ニコラスvsアリスター――2戦目
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オールド・トラフォード。残り二節。
スタジアムが満員だった。キックオフ前から声が止まなかった。
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## ユナイテッド、ロッカールーム
キックオフ一時間前。
選手たちが準備していた。誰も余計なことを話さなかった。
アリスターはスパイクの紐を結びながら、今日のヴィラの映像を頭の中で流していた。
ニコラスの動き出し。パブロのパスのタイミング。ロジャーズの仕掛け。
ブルーノが立ち上がった。「みんな聞いてくれ」
ロッカールームが静かになった。
「今日勝ったら首位に立てる。でもそれだけを考えるな。ヴィラは今季最強のチームだ。一瞬でも気を抜いたら持っていかれる」
マグワイアが続けた。「十一月を覚えてるか。誰もいなくなったあのロッカールームから、ここまで来た。今日、その答えを出す」
トム・ペリーが「やるぞ」と言った。コリンズが「やるぞ」と繰り返した。声が重なった。
アリスターは立ち上がった。
「行こう」
それだけだった。でも全員がアリスターを見た。そしてついてきた。
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## ヴィラ、ロッカールーム
同じ時間、エメリーが前に立っていた。
「今季、ここまで戦ってきた。今日のユナイテッドは本物だ。でもヴィラも本物だ」
ニコラスは前を向いていた。
「ユナイテッドは首位を取りに来る。俺たちは守りに来たんじゃない。勝ちに来た。それだけだ」
パブロが頷いた。ロジャーズが頷いた。パウ・トーレスが「行こう」と言った。
ティーレマンスが「今季ずっとやってきたことをやるだけだ」と言った。
ニコラスは手の甲のライオンを見た。
「行くぞ」
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キックオフの笛が鳴った。
両チームが前に出た。ヴィラのプレスが速かった。ユナイテッドのプレスも速かった。どちらも一歩も引かなかった。
ボールが行き来した。チャンスが来ては消えた。どちらかが前に出れば、もう一方が押し返した。息つく暇がなかった。
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前半二十七分。
アリスターがティーレマンスのプレスを受けた。
体を入れ替えた。半歩ずらした。それだけでティーレマンスの重心の逆を突いて抜けた。
右サイドへの道が開いた。
デイヴィスが走り込んでいた。アリスターはデイヴィスを見ていなかった。見なくてもわかっていた。
出した。
デイヴィスが受けた。縦へ仕掛けた。ヴィラのDFが対応しきれなかった。クロスが上がった。
ガルナチョが走り込んでいた。ヘッドで叩き込んだ。
一対〇。
オールド・トラフォードが爆発した。アリスターは立っていた。デイヴィスが走ってきた。「最高だ!」と叫んだ。
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ヴィラが前に出てきた。
パブロがボールを受けた。ユナイテッドのMFが寄せてきた。体を入れ替えて前を向いた。ロジャーズが右サイドへ仕掛けた。デイヴィスが対応した。
パブロがボールを持った。ユナイテッドのDFが絞った。
その瞬間、右にスペースが生まれた。
ニコラスがすでにそこへ走り込んでいた。
パブロが出した。声はお互い必要なかった。
ニコラスが受けた。GKと一対一。右足のインサイドでゴール左隅へ流し込んだ。
一対一。
ヴィラのベンチが立ち上がった。スタジアムが揺れた。パブロがニコラスのところへ走ってきた。「見えました!動き出した瞬間に絶対入ると思いました!」ロジャーズが「そうだ!」と叫んだ。パウ・トーレスが後ろから「続けて取るぞ!」と声を出した。
アリスターはその場面を見ていた。ニコラスが動き出した瞬間から見えていた。でも止められなかった。パブロが出す前にすでに遅かった。
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前半が終わった。一対一。
ユナイテッドのロッカールームでブルーノが言った。「後半も同じように行く。引かない。前に出続けるぞ」
マグワイアが立ち上がった。「あと四十五分だ。出し切ろう」声が上がった。
ヴィラのロッカールームでエメリーが言った。「前半の内容は悪くない。後半も続けろ。ヴィラのサッカーをやれ」
ニコラスは水を飲みながら頷いた。まだ終わっていない。まだ取れる。
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後半が始まった。
どちらも攻めた。どちらも守った。ヴィラがボールを動かした。ティーレマンスが展開した。パブロが仕掛けた。ニコラスが動いた。
コリンズが体を張った。マグワイアがクリアした。
ユナイテッドがカウンターに入った。アリスターがボールを受けて右へ展開した。パウ・トーレスが戻ってパスコースを消した。
GKが何度も動いた。DFが何度も体を張った。
一対一のまま時間が過ぎた。スタジアムの緊張が高まっていった。
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七十八分。
ユナイテッドがボールを回した。ヴィラのDFラインが引いた。ブロックを作った。ペナルティエリアの前が壁になっていた。パスコースが消えていた。
エヴァンスがアリスターへ下げた。
エリアまで二十五メートル。
ヴィラのMFが前に出てきた。アリスターは一歩右に動いた。重心を左に見せて右に踏み込んだ。MFの重心が左に傾いた。
一瞬だった。
その一瞬にアリスターは左足に体重を乗せた。右足を大きく引いた。
ゴールの右上隅が見えていた。マルティネスの右手が届かない位置。
右足を振り抜いた。
ボールが走った。壁の脇を抜けた。伸びた。
マルティネスが右に跳んだ。右手を伸ばした。
届かなかった。
ゴール右上隅に突き刺さった。
二対一。
オールド・トラフォードが揺れた。地鳴りのような声だった。
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アリスターは走らなかった。一歩も動かなかった。ただ立っていた。
ブルーノが最初に来た。「お前しかいない!」
デイヴィスが来た。「信じてたぞ!」
トム・ペリーが来た。「最高だ!最高すぎる!」
コリンズが来た。「やったぞ!」
マグワイアが来た。「これがお前だ!」
アリスターはチームメイトに囲まれながら、ようやく笑った。
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ヴィラのベンチが動いた。エメリーが選手を送り込んだ。
ニコラスは前を向いた。
まだ十二分ある。まだ終わっていない。
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ヴィラが総攻撃に来た。
ニコラスが動いた。パブロが動いた。ロジャーズが仕掛けた。ティーレマンスが展開した。パウ・トーレスが上がった。
何度も来た。ユナイテッドのDFが体を張り続けた。コリンズが跳ね返した。マグワイアがクリアした。
アリスターは中盤で走り続けた。ボールを受けた。時間を作った。パスコースを消した。
時計が進んだ。アディショナルタイムに入った。
ヴィラがCKを得た。マルティネスが上がってきた。蹴られた。マグワイアが跳んで跳ね返した。
ブルーノが拾った。アリスターへ出した。アリスターがタッチラインへ逃げた。
笛が鳴った。
二対一、ユナイテッドの勝利。
アリスターはその場でしばらく動かなかった。
今季の最初、ヴィラパークで負けた夜のことを思い出した。
ロッカールームに一人で座っていた。チームメイトが全員出ていった後も、足が動かなかった。だめなのか、と思った。自分にはタイトルを取れないのか、と思った。
あの夜から、ここまで来た。
今日、同じピッチで逆転した。
アリスターは顔を上げた。
チームメイトが走ってきた。
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順位が入れ替わった。ユナイテッドが首位に立った。
残すは最終節のみ。
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試合後の通路。
ニコラスとアリスターがすれ違った。
ニコラスが立ち止まった。アリスターも立ち止まった。
しばらく何も言わなかった。
「あのシュート」とニコラスは言った。「マルティネスが届かなかった」
「狙ってた」
「そうだろうな」
アリスターはニコラスを見た。「来週も勝つ」
ニコラスはアリスターを見た。「俺もだ」
二人は別々の方向へ歩いた。
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