国の財政危機と言って過言ではなかった採石場の危機
朝、単身でペトラフェルゼンへ向けて出発した。
馬車で移動するなら4泊5日くらいの道程らしい。普段なら馬車を使って大勢で移動する。道中で遭遇する野獣や魔獣、野盗の類と戦って経験値を得る為でもあったんだけど。
……思っていたより遥かにクソ寒い
俺は今、空を飛んでいる。理由はペガサスに乗っているから。
黒瞳黒毛のペガサス。……前世では馬でいう所の青毛。ナッツリブア大陸でいう青毛は本当に青い毛なんだけどね。全身漆黒の天馬の名はシャドウメイデン。俺が幾つか候補をあげて本人が気に入ったっぽい反応を示した名前だ。
他の人に懐かないので、リンクルムに相談したけれど、「この子はサクリさんに恩義を感じていて……サクリさん以外を極力乗せたくないそうです」と困惑しながら言われて、俺も困惑した。
そんな訳で何も騎乗系スキルが無く、意思疎通能力も無いけれど、彼女……ペガサスさん、牝馬のようで……リンクルムの協力を得て、現在乗りこなす練習中。
……やっぱり、普通の馬とは違うんだよなぁ……。
乗馬の経験が役に立たないという事はないんだけど……あるだけマシレベルと言った感じ。当然、飛行生物に絡まれたら戦闘どころでは無い。……戦闘手段が無いわけではない。戦闘できる状況ではないという意味で。
だから、周囲を警戒しながら結構な速度で移動する。かなりの高度を高速で移動しているため、地上との寒暖差……地熱の影響がないためクソ寒かった。
……おっ! 見えた。
そんな苦行の甲斐があって、ペトラフェルゼンへ5時間程度の移動で到着した。もちろん、手前で着地してから《望郷への門》を開く。尚、シャドウメイデンは俺の影へと入って行った。
船へと繋がる空間から依頼主であるメグミアンヌが通って来て、目の前にあるペトラフェルゼンにビックリした。
「凄い。そういう転移系の魔法の存在を知識としてはあったけれど、実際に利用したのは初めてです」
「便利ですよね」
……エスパフ様々である。
2人で町に入る。
「こんにちは~」
メグミアンヌが先頭で店に入る。……多分馴染みの石材屋なのだろう。
「あら、メグちゃん。いらっしゃい」
「いつもの……あります?」
店番している大柄な中年女性に尋ねるが、彼女はメグミアンヌの問いに首を横に振った。
初めて来た店で石材専門店とは断定できないながらも、リョーコロンが贔屓している石材を扱う店である事は間違いない。そんな店の陳列棚に石は1つも並べられていなかった。
「来て貰って悪いけれどウチに限らず、何処の店も品切れだよ」
「採石場に近い、この店ならばあると思ったのに……」
おばちゃんは申し訳なさそうだ。
「これまでは町が抱えた在庫を放出していたんだけどね……それも尽きてしまって。少しは入って来るんだけど、メグちゃんが必要としている石は無くて……ごめんねぇ」
「これは……直接採石場へ取りに行くしか……」
メグミアンヌも手ぶらで帰るわけにもいかないのだろう。
「……行くなら……手伝いますか?」
そう言って店の奥から顔を出したのは俺達と歳の変わらない女性だった。背は160センチくらい。おとなしそうな美少女で黄色の瞳と橙色の腰まである三つ編みにした髪。声は小さいけれどロリ声で、気の弱そうな印象を受けた。
それでも声を掛けてくれたのは、多分彼女とメグミアンヌが顔見知りだからだと思う。
「ロゼマリナ、来ていたんだ? 助かる!」
「うん……えっと、そちらの人は?」
そう言って俺を見る。
「あぁ、彼は冒険者」
「冒険者のサクリです。採石場が近いのに石材が入荷されないのには理由があるんじゃ?」
当然の疑問を口にするけど、その認識は相手も一緒。
「ありますよ。だから、サクリさんが一緒なんですよ?」
……おう、護衛……なるほど? だから、石材の種類を上げて「仕入れるため」というのを強調していたわけか。……依頼料、安くしすぎたか?
とはいえ、一度了承してしまったモノを「話が違う」なんて覆していたら、内容にもよるが冒険者として仕事が無くなる。……そして、今回は一応「護衛」の範囲だ。こちらの認識が違っただけで、依頼人は何一つ嘘を言っていない。
「……まぁ、そういう事ならば……こちらも自己都合で動きますので、護衛はしっかりさせて貰います」
……多分、イベント戦闘だろうな。
予知夢を今朝見たから、その可能性が一番高い。ただ、俺は【剣の乙女】ではないし、タイミングも違うから多少敵も変わるだろうけど……多分国境近くなら苦戦しないだろう。
……前のレベルクラウンのオークロードが異常だったんだよな。
ガチャ。
不意に、背後の扉が開いた。
「こんにちは。急にごめんなさい。そちらの冒険者さん、採石場へ向かいますか? 詳しい情報ありますが、協力をお願いできませんか?」
「協力? ……その前に貴女は?」
いきなり声を掛けられて驚いた……建物の外まで声が漏れていた事にも驚いたけれど、声を掛けて来たのがリョーコロンだった事にも驚いた。
知っているけれど、知らないフリで彼女の事を確認。
「失礼しました。わたしはリョーコロン=ヴェラーリー。採石場の問題を解決するべく動いている者の1人です。今は町長の家で準備中ですので、来て頂けると助かるのですが……」
俺はメグミアンヌの同意を得て、ロゼマリナ含む3人で町長の屋敷へと向かった。
町長の屋敷は王族が住んでいるだけあって大きい。ゲーム画面上ではそれほど差があるように見えないけれど、実際はやっぱり金持ちだけはある。
町長は王族のウェイブライト家。ユーマオロの婚約者の実家。今は城で暮らしているはずだけど、彼女にとっては前世の記憶が影響する前に屋敷を出られて良かったかもしれない。
「サクリウス様!」
パタパタと足音を立てて女性が近付いてきた。
ヒューム族女性の平均身長より少し低い身長、股上に届く赤い髪のポニーテール。長めの前髪に灰色の瞳が目立つ童顔。そして俺の名を呼ぶロリボ。
着ている服が冒険者のような姿なので印象は違うけれど、間違いなくマミルリーヌ姫だった。
てっきり家主であるウェイブライト家の人か、可能性として娘であるサヤカーラが実家に戻っているパターンを想像していたが、NPCなマミルリーヌがドレス姿ではなく軽装姿で出会うとは思わなかった。……NPCは姿、変わらないしね……。
俺の前まで来るとハグをしようと更に距離を詰めるが、そこにリョーコロンが割って入る。
「姫様、はしたないですよ?」
「リョーコロン。良いところだったのに邪魔を……」
……?
「あの、リョーコロンさんって……?」
俺の質問の意味を察した彼女は改めて軽く頭を下げる。
「身分を説明せずに連れて来てしまい失礼しました。わたしはマミルリーヌ王女様の専属メイドをしております、サクリウス様」
……うっ……やっぱり略称で名乗ったのを意識されているか。
「マミルリーヌ様、その格好は?」
「驚きました? 実はこの格好の方が好きなの。今回は魔獣狩りに……」
そう言って、その場でクルリとターンしてみせる。
「もしかして、リョーコロンさんはそのためにマミルリーヌ様の使いとして?」
「いえ、そこは偶然です」
……偶然? 確かに俺の名を知らなかった……いや、俺と同じように惚けた可能性は?
「おっ、サクリウス君じゃないか」
知った声に思考が中断した。
「ユーマオロ様」
「……そのままで良いからな? 友人なのだから公式の場以外で礼儀は不要だ」
咄嗟に屈もうとしたところを止められた。
よく見ると、サヤカーラも一緒にいる。……そりゃ、実家に向かうのに同行しない訳がない。
「何故ペトラフェルゼンに? いや、聞きたい事は色々あるが……今は協力してほしい」
そう言うとユーマオロは自分達の部屋へメグミアンヌとロゼマリナも共に招待した。
流石王族の暮らす屋敷。王家の人に貸せる部屋がある……普通の家より豪華な仕様になっていた。そこにユーマオロ、サヤカーラ、マミルリーヌ、リョーコロンとユーマオロ専属の執事がいて、そこに俺、メグミアンヌ、ロゼマリナが加わった形になった。
「サクリウス君。彼女達は?」
「俺の依頼主のメグミアンヌさん、そして依頼主の協力者でロゼマリナさんです」
「……なるほど。仲間じゃないのか……」
「でも、彼女達の要望で採石場に行く事になったし、護衛依頼を受けている以上、彼女達から離れるわけにはいかない立場です」
「わかった」
……普通、王家を前にして冒険者の事情など知った事ではない。けれど、友人扱いのため考慮してくれたのだろう……正直、助かった。
そんな事より、リョーコロンがマミルリーヌの専属メイドになっていた事に驚いていた。
「石材を扱う者なら聞いた事があるとは思うが、採石場に魔獣が住み着いている。何種類か目撃されているが、最近は採石場から姿を消す事が無い。それが原因で石材の入荷ができず、国内の経済が停滞傾向にある」
もちろん、石材だけで国の経済を回しているわけではないだろう。でも石材、もしくは石材を加工したモノの輸出が国の大きな収入源だとするならば、その経済活動の停滞は国に大きなダメージを与えるだろう。
「それを打開すべく王国軍を連れて重要な採石場へ向かったんだが、駆除には至らなかった。情けない事に駆除した数より、怪我人の方が多い。そうなると数だけ連れて行っても無駄と判断せざるを得なかった。……というわけで、使いを送ってサクリウス君を呼びに行こうと思ったら、呼ぶ前に来ていたという話だ」
そう言いながら彼は苦笑した。
……まぁ、死人を出さなかっただけでも優秀と言える。国の軍が内陸で戦闘して余裕ならば、国土はもっと内側に広がっていたんだよ。
「じゃあ、正式な国からの依頼ということで駆除をすれば良いですか?」
「いや、国から依頼は駆除の協力。功績は軍に欲しい」
……まぁ、それくらいなら冒険者だもの。譲る覚悟なくて国の依頼なんて受けられないわ。
「人数の上限は?」
「可能な限り。正式な“サクリウスファミリア”のメンバーであれば問題ない」
念のためにメグミアンヌに許可を得て、ユーマオロの依頼を引き受けた。
どのくらいの戦力が必要か判らず、翌日にはニチリカだけを呼んで採石場へ向かう。他にメグミアンヌとロゼマリナ、ユーマオロとマミルリーヌとサヤカーラ、リョーコロンとユーマオロの執事とサヤカーラのメイドで、王国兵の人達も同行を申し出たがユーマオロが断る。
立場的には連れて行くべきなのは判っていても、これ以上怪我人が増えては困ると言うのが本音だろう。……直接は言わないが弱すぎるという本音が透けて見えていた。
「ストーンイーターですね」
ユーマオロ達にも判るように〈アナライズ〉したニチリカが報告する。
魔獣ストーンイーター。どうやらレベルはバラバラなようだが、見た目は亀。……判り易く言うとゾウガメ。強さ的には相性にもよるけれど感覚でいうなら、ハイトロールくらいだろうか? ……つまり、レア職ではステータス差で厳しい。
厄介なのは物理無効。その上魔法防御力が高い。ぶっちゃけ弱点を突かないとまともなダメージにならない。
攻撃手段は噛みつきによる物理攻撃のみだが、動きが遅くて近接攻撃だけなので魔法で遠隔攻撃していれば、大丈夫。ただ、攻撃によりひっくり返って身動きできなくなると強力な攻撃魔法を撃ってくる。絶対ひっくり返してはダメ。……まぁ、判っていても確率で……。
……以上が、『竜騎幻想』によるデータである。
「2匹……1匹ずつで大丈夫ですか?」
「あぁ。俺達は左側をやる」
そう言うと準備を開始して合図と共にユーマオロ王子達は戦闘を開始する。俺も、準備の間にユミリアとアイシア、アリーエルとマレイゼリンを呼ぶ。物理が聞かないので、レベル上げが必要な魔法攻撃手段のあるメンバーだけを呼んでいた。
「それじゃあ、まずはわたしから! 《風精の刺角》!!」
アリーエルによる風属性貫通攻撃魔法は俺の予想に反して一撃で仕留めてしまった。
風属性が弱点だとは知っていたが、加護のない状態のアリーエルが一撃で倒せるとは思わなかった俺達は苦戦しているユーマオロ達を見ながら判断に迷っていた。
「助けが必要なら言ってください!」
驚いているようだったが気にしない。
「みんなは一応、救援要請されたら倒しちゃって。それまでは手を出さないように。俺はちょっと周囲を見て回って来る」
……とても2匹だけとは思えないんだよな。
手助けするのは簡単だし、すぐ倒せるかもしれない。でも、ユーマオロ達が倒したという実績が必要かもしれない。
「やっぱり巣穴があったか」
いくつか巣穴を見つけ、俺は見つけた中でも一番離れた場所の穴の中へと入った。
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