ニコラスとアリスター――2戦目前夜
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## アリスター
五月だった。
残り二節だった。
ユナイテッドは二位だった。首位ヴィラとの差は一点だった。
明日、オールド・トラフォードでヴィラと対戦する。
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前日練習が終わった。
ロッカールームに戻ると、誰かが順位表をホワイトボードに書いていた。
「1位 ヴィラ 勝ち点78
2位 ユナイテッド 勝ち点77」
トム・ペリーが「明日勝ったら逆転だ」と言った。
エヴァンスが「首位で最終節に行ける」と言った。
コリンズが「やるぞ」と言った。
アリスターはホワイトボードを見た。
一点差だった。
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ブルーノがアリスターの横に来た。
「明日、どうする?」
「いつも通りやります」
ブルーノは少し笑った。「それだけか」
「それだけです」
ブルーノはしばらくアリスターを見た。「去年の今頃、お前はこういう試合の前に何を考えてた?」
アリスターは少し考えた。「ミスをしないことを考えてました。失わないことを」
「今は?」
「動かすことを考えてます。ボールを動かして、チームを動かして、流れを作る」
ブルーノは頷いた。「それが答えだ」
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夜だった。
ホテルの部屋だった。
アリスターはスマートフォンを開いた。
ニコラスとの比較記事がまた出ていた。見出しだけ読んだ。閉じた。
七年間、このクラブにいた。一度もタイトルを取れなかった。
去年の十一月、ロッカールームの隅で一人で座っていた。怪我人の名前がまた増えた夜だった。
あのとき、チームが崩れかけていた。崩れさせなかった。
そこから来た。
アリスターはスマートフォンを置いた。
窓の外を見た。マンチェスターの夜だった。
明日、ニコラスがいる。
同じ年で、同じくらいの時間をプレミアで過ごしてきた。お互いがお互いのことを知っている。
それでも明日は関係なかった。
ピッチで何が起きるかだけを考えた。
ボールがどこに動く。プレスがどこから来る。スペースがどこに生まれる。
アリスターは目を閉じた。
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翌朝だった。
食堂でマグワイアがアリスターの隣に座った。
「昨日よく眠れたか」
「眠れました」
マグワイアは少し笑った。「そうか。俺は眠れなかった」
アリスターは少し笑った。
「お前がここに来て七年だろ」とマグワイアは言った。「このクラブ、リーグタイトルを十年以上取れていない。でも今季、一番近いところにいる」
アリスターは頷いた。
「今日、勝とう」マグワイアは言った。それだけ言って食事に戻った。
アリスターは窓の外を見た。
晴れていた。
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## ニコラス
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同じ夜だった。
マンチェスターのホテルだった。
ニコラスはスマートフォンを置いた。
ゾーイからメッセージが来ていた。
「明日勝てば優勝にかなり近づきます。ユナイテッドは今季別格です。集中してください」
ニコラスはその文章を読んだ。
返信しなかった。
近づく、ではなかった。勝つだけだった。それ以上でも以下でもなかった。
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ニコラスは窓の外を見た。
マンチェスターの夜だった。
明日、オールド・トラフォードで戦う。
アリスターがいる。
アリスターとは長い。サッカーに誘われた。代表で同じユニフォームを着た。リーグで何度も対戦した。ずっと意識してきた相手だった。
でも今季は違った。今季が一番、意識していた。
リバプール戦の映像を事前に見ていた。でも生で見たとき、別の選手だと思った。あの試合以降、ユナイテッドが変わった。
チームを動かしていた。プレスを先読みしていた。パスコースを消しながらボールを動かしていた。
一人の選手がチームを変えることができる。
ニコラスはそれを知っていた。自分がヴィラでやってきたことだった。
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ベッドに横になった。
目を閉じた。
明日のピッチを想像した。
オールド・トラフォードの芝の感触。スタジアムの空気。相手のプレスの速さ。
アリスターがどこにいる。どこへ動く。
考えた。でも考えすぎなかった。
最後はピッチで決まる。
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手の甲のライオンを見た。
三十四ゴール。得点王は獲る。
でも明日の試合でニコラスが考えることは一つだった。
ヴィラが勝つ。
それだけだった。
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