巨人達への憎悪【盗賊】ユイリーナ=ブレスフォリア
前回、過剰報酬を受け取ってしまっているから……それがユーマオロからの依頼を断らなかった理由。
……まぁ、予想通りムッチミラはメインストーリーをちゃんと進めていないと……。
内容も若干変わっていて、モモニウレーラも同行する事になったという……。俺達は主に彼女の護衛要員だそうだ。
……。
「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」
……予知夢? ということは、寝ていたのか……。
確かにベッドの上に横になって考え事をしていたのだから寝落ちしていても不思議じゃない。むしろ、寝落ち推奨まである。
「……【盗賊】です。冒険者になります」
彼女は淡々と答える。
彼女の名はユイリーナ=ブレスフォリア。歳は同じ今年で17歳。身長は160……いや、161だったと思う。橙色の瞳でカワボのクール系美少女で、膝まである白く長い髪は通常首下近くで団子状に纏められている。
暗転してオープニング前半パートが終わる。次の場面は例の教会のマップ使いまわしの孤児院。どうせ後で触れると思うけれど、彼女は家族を失っている。
……今の俺から言わせると、平和ではない世界だから両親が不在になるなんて事はよくある話。だから、子供は大人に養われる義務がある……なんて法がどの国にも存在するし、「親が」ではなく「大人が」になっている。
ユイリーナは教会の女子ばかりで過ごす大部屋の一画で荷造りをしている。そこにシスターが近付いてきた。
「ユイリーナ、本当に冒険者になるのですか?」
「はい。一度、王都に行きます」
「別に天職に縛られた人生を送らなくても良いのですよ?」
ユイリーナには生家がある。今は誰も住んでいないが彼女自身が何度か帰っては掃除等メンテナンスをしている。成人したら戻って来る事に備えて残された家だった。
「大丈夫です。すぐに戻りますから」
どちらにせよ、成人したら孤児院を出て行くのは大陸に住む者共通の認識。
「……冒険者カードを作る必要があるんです。近くの町で作っても良いんですが、良い装備も揃えたいので王都まで足を運ぶんです」
実際、ユイリーナは彼女自身の目的を考えると、カードを作ったら直ぐ戻るに決まっていると俺も思う。
「そうですか。気をつけて行ってきなさい」
優しいシスターの言葉に、「行ってきます」と返した。
視界が暗転する。
「砂漠が目の前まで迫っている小さな村オネーサンド。わたしはそこで生まれ、お父さん、お母さん。お兄ちゃん、お姉ちゃんと5人で暮らしていた。とても裕福とは言えないけれど、当時はとても幸せでした」
ユイリーナのナレーション。
画面には男女のキャラと男女の子供キャラ、赤ん坊のキャラが彼女自身なのだろう。
村というだけあって、5人家族の家にしては小さく、石造りで砂塵に負けない丈夫な建物。
ただ、家族仲は良く彼女が1人になるまでは何処にでもいる普通の家庭だった。
「お父さんとお母さんは砂漠化現象の研究をお手伝いする環境活動家で、わたし達子供もお手伝いという名の家族団欒を享受していた」
これ、『竜騎幻想』では意味が解らなかったんだよね。てっきり、魔法か何かで砂を土にでも変えているのだと思っていたけれど、当然ながら出来るわけがない。
場面が変わり、今度は砂漠の淵に来ていた。
彼女の家族だけでなく、多くの人達が荷物を持参している。
「それじゃあ、始めましょうか。皆さん、よろしくお願いします。くれぐれも直接砂漠に入らないように気を付けて下さいね」
彼女の母がみんなに声を掛ける。それを合図に一緒に来ていた人達は砂漠の淵に生ゴミを撒く。綺麗な砂が残念なくらい汚されていく。
「ママ、どうしてゴミをポイするの?」
「それはね、お砂を土にするためよ」
「へぇ……」
俺も詳しくは知らないのでマレイゼリンから聞いた話だけど、土というのは砂と微生物の排泄物で出来ていると言っていた。野菜を植えて育つのも、そういった仕組みからだけど、砂に植えても植物は育たない。それは砂が水を含まないからという話をされた。……詳しくは違うらしいけれど、判り易いくらい大雑把に話すとそんな内容なのだそうだ。
……まぁ、専門的な事を話されても理解できる自信はないし、イヴァルスフィアの科学がそこまで発達しているとは思えないのだから、聞くだけ無駄とも言える。
でも、ざっくりとした仕組みはそうだからこそ、生ゴミを撒いてミミズなどを引き寄せ、砂地を土へと変換するために生ゴミを撒くのだそうだ。
……でも、その理屈もヒューム族の中でも知る人が少なく、ジャイアント族なら尚更知らなくて当然らしい。
それが、ジャイアント族とヒューム族の確執の根底にあり、理解できない溝となっていると説明された。
「おい、ヒューム! 何してやがる!」
身長10メートルを超えるガラの悪そうな巨人達が近付いて来る。
「こんにちは、ジャイアント族の方。わたし達は今、砂漠化を抑えるために……」
「てめぇ、砂漠にゴミを投棄したな! ふざけんじゃねぇ!!」
「待って。それは捨てたのではなく……」
この言葉がユイリーナの聞いた母親の言葉の最後。母親は巨人族によって踏み潰される。
視界が暗転し、墓地に変わる。
「パパ……ママ……お兄ちゃん……お姉ちゃん……絶対……許さない……仇、絶対討つから……もう少しだけ待って……」
ユイリーナは現在13歳。……彼女の瞳に生気は宿っていない。絶望しているように見えた。
視界が暗転し、過去回想イベントは終わったようで、彼女のキャラデザインが本来のモノになっている。
場所は王都テレツテーレにある冒険者の店。どの店かは特定できていない。……ゲーム内に存在しない店なんだよな……。
「こんにちは。チームは何処かに所属していますか?」
イベントアニメ―ジョンが始まり、後ろから男性に声を掛けられて振り返る。
「いえ。まだ王都に来たばかりなの」
「じゃあ、冒険者カードも?」
「食事を終えたら組合に行くつもり。それで用件は?」
そう彼女が尋ね返すと男性は少し困ったような笑みを浮かべる。
「見た感じ、前衛職のようだから仲間に誘いたかったんだけど……」
彼の背後には男女が1人ずつ。計3名。話し掛けて来た大柄な彼は多分タンカー役の【戦士】。後ろにいる2人は装備から後衛職。男性は【修道士】。女性は【魔術士】といった感じだろう。
「……わたしで良ければ。その前に登録しなきゃだけど……」
こうして、4人のチームになる。……でも、この後すぐに【狩人】と【学者】を加えてカッパー級冒険者として活動する。……というか、4人で活動する事はない。
視界が暗転する。……記憶ではこのイベントアニメーションには続きがあったはずだけど、夢ではカットされるようだ。
場所は砂漠……きっと違う場所なのだろうけど、生ゴミ撒いた場所のマップの使いまわしだと初見で気付いたんだよな。
「キシャー!」
妖魔セルケティオ族の集団の討伐依頼をしている。
妖魔なので言語があって、実際なら「キシャー」なんて言わないし、言葉を知っていれば会話も可能だ……普通は妖魔相手に会話しようとは思わないだろうけど。
……依頼じゃなければ普通は逃げるしね。
セルケティオ族には〈砂漠の加護〉という砂地であれば発動するパッシブスキルがある。セルケティオ族の場合は砂中移動、砂上感知、毒効果アップなど、凶悪になるので、基本は砂漠から釣ってきて土の上で倒すのがコツだったりする。
……ゲームなら簡単に釣れるんだけどね……。
「あっ!」
リーダーが砂漠に引っ張り込まれる。その瞬間……彼の鎧や服が弾けた。身体が巨大化していき10メートル近くにまで大きくなる。
「えっ?」
ユイリーナだけではなく、チーム全員がその事実を知らなかった。
視界が暗転する。次に現れた画面は中央に【剣の乙女】がいた。……この時点で、勧誘シーンという事が判明。
場所は砂漠の村オネーサンド。村故に宿屋を含め、重要な施設がない。その村にある民家の1つにユイリーナが居る。
「初めまして。わたしは【剣の乙女】※※※※。邪竜王を討つために力を貸して欲しいの」
「ごめんなさい。今は村を離れるつもりはないわ」
……そう、話し掛けても仲間に加わる事はない。
回想シーンは別として、彼女は冒険者という肩書ではあるがチームで行動している事はない。……現実であればアイアン級という事だろう。
実際、この後話が進む事はないので視界が暗転する。
「邪竜王を討つために力を貸して欲しいの」
再び話しかける。
「何故、わたしを誘うの?」
この返しが来るのは【剣の乙女】がメインストーリーを進めた後。厳密に言うならオネーサンドでのジャイアント族との交渉イベント。ヒュームとジャイアント間の取り決めに同行するというイベントで、ゲームでは交渉中にセルケティオ達の襲撃に遭い、『邪竜討伐軍』が対応するという話になっているんだけど……バッサリカットか。
「今後、ジャイアント族とは干渉しない。ヒューム側からも砂漠の緑地化研究も凍結。ただし、ジャイアント族が責任をもって砂漠化を止めるように動くという話で進む。そうなれば冒険者としての仕事は激減するでしょう?」
「……そうですね……少しだけ時間を下さい」
そう話すと視界が暗転する。……今度はイベントアニメーションだ。
場所はゲーム内に存在しない墓地。
ユイリーナは墓前に花を供える。それを【剣の乙女】が見守っている。
「どうしてこちらに?」
「貴女をお見かけしたので」
「……ここは、わたしの家族の墓なんです。ジャイアント族の里長の話だと、両親を殺したジャイアントは犯罪者として処刑されたそうです。ただ、その処刑に関しては、身内が殺されたのに子供である事とヒューム族である事から確認できませんでした……行きましょう」
彼女は立ち上がると墓地から去る。【剣の乙女】も彼女の後を追いかけた。
ここでイベントアニメーションは終わるが、同時にユイリーナも仲間に加わっている。
……目が覚めた。
例によって身動きは取れない。……とりあえず、今度のユイリーナのチーム入りに関しては杞憂する事無く、積極的に歓迎したいところ。
『竜騎幻想』では、彼女を仲間にできる期間は短い。メインストーリーでのジャイアント族との交渉が終わった後、村を出るまでに話し掛けないと仲間にならないと言われている。……実は確定事項じゃなくて、村からユイリーナが消えるので別の場所にいる彼女を見つけて話し掛ければ仲間になるかもしれないのだが、俺の知る限りでは所在不明になるんだよね。
ちなみに俺は彼女が好みのユニットだから別として、あくまで一般的な攻略目線だとユイリーナは必死に仲間にする必要があるような強ユニットではない。
俺が知る限りで、ユイリーナは【双剣士】へ進化する。スーパーレア職の中で言うと、彼女はかなり強い。トップクラスと言っても過言ではない……でも、残念ながらユイリーナの進化はここまでなんだよな。……いや、今思えば発見されていないだけなのかもしれない。
最終戦には一応参戦できる程度の強さではあるけど、主戦力には装備でブーストしても無理なんだよね。……どちらかというと必死に生き残る感じで。
……あくまで『竜騎幻想』の仕様ではね。
他でもスーパーレア職で止まるユニットはいたけれど、実際は『竜騎幻想』には存在しない天職に進化したり、普通に進化したりする可能性もある。
装備だって、『竜騎幻想』にない装備もある。……事実、火薬銃だってある世界だからね。
育成の仕方によっては化ける可能性もあるし、彼女も幸せになってほしい。
「うっ……」
思わず声が出る。……ランファスが不意に寝返りをうった。
「んっ……おはよ……」
その声に反応して、アズサーラが目を覚ましてしまった。
「おはよう。起こしちゃったね」
「ん~……」
起きたのかと思ったが、アズサーラは寝ぼけているようで俺にしがみ付いたかと思うと寝息が聞こえ始めた。
……まぁ、いいか。起きるには早い。
ちなみにだが、ユイリーナにはグッドエンドしか生存ルートが存在しない。
ノーマルエンドで病死するか、バッドエンドで殺されるか……。
病死エンドは自身で作った家族に囲まれて、一応幸せに……いや、もっと生きたかったと悔いながら死んでしまう。
バッドエンドは『邪竜討伐軍』に入る前に組んだ元仲間達の墓参りに行き、元仲間の家族の手によって殺される……気分の悪い話なので、絶対に彼女を幸せにしたいと思っていた。
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