますし」
ノエルの提案に、コレットも頷いた。
「そうですね。最近は少し暑くなってきましたから」
四人でお茶を飲む。それは、とても楽しみなことだった。
けれど、セレスティーナはふと考えた。
中庭も素敵だけれど、雨が降ったらどうするのだろう。学院には生徒が自由に使える談話室もあるし、いつものラウンジでもよいかもしれない。
そこまで考えたところで、古い記憶が浮かんだ。
高位貴族の令嬢は、親しい友人を招いて茶会を催すもの。
それは幼い頃から教えられてきた、ごく当たり前の社交の一つだった。
客人を迎えるための作法。招待状の書き方。茶器や菓子の選び方。花の飾り方。席次の決め方。
頭の中には、そうした知識がいくつも残っている。
けれど、今のセレスティーナが自分で茶会を開いたことは、一度もなかった。
「あの、皆様」
セレスティーナは少し姿勢を正した。
「もしよろしければ、わたくしのお部屋へいらっしゃいませんか?」
三人が顔を上げた。
「セラ様のお部屋へ、ですか?」
「はい。お茶とお菓子をご用意して、皆様をお迎えできたらと思いまして」
言いながら、少し心配になった。
公爵令嬢の部屋へ招くなど、かえって気を遣わせてしまうだろうか。三人はいつも親切にしてくれるけれど、それと招待を受けることは別かもしれない。
「もちろん、ご都合がよろしければ、でございますが……」
「ぜひ伺いたいです!」
真っ先に答えたのはミアだった。
「セラ様のお茶会なんて初めてですもの。とっても楽しみです」
「私も、ぜひ」
ノエルが微笑む。
「ありがとうございます、セレスティーナ様。楽しみにしております」
コレットも嬉しそうに頷いた。
「……まあ」
セレスティーナは目を丸くした。それから、自然と頬が緩んだ。
「ありがとうございます。では、次のお休みに……」
そこまで言って、少し考えた。
次の休日は、もう三日後だ。茶器や菓子を用意するだけなら間に合うかもしれないけれど、せっかく初めて皆様をお招きするのだから、もう少し準備をしたい。
「……いえ、その次のお休みではいかがでしょうか」
「再来週ですね?」
「はい。少し、お支度をしたいと思いまして」
「もちろんです!」
ミアが頷くと、ノエルとコレットも快く了承してくれた。
「それでしたら、以前お話しした庭の絵をお持ちしてもよろしいでしょうか」
ノエルの言葉に、セレスティーナは顔を上げた。
以前、二人が故郷の庭について話してくれたことがあった。
花の咲く季節や、窓から見える景色。ノエルの家の庭には小さな池があり、コレットの家には母親が大切に育てている薔薇があるという。
いつか絵を見せてもらえると聞いて、とても楽しみにしていた。
「もちろんでございます。ぜひ、拝見したいです」
「では、持ってまいりますね」
ノエルが笑った。
「私も、母に送ってもらった絵がございますので、お持ちします」
「まあ……ありがとうございます」
セレスティーナは嬉しくなった。
三人が、自分の部屋へ来てくれる。お茶を飲みながら、故郷のお話を聞かせてもらえる。
次のお休みを一度挟んで、その次の休日。
まだ十日ほども先のことなのに、もう待ち遠しくなっていた。
その日の夕方、セレスティーナが寮へ戻ると、エマがいつもどおり出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま戻りました、エマ」
上着を預けながら、セレスティーナは何か言いかけた。けれど、まずは手を洗い、着替えを済ませた方がよいだろうと思い直す。
エマに手伝ってもらって部屋着へ着替え、用意されていたお茶を一口飲んだところで、改めて声をかけた。
「エマ。少し、ご相談したいことがございます」
「はい。何でございましょう」
「その……十日ほど先のお休みに、お友達をお部屋へお招きしたいと思っております」
「お客様でございますか?」
「はい。ミア様と、ノエル様、コレット様のお三方です」
エマは少し目を見開いた。
「お茶会をなさる、ということでしょうか」
「はい。もし、よろしければ……」
「もちろんでございます」
返事はあっさりとしたものだった。
「お嬢様のお部屋へご友人をお招きすることに、何の問題もございません」
「……そうでございますか」
セレスティーナはほっとしたように微笑んだ。
「ありがとうございます」
エマは小さな手帳を取り出した。
「お日にちは、次の次の休日でございますね。お時間は午後のお茶の頃でよろしいでしょうか」
「はい」
「承知いたしました。お客様は三名ですね」
「はい。よろしくお願いいたします」
エマは頷き、必要なことを書き留めた。
公爵令嬢が友人を招いて茶会を催す。それはごく普通のことだった。
むしろ、これまでセレスティーナが一度もそうした催しを望まなかった方が不思議なくらいだ。
学院へ来たばかりの頃は、以前から親しくしている令嬢がいるとも聞かなかった。最近になってようやく、聖女ミアのほかにも友人と呼べる相手が増えたらしい。
それならば、茶会の一つくらい開きたくなるのも自然だろう。
「茶器やお菓子のことは、明日ご相談いたしましょう」
「はい。ありがとうございます」
セレスティーナは嬉しそうに頷いた。
その日はそれで話が終わった。
ところが、夕食を終えたあとだった。
「エマ。少しお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「はい、お嬢様」
「お茶会に使う卓は、どのくらいの大きさになりますか?」
エマは少し考えた。
「四名様でお使いになりますので、直径一メルテほどの円卓をご用意する予定でございます」
「直径一メルテ……」
セレスティーナは小さく頷いた。
「ありがとうございます」
それから机へ向かい、紙を一枚取り出した。
エマは茶器の確認を続けていたが、しばらくして、机に向かうセレスティーナの様子が目に入った。
紙の上には、大きな四角形が描かれている。その縁に沿って、細かな曲線がいくつも書き込まれていた。
「……お嬢様?」
「はい?」
セレスティーナが顔を上げた。
「何を描いていらっしゃるのですか?」
「卓布の図案でございます」
「……卓布、でございますか?」
「はい。せっかく皆様がいらしてくださいますので、少し刺繍を施せたらと思いまして」
エマは机の上を覗き込んだ。
一メルテ半四方の布を想定した図案らしい。
四隅にはそれぞれ異なる花が配され、縁には細い蔓草が巡らされている。蔓の間には小さな葉や蕾が描かれ、ところどころに別の花が差し込まれていた。
とても綺麗な図案だった。
ただし、ひどく細かい。
「……こちらを、すべて刺繍なさるおつもりですか?」
「はい」
セレスティーナは頷いた。
「本当は中央にも模様を入れられたらと思ったのですが、十日ほどしかございませんので、今回は縁だけにしようかと」
エマはもう一度、紙を見た。
縁だけ。
確かに、中央は白いままだ。
けれど、その縁を一周する蔓草には、数えきれないほどの小さな葉がついている。四隅の花も、一輪ごとに花びらの重なりまで描き込まれていた。
「……お嬢様」
「はい?」
「こちらは、どのくらいのお時間で仕上げるご予定でしょうか」
「そうですね……」
セレスティーナは図案を見つめた。
「一日、六時間ほどあれば、間に合うかと思います」
エマは手にしていた茶器の目録を、そっと机へ置いた。
六時間。
毎日。
十日間。
「……お嬢様。学院の授業もございますね」
「はい」
「現在は、殿下からお預かりしている調査資料もございます」
「ええ。そちらは決められた時間に確認しております」
「承知しております」
エマは頷いた。
「では、刺繍の六時間は、いつ確保なさるおつもりでしょうか」
セレスティーナは少し考えた。
「授業が終わってから、夕食までに少し。あとは、夕食後に……」
「お休みになるお時間がなくなってしまいますよ」
「……そうでございますか」
セレスティーナは時計を見た。
確かに、六時間というのは少し長いかもしれない。けれど、図案を簡略化すれば、もう少し短くできるだろう。
「では、葉の数を少し減らして……」
「お嬢様」
「はい?」
「今回は、もう少し小さなものになさいませんか?」
セレスティーナは目を瞬いた。
「小さなもの、でございますか?」
「はい。毎日一時間ほどで進められる程度のものがよろしいかと存じます」
「一時間……」
セレスティーナは図案を見た。
一時間。
それならば、あまり大きなものは作れない。
「……小さなお花を、数個ほどでしょうか」
「そうですね」
「それですと、卓布には少し寂しいかもしれませんね……」
セレスティーナは残念そうに紙を見つめた。
それから、ふと思いついたように顔を上げる。
「ですが、お休みの日を使えば、もう少し……」
「お休みの日でございますか?」
「はい。今度のお休みは、特に予定もございませんので」
エマは少し驚いた。
「……お嬢様。お休みの日を、丸一日針仕事にお使いになるおつもりですか?」
「……丸一日、ではございませんが」
セレスティーナは少し考えた。
「午前中から始めれば、夕食までにはかなり進められるかと……」
「それでは、ほとんど一日でございますよ」
「……そうでございますね」
セレスティーナは素直に頷いた。
エマは小さく息をついた。
以前にも、セレスティーナは刺繍に夢中になって、何日も夜遅くまで針を動かしていたことがある。本人は楽しそうだったし、仕上がったものも見事だった。
けれど、楽しいからといって、何時間でも続けてよいわけではない。
まして、今回は十日後のお茶会のためだ。今から毎晩六時間も刺繍をしていたら、当日には疲れ切ってしまうかもしれない。
「お嬢様。少しご提案してもよろしいでしょうか」
「はい」
「卓布は、こちらで綺麗なものをご用意いたします。その代わり、お客様への小さな贈り物をお作りになるのはいかがでしょう」
「贈り物……」
「はい。たとえば、コースターなどはどうでしょうか」
エマは戸棚から、淡い色の布を何枚か取り出した。
小さな正方形の絹地に、繊細なレースが縫い付けられている。もともと刺繍の手習い用として用意されていたものだ。
「こちらでしたら、中央に小さなお花を刺すだけでも綺麗でございます。お一人ずつ違う模様にすることもできますよ」
セレスティーナは布を受け取った。
柔らかな手触りだった。
小さな正方形。
中央に花を一輪。
あるいは、小さな花束でもよいかもしれない。
「……まあ」
セレスティーナの表情が明るくなった。
「とても素敵でございますね」
「お気に召しましたか?」
「はい。皆様にお渡しできるのでしたら、ぜひ」
セレスティーナは三枚の布を並べた。
「ノエル様には青い花を。コレット様には薔薇がよろしいでしょうか。ミア様には……」
「お嬢様」
「はい?」
「まずは、一日一時間ほどで仕上げられる図案をお考えくださいませ」
セレスティーナは布を見た。
三枚。
十日間。
一時間ずつ。
小さな花をいくつか刺す程度なら、十分に間に合うだろう。
「……そうでございますね」
少し考えてから、微笑んだ。
「ありがとうございます、エマ。では、こちらにいたします」
「承知いたしました」
エマはほっとした。
少なくとも、卓布の縁を一周する細密な刺繍は避けられた。
あとは、明日から本当に一時間で針を置いてもらえるかどうかだ。
翌日、エマは茶会の準備について、いくつかの目録を用意した。
茶葉、菓子、果物、花。
いずれも学院の厨房や王都の商店を通して手配できるものだった。
セレスティーナは机へ広げられた紙を、少し驚いたように見つめた。
「こんなに種類がございますのね」
「はい。お客様をお迎えする場合は、いくつかの茶葉と菓子をご用意するのが一般的でございます」
「そうでございますか」
セレスティーナは目録を順に確認した。
茶葉には産地と等級が記され、菓子には使われる材料や、一皿あたりの価格が添えられている。
王都で人気の焼き菓子。
季節の果実を使った小さな菓子。
砂糖をふんだんに使った細工菓子。
遠方から取り寄せる香り高い茶葉。
どれも美味しそうだった。
けれど、セレスティーナには一つ気になることがあった。
「あの、エマ」
「はい」
「こちらは、すべて用意しなければならないのでしょうか」
「いいえ。お好みのものをお選びいただければ結構です」
「そうでございますか」
セレスティーナはほっとした。
それならば、普段いただいているもので十分ではないだろうか。
学院の厨房で作られる焼き菓子は、どれも美味しい。果物も新鮮で、食べやすいように切り分けてくれる。
何より、自分が美味しいと思ったものを、三人にも食べてもらえたら嬉しい。
「それでしたら、普段わたくしがいただいているお菓子や果物をお願いできますか?」
エマは頷いた。
「もちろんでございます」
「特別なものではなくても、よろしいでしょうか」
「お嬢様が普段召し上がっているものは、お客様へお出ししても差し支えない品でございます」
「まあ、そうなのですね」
セレスティーナは嬉しそうに微笑んだ。
エマは目録に印を付けた。
普段のおやつとして用意している焼き菓子は、そもそも公爵令嬢のために選ばれたものだ。上質なバターや砂糖、季節の果物を使い、厨房で丁寧に作られている。
ただし、普段の一人分と客人を迎える席では、盛り付けや種類を少し変えた方がよい。
「では、焼き菓子を数種類と、季節の果物を使った菓子をご用意いたしましょう。茶葉はこちらの二種類でいかがでしょうか」
「はい。お願いいたします」
「それから、お客様のお好みで召し上がれるよう、果物も別皿にいたしますね」
「ありがとうございます」
セレスティーナは頷いた。
そこまで決まると、ふと気になることができた。
「あの、エマ」
「はい」
「お茶会の費用は、どのくらいになりますでしょうか」
エマは少し考えた。
「今回の規模でしたら、それほど大きな額にはならないかと存じます。茶葉や菓子、花を含めても、大銀貨数枚ほどでしょうか」
「……大銀貨、数枚」
セレスティーナは小さく繰り返した。
金額の意味は分かる。
大銀貨が何枚で、小銀貨が何枚。
計算もできる。
公爵領の収支について学んだこともあったし、王国の税収や、領地を維持するための費用についても知っている。
大金貨がどれほど大きな額なのかも、知識としては理解していた。
けれど。
お茶会に、いくら使うのが適切なのだろう。
自分が誰かを招くために、これだけのお金を使ってよいのか。
その判断が、うまくできなかった。
「……エマ」
「はい」
「こちらは、お客様をお迎えするのに適切な額でしょうか」
「はい。公爵令嬢のお茶会としては、控えめな方かと存じます」
「控えめ……」
「今回は親しいご友人を三名お招きする、私的なお茶会でございますので。大がかりな準備も必要ございません」
「そうでございますか」
セレスティーナは目録を見つめた。
控えめ。
そう言われても、まだ少し不思議だった。
菓子が数種類。
茶葉が二種類。
花と、その他の準備。
どれも必要なものなのだろう。
けれど、この菓子一つで、いったいどれほどのものが買えるのだろう。
そこまで考えたところで、ふいに別の記憶が浮かんだ。
小さな袋に入った、パンの耳。
五十円。
あれを見つけた日は、とても嬉しかった。
少し硬くなっていても、水に浸せば食べられる。何日かに分ければ、もっと長く持たせられる。
だから、買えた日は嬉しかった。
とても。
目録に並ぶ菓子を見つめる。
この焼き菓子一つで、あのパンの耳をいくつ買えるのだろう。
十個だろうか。
それとも、もっと。
「……お嬢様?」
エマの声で、セレスティーナは顔を上げた。
「はい?」
「何か、ご不明な点がございましたか?」
「……いえ」
セレスティーナは微笑んだ。
「少し、考え事をしておりました」
「そうでございましたか」
エマはそれ以上尋ねなかった。
セレスティーナは改めて目録へ目を落とした。
ここでは、パンの耳を探す必要はない。
毎日、温かい食事をいただける。
美味しいお菓子も、果物もある。
そして今度は、それをお友達と一緒にいただけるのだ。
何だか、とても贅沢なことのように思えた。
「……では、こちらでお願いいたします」
「承知いたしました」
エマは目録を受け取った。
「費用は、お嬢様のお手当からお支払いする形でよろしいでしょうか」
「はい。もちろんでございます」
そこまで答えてから、セレスティーナはふと顔を上げた。
「あの、エマ」
「はい」
「わたくしのお手当は、今、どのくらい残っておりますでしょうか」
エマは少し意外そうな顔をした。
「毎月のお手当でございますか?」
「はい」
「少々お待ちくださいませ」
エマは帳簿の頁をめくった。
公爵家からセレスティーナへは、毎月決まった額の手当が送られている。
衣服や生活に必要なものの多くは別途公爵家が負担するため、この手当は主に個人的な買い物や交際費として使うものだった。
しかし、セレスティーナはほとんど使っていない。
時折、友人への贈り物や細かな買い物がある程度で、大きな支出はなかった。
「現在は、大金貨九枚と、小金貨が数枚、それに銀貨が残っております」
セレスティーナは瞬きをした。
「……そんなに、でございますか?」
「はい」
「まあ……」
セレスティーナは少し考えた。
大金貨九枚。
領地の収支を学んだときには、もっと大きな金額を扱ったこともある。
けれど、それは公爵家や領地を動かすためのお金だった。
自分が自由に使ってよいお金として考えると、どうにも実感が湧かない。
「……わたくし、あまり使っておりませんでしたのね」
「左様でございます」
エマは淡々と答えた。
「必要なものは、その都度ご用意しておりますので」
「そうでございますね」
セレスティーナは頷いた。
少し考えてから、もう一度尋ねる。
「では、今回のお茶会で使っても、問題はございませんか?」
「まったくございません」
エマの返事は早かった。
「お嬢様には、毎月大金貨一枚のお手当が届いております。もし不足するようでしたら、追加をお願いすることもできますので」
「……追加、でございますか?」
セレスティーナは目を丸くした。
「はい。必要なものがございましたら、公爵家へご相談できます」
「まあ……」
そういえば、そんなことも教わった気がする。
元のセレスティーナは、欲しいものがあれば公爵家へ申し付ければよいと考えていた。
必要なものを手配してもらうのは当然のことで、費用を気にすることなどほとんどなかった。
その記憶は残っている。
けれど、今のセレスティーナには、どこか他人の話のように思えた。
「……今でも、十分でございますのに」
思わず呟くと、エマは小さく微笑んだ。
「はい。ですから、今回のお茶会については何もご心配いりません」
「……そうでございますね」
セレスティーナはようやく安心したように頷いた。
「ありがとうございます。では、よろしくお願いいたします」
「承知いたしました」
エマは帳簿を閉じた。
それから、当日の準備について説明を始めた。
「お客様がお見えになりましたら、こちらへご案内いたします。お茶と菓子は、私どもでお運びいたしますので」
「まあ」
セレスティーナは少し驚いた。
「そこまでしていただけるのですか?」
「はい」
「ですが、お茶とお菓子をご用意いただければ、あとはわたくしで……」
エマは顔を上げた。
「お嬢様」
「はい?」
「お客様への給仕は、私どもの仕事でございます」




