本来されるわけがないユーマオロ王子からの護衛依頼
職人の町ペトラフェルゼンでの長期滞在から帰って来た。
《望郷への門》を使用し、メグミアンヌと彼女に聞いて船を見たいと言うロゼマリナと共に。
移動はエスパフのおかげでかなり楽にはなったけれど、自分のみ移動する《孤独の楽園》も含めて目的地は拠点にしか設定できない。〈マーク〉と〈リコール〉を使用した移動手段も便利だけど、意識を失っても戻る事ができる魔法は場合によっては切り札にできる不便ながらも良い魔法だと思う。
「お部屋ありがとう。やっと人間らしい生活ができます」
ネオンは深々と頭を下げた。……まぁ、気の毒ではある。
船に戻って来て、最初の課題はネオンの部屋だった。もうハイコボルドに進化したため、イヴァルスフィアのみの価値観しかなければ、ただの妖魔であり聞いた事のない未知の脅威だ。
そんな彼女は転生者で保護のため拠点地下3階の客室に居て貰っていた。でも、それも問題だと感じている数名に相談された。
現在、甲板より下の階層は居住区……メンバーの個室となっている。甲板を地上1階とした場合、地下1階はノーマル職の人達の部屋で地下2階はレア職以上の者の部屋となっている。ちなみに地下3階は機関部の面倒を見るイクミコットと俺の部屋しかない。
今回、その地下3階に彼女の部屋を増設する事になった。場所は俺の部屋の隣。部屋の出口は俺の部屋に繋がっていて、完全に管理下に置くことが約束された。
……まぁ、妖魔と暮らすのは普通怖いか。ちなみに事情を判っていて怖がっていないのは転生者のみ。……転生者はモフモフな犬娘って感想なんだよね。
今ではヒューム語の会話、読み書きができる普通に人なのだが……まぁ、受け入れられない気持ちも理解できる。
「いやいや。転生者のみんなは理解あるけど、もし心無い態度を取られたらゴメンね」
「だいじょうぶ」
そう言いながら、俺に抱き着いて千切れんばかりに尻尾をブンブン振っている。
コンコン。
ノックの後にシャワールが部屋に入って来る。実は約束していてサヤカーラの話をする事が目的だった。
彼女の様子を伺いながらも、サヤカーラの前世について説明を始めた。
「……というわけなんだ」
俺が彼女から聞いたままの話を伝える。
「愛音ちゃんだったんだね……」
「知っての通り、上位精霊達からは転生者を集めるように言われているけれど、俺は全員招く必要はないと思うし、冒険者稼業に抵抗のある人は巻き込む必要はないとも思っている。話した通り、サヤカーラさんは特に英雄願望や冒険者になりたいといった気持ちはない。ただ、決めつけて誘わないのも違うし、声をかけようと思うんだけど……シャワールは大丈夫?」
シャワールの前世、若宮彩華はサヤカーラの前世、雪泉愛音と共に3人組アイドルグループ『トライトーン』として活動していた。ただ、彩華からはアイドル時の思い出は振り返りたくないモノとして聞いている。だから、抵抗があるのではないかと考えていた。
「……うん。とりあえず、お任せします」
……拒否はしない。けれど歓迎できるか微妙といったところだろうか?
結局は結論を出せず、その日は終わった。
悩んでいる間も時間は過ぎる。ただ、毎度気にしている『邪竜討伐軍』の噂はなかなか聞こえて来ず、徒歩移動である事と滞在時間を考えると何もしていない可能性を考えた。
世の中には『名声』というシステムがある。別に『竜騎幻想』のシステムではないけれど、英雄に至るには名声を上げないといけない。上げるためには人を助ける必要があり、その規模に応じて増加する。……普通、『邪竜討伐軍』はゲーム進行において名声が上がっていくから住人から噂をされやすい。
しかし、今回噂レベルでは『邪竜討伐軍』の情報が全く聞こえて来なった。
……数日後。
「「仲間に入れて欲しい」」
メグミアンヌとロゼマリナからの要望。……まぁ、言われるとは思っていた。
前日まで甲板で営業されている店を見て回っていたからね。
「話、聞いていると思うけれど、冒険者として活動する以上ノーマル職でも戦闘は参加する事になるよ? 冒険者だから正義の味方みたいなことばかりできないよ? 大丈夫?」
……英雄になる気は無い。自己犠牲による無償奉仕もする気はない。俺は推しに会いたい……本音は遠くでチラ見確認で良かったんだが……そういった方針だけは最初から変わってない。
「わたしは、今髪を整える仕事をしているわ。【美粧師】を賜った人の多くは同じ仕事をしているのは知っているけれど、今後は化粧や爪、マッサージもやりたいの」
「あたしも、今は切り出された石材を要望通りのサイズに加工する仕事をしているけれど、本当は精霊石や水晶を加工したアクセサリーや調度品を作りたいの」
……まぁ、それ自体は冒険者じゃなくてもできるんじゃ……とは思ったが、チーム内需要が高かったせいか、全員賛成という事でチームに加わる事が決定した。
2人の加入の決め手は、冒険者として働く気満々だった事。元々は関心が無かったらしいけれど、ここ数日で戦闘訓練も見学していたらしい。……俺は不参加なので知らなかったわ。
メグミアンヌから、護衛の報酬を貰った後に今度ナッツリブア冒険者支援組合に行こうと話をしていた。そのタイミングはロゼマリナの荷物を取って来てからという話になったんだけど。
ロゼマリナに自力で引っ越しして貰うため、乗合馬車で一度家に帰らせた。……まぁ、アダマスオーロは治安が良い方なので街道を走る限り問題ないと思う。
その間に、想定していたマミルリーヌとリョーコロンの2人がまるでデジャヴのように拠点へやってきた。
「想像していたよりも大きな船ね」
「この船の元は客船ではなくて貨物船ですから」
……まぁ、貨物船の中でもかなり大きい部類だけど。
「見て回って良い?」
「甲板から上はご自由に。下を見たい際には声を掛けて下さい」
「ありがと。行くわよ、リョーコロン」
あれだけ俺に対して関心が強かったのに、初めて来た事もあって意識が周囲に分散していた事には気付いていた。
……さて、俺は待機かな……。
「何をしているの?」
「ん?」
「案内お願いね!」
……勝手に見てくれて良いのに……。
推しのリョーコロンを案内するのは嫌では無い。でも、可能であれば関わらずに見て居たいだけ……まぁ、それはリョーコロンに限らず既に仲間に加わっている推し達も一緒なんだけど、流石に断れば嫌われる可能性があるわけで、死んでも嫌われる訳にはいかない。
「わたしが案内します。マミルリーヌ姉様」
……ナイス!
「え~」
露骨に不満そうにするマミルリーヌの視線の先にいるのは当然マレイゼリン。
……任せた、マレイゼリン! 正直、こういうショッピングの付き添いは超苦手なんだ。
マレイゼリンの案内マウントとマミルリーヌのスルースキルで賑やかな船内案内は離れた位置で見ている分にはとても楽しかった。……姉妹仲が良いと錯覚する程に。
……でも、俺は知っている。
姉妹だから仲が良いというのは錯覚。仲が悪いとは思わないが、適度な距離感が大事な姉妹というのも存在する。……いや、むしろ多数派? 知らんけど。
もちろん、本当に仲が良い兄弟姉妹も存在する。……そう思っている人が一方通行でない事を祈る。
「ところでマミルリーヌ様は国王様の許可を得たのでしょうか?」
「それはもちろん。「マレイゼリンが良くて、あたしがダメって事は無いよね?」って聞いたら了承してくれたわ」
「……おっ、おぅ」
もちろん、言葉選びはしていると思うけれど……少々国王が気の毒になる。
「リョーコロンさんは、本当に冒険者となって地元を離れても良いのですか?」
「えぇ。家族はいませんから」
……そこは現実でもそうなのね。
採石場の見張りをしていると思ったのに、まさかメイドになっているとは……。
「じゃあ、そろそろ夕飯時ですし甲板に戻りましょうか?」
地下3階にある倉庫や風呂場まで案内し終えて、甲板へと戻る。
……もちろん、俺の部屋やリオンはまだ紹介しない。転生者じゃない彼女がどんな反応するかは判るしね。
「マミルリーヌ姫、専属メイドのリョーコロンさん。チーム入り希望だけど、反対な人は?」
大陸北側故に少々早く訪れた夜。魔法の光で照らされた甲板で夕食中の全員に呼びかける。……もちろん、例によって2人のチーム入りが確定する。
「そういう事だから、2人の部屋の用意は任せるね。それと4人揃ったら組合に行こう」
数日後、ロゼマリナが帰ってきてチーム登録が完了した。
マミルリーヌが教えてくれた最新の情報によると、『邪竜討伐軍』は砂漠にある遺跡に行った後、ペトラフェルゼンに向かったらしい。……危ない、ニアミスか。
「何か、考え事ですか?」
部屋で寝転がっていたらランファスが腹の上に乗ってきた。
彼女は口数が少ない。これまでのプルームの中でも2番目に。ちなみに1番はビジュペ。ただし、スキンシップ具合はかなり過多。質量を感じないから気にしないが、あったら鬱陶しいレベルでくっ付いている。
そんな彼女が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「うん。『邪竜討伐軍』が砂漠にある遺跡を攻略して、ペトラフェルゼンに向かったらしい」
……砂漠の遺跡……多分、『土霊王の古祠』か。
砂漠にある遺跡は『竜騎幻想』のままであれば『土霊王の古祠』しか存在しない。でも、『マイニングビルダー物語』にも砂漠にダンジョンがあったし……更に言えば現実では他にもあるとか言われても驚かない。
……ただ、ヒューム族は自由に砂漠へ入れないはずなんだよな。
厳密に言えば砂漠に入ってもジャイアント族や妖魔セルケティオ族に狩られるという表現が正しいか。
「……という事は、もうイグニファイ王国へ陸路で移動するという事だろう。……滞在時間短すぎないか? ……ってね」
ムッチミラ達がちゃんとメインストーリーを消化しているのか疑問に感じていた。
コンコン。
今は夜間。風呂後で後は寝るだけ。こんな時間にノックされるのは、普段であれば転生者が加入した時なのだが……。
「サクリさん。おやすみのところ済みません。グランダイナ城の【見術官】から通信が入っていまして、ユーマオロ王子様からサクリさんへ緊急で話したい事があると……」
「うん?」
彼女は俺の前に通信に使う球体の水晶を見せる。
「やぁ、夜分遅くに済まない。砂漠手前にあるオネーサンドまでの往復の護衛を依頼したい」
「あ~……はい、承りました。何時からでしょうか?」
ジャイアント族との交渉か……でも、それはムッチミラの仕事ではないかと思っていた。
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