7-10 来年も一緒に
ある昼食時、ミアはふと、気がかりだったことを思い出した。
「そういえば、来年の選択課程ですけど、皆さんはもう決めているんですか?」
アレクサンダーが顔を上げる。
「まだ決めてなかったのか? 期限はプロムの前日だろ」
「決めてないわけじゃありません。ずっと考えてはいたんですけど、最後のところで迷っていて」
「一年の最初から案内されてたのに」
「だから、一年間考えてたんです」
ミアがむくれると、ジークバルトが笑った。
「俺は騎士科。最初から変わってない」
「ジークは、ほかを選ぶ姿が想像できませんね」
「だろ? 剣術だけじゃなく、護衛や軍事の授業も増えるから楽しみなんだ」
ジークバルトは満足そうに言い、肉を一切れ口へ運んだ。
「僕は政務科。殿下も同じだよ」
トビアスが続けると、アレクサンダーも頷く。
「ああ。領地経営や財政を学ぶからな。俺が選ばないわけにはいかない」
「殿下は座学の成績も伸びましたものね」
セレスティーナが穏やかに言う。
「……お前に言われると、なんだか複雑だな」
「セレスティーナ嬢は、座学も実技もほとんど満点だからね」
トビアスがからかうと、アレクサンダーは眉をひそめた。
「わたくしは、幼い頃から家で教えていただいていただけです」
セレスティーナは平然と魚料理へフォークを入れた。ミアはスープを飲みながら、選択課程のことを考える。
騎士科、魔術科、政務科、家政科。一年次の共通科目は残るものの、二年次からは選んだ課程の授業が増える。五人がいつも同じ教室にいるわけではなくなるのだ。
「家政科って、家を管理する勉強ですよね?」
「それだけじゃないよ。人を招くことや社交も含まれる」
トビアスが説明する。
「屋敷を取り仕切る人だけじゃなく、侍女や執事、侍従を目指す人も選ぶ課程だね。学ぶ内容も、それぞれ違う」
ミアは頷いた。庶民から貴族になって、まだ一年ほど。家政科で学べることは、きっと役に立つ。
「セラ様は、政務科か家政科ですか?」
「いいえ。わたくしは魔術科にいたします」
「魔術科?」
ミアが聞き返すと、アレクサンダーも意外そうにセレスティーナを見た。
「政務や家政は、公爵家でも学んでまいりました。王太子妃としての教育にも含まれておりますから。学院で学ぶなら、ここでしか読めない資料の多い魔術科がよろしいかと」
「資料目当て?」
ジークバルトが笑う。
「実習も楽しみでございます」
セレスティーナは、いつになく素直に付け加えた。その表情を見て、ミアは少し羨ましくなる。セレスティーナには、学びたいものがはっきりしている。
「ミアは魔術科にすると思ってたけど」
トビアスに言われ、ミアは鞄から希望書を取り出した。
「私も、そうしたいとは思っていたんです。でも、聖女の力は普通の魔術と違うでしょう? 魔術科で習ったことが、私の力にも役立つのか分からなくて」
「聖女のお力については、文献も少のうございますからね」
セレスティーナがフォークを置く。
「やっぱり、そうなんですか?」
「はい。だからこそ、学ぶ価値はあると思います」
ミアは希望書へ目を落とした。分からないことが残るのは、どの課程を選んでも同じだ。それなら、ずっと学びたいと思っていた魔術科を選びたい。
「……やっぱり、魔術科にします」
「ミア様もでございますか?」
セレスティーナのすみれ色の瞳が明るくなる。
「はい。セラ様と一緒なら、心強いですから」
「来年もミア様とご一緒できるのでしたら、わたくしはとても幸せでございます」
ふんわりと微笑まれ、ミアも笑顔になった。
「決め手は、セレスティーナがいるからじゃないのか?」
アレクサンダーがからかう。
「それも決め手の一つですけど、ちゃんと考えたんです!」
ミアは頬を膨らませた。
「一年間ずっと、魔術科にしようかなって思っていました。セラ様のお話を聞いて、最後に決められただけです」
「分かった、分かった」
アレクサンダーが笑う。その向かいで、セレスティーナは嬉しそうにミアを見ていた。
「聖女のお力についても、何かお手伝いできないか考えますね」
「嬉しいです。でも、セラ様も無理はしないでくださいね」
「承知しております」
「何かあったら、私にも相談してください」
「はい、ミア様」
二人は希望書を覗き込み、来年の実習について話し始めた。
その様子をしばらく眺めていたアレクサンダーが、ぽつりと言う。
「……俺も、やっぱり魔術科にしようかな」
すぐにトビアスの肘が脇腹に入った。
「殿下。さっき政務科に決めたって言ったよね」
「言った。ちょっと思っただけだ」
ジークバルトが吹き出す。ミアが顔を上げると、アレクサンダーは何でもない顔で食事へ戻った。
セレスティーナは、二年次になってもミアと魔術を学べることがよほど嬉しいらしい。実習で使う資料の話をしながら、普段より早く魚料理を食べ終えていた。




