採石場の守護者【戦士】リョーコロン=ヴェラーリー
「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」
依頼を受けた日の夜。もう【職審官】の台詞で始まる夢だから、直ぐに予知夢と気づいた。そして、このタイミングで彼女の夢を見るのは、これまでのパターンから必然だと考えていた。
「【戦士】です。採石場の警備でもします」
彼女の名はリョーコロン=ヴェラーリー。年齢は誕生日が来れば17のはず。深い藍色の瞳に淡い藍色の髪。それは膝に届くほどに長く、それをツインテールにしていた。顔はお姫様のように気品がある美少女で、声はカワボ。普通にしていたら【剣の乙女】を超えるヒロインになると個人的には思うが、力加減がポンコツで可愛げのある隙の多い女の子だ。……ただし、戦闘能力は高い。
彼女がペトラフェルゼン出身な事は憶えていたので、そこへ向かう事を決めた時点で予知夢を見ると確信していた。
ちなみに採石場の警備というのは、ペトラフェルゼンの南、国境を越えた先にある石材の種類が豊富な採石場があり、国境を越えているからこそ、妖魔や魔獣が現れた際に退避できるよう警備という名の見張りを立てているというわけ。
視界が暗転し、引き続きオープニングが続く。ゲーム画面に切り替わり、場所は何処かの部屋。ベッドがあり、男性が寝ている。
「ただいま、お父さん」
部屋に入ってきたリョーコロンの第一声。
「あぁ、おかえり。どうだった?」
「【戦士】を賜ったわ。採石場の警備をするって言ってきた」
「……別に天職を生かす職業を選ばなくても良いんだよ? お前なら、何処へ嫁に出しても恥ずかしくない……ゲホゲホッ」
ゲーム画面じゃ良く判らないが、台詞回しから病人だというのは理解できる。現時点では何の病気かは知る機会がないけれど……まぁ、この先も当然憶えている。
「わたしが誰かに嫁いだら、お父さんが1人になる。逆に婿に来て貰うにはウチは貧しすぎるしね」
彼女の母親は既に死んでいる。多分過去回想シーンで紹介されるとは思うけれど、子供はリョーコロンのみなので、彼女が嫁ぐと父親の看病や医者の手配をする人が居なくなる。ちなみに、婿を招くには貧しい家ではあるが、世間一般レベルの水準には生活できる普通の家だ。
「私の事は良い。気掛かりはお前が1人になってしまう事。……恋人はいないのか?」
「いない」
……彼女は恋人を作れないわけではない。町でも有名な美少女で、その噂は父親も聞いた事があると思うんだけどね。
「生きている内に孫を抱きたいなぁ……」
「じゃあ、長生きしないとね」
彼女は淡々と答える。
「まずはお父さんに認められるような男の人を見つけてくるところからだから」
「お前が愛せる男なら、それで良い」
今なら何となく判る。リョーコロンに自分の死後1人にしてしまう事が本当に心配なのだ。
「わたし、男性を見る目が無いから」
「……」
リョーコロンは父親の言葉を受け流し、自分を心配して父親が早く元気になる事を願った。でも、彼女が部屋から出るまでに父親はその息を引き取った。
視界が暗転し、思った通り過去の回想イベントのアニメーションが始まった。
「あはは、おせーよ! 早く来い!!」
「待てって!」
男の子達が狭い道を走っていく。歳は判らないが幼い事は間違いない。彼等は人通りの少ない道を走り抜けて町外れまで行くと石の資材置き場に辿り着く。
年上っぽい少年達が既にいて、男の子達に視線を向ける。
「何だ、ガキんちょ?」
「ここはオレ達が毎日使っている場所だ。余所者はどっか行け」
「んだと?」
少年が文句を言った男の子の元へ向かって行くと、その男の子が殴り飛ばした。
「もう一度だけ言う。余所者はどっか行け……次はないよ?」
少年達は殴られた少年を連れて移動する。
「やっぱ強いな、リョンは」
「いや、アイツ等が弱いだけ」
……今回はナレーションが無いのか? クエストのアニメーションにはあったと思うけれど、そのシーンをカットした?
ちなみに、リョンと呼ばれた男の子がリョーコロンだ。
彼女の小児期は髪をベリーショートにしていて、男の子のような格好だった。ちなみに髪型は本人の希望だったらしいけれど、その設定って確かゲーム内では語られずに資料集かインタビューだったか……詳しくは忘れたけれど、知らない人も多いかもしれない。
彼女は近所の男の子とつるんで喧嘩に明け暮れ、ガキ大将のようなポジションになっていた。
「また喧嘩してきたの?!」
日が傾き、家に帰って来ると母親が仁王立ちしていた。アニメーションで見る母親の姿は成長したリョーコロンにソックリだ。
「絡まれたから、返り討ちにしただけだよ」
「……全く……貴女は女の子なのだから、ちゃんと『女の子の当たり前』を学びなさい」
「知っているから」
「実戦できなきゃ知らないのと一緒よ」
「しないだけ!」
「嘘はダメよ」
母親の教育方針は、「「やる」「やらない」は自由だけど、「できない」はダメ。「できない」事は学ばないといけないというモノ。母親は多分、そうやって努力する事を教えようとしたのだと思う。
だから、リョーコロンは「しないだけ」と言い逃れしようとしたが、母親には嘘がバレていたというわけで。
時は流れて、リョーコロンは11歳になった。場所は町外れの墓地。
「お母さん……」
リョーコロンの母親は亡くなった。彼女が11歳になって少しした後、強盗によって殺されてしまった。タイミング良く母親が1人、家で留守番をしていた時の出来事だった。
父親は母親の墓前の前から動かない。
「お父さん……」
「……」
リョーコロンが不安で父親に声を掛けるが、娘の言葉にも反応する事はなかった。
更に時は流れて、リョーコロンが14歳になった。
「リョン、一緒に遊びに行こうよ」
「行かない」
男性が成人した姿と変わらぬリョーコロンを遊びに誘うが、彼女は鬱陶しそうにあしらう。
何回も別の男性に声を掛けられるも、言葉少なく遊びへの誘いに限り適当に追い返す。もちろん男だから適当なのではなく、本当に用事のある人からの声には丁寧に対応していた。
「ただいま、お父さん」
母親が亡くなって父親はずっと元気がなかった。リョーコロンが母親ソックリに美しく成長したのは全て父親を元気付けるためで、その甲斐あって立ち直りつつあった。
視界が暗転して、ゲーム画面の石切り場。三頭身のリョーコロンがマップ内をウロウロしていた。
「今日も宜しく頼むよ」
「はい」
ここは南側の国境を少しだけ超えた場所にある。国内にも採石場はあるが、採れる石材の種類が限られている。でも、少し国境を超えるだけで多くの種類の石材が手に入る。
そこで入手した石材がアダマスオーロ王国の経済を豊かにし、食料を生産し難い環境だが輸入して飢餓に襲われる事なく暮らしてきた。
故に、安全に石材を入手できる環境と言うのが生活の命綱である。
モブキャラ達が採石作業を始める。その間、警備員が見回りをする。
弱い魔獣や妖魔は人が集まっている所には近づかない。近づいて来るのは危険な奴だけだ。
「近くに魔獣を発見しました。作業を中断して避難をして下さい」
警備員が避難勧告をする。
他の国……もしくは国内作業であれば、「たかが見かけたくらいで……」と大袈裟だと感じて指示に従わない事もあるかもしれない。でも、ここで働く者はそう考えない。「命があっての金稼ぎ。死んでしまっては意味が無い」と言葉を職人同士で掛け合って国内に退避する。
場面が変わって冒険者の店。そのタイミングでアニメーションに切り替わった。
「お疲れ」
「どうも」
リョーコロンが1人で酒を飲んでいると、だいたい男が絡んでくる。今回は仕事仲間なので普通に対応しているものの、知らない人だったら無視するのが基本となっていた。
「最近、魔獣の量が増えたか?」
「そうですね」
邪竜王復活が原因で魔獣や妖魔の活動が多く確認されるようになった。
ノーマル職では警備員は務まらず、レア職しか募集されなくなっていた。でも、レア職だからといって国外の魔獣に敵うわけがなく。
「こりゃ、近々駆除依頼来そうだなぁ」
「……」
こうやって、採石職人を休みにしてからレア職持ちだけで魔獣や妖魔……採石場付近を狩りに行く。一応駆除依頼という名目で冒険者の店へ依頼を出しているため、警備員は漏れなく冒険者登録をしていた。
リョーコロンが冒険者の店で食事をしているのも、冒険者に登録しているので飲食代が安くなるからだ。だから、自然と声を掛けられるわけだけど彼女の場合は特に男性から声を掛けられやすかった。
「憂鬱ね」
ボソッと呟く。
警備員の仕事を引き受けるのはノーマル職でない事だけが条件となっている。だから弱い人でも受ける事ができる。ただでさえ国境を越えた先の方が強いのに弱い人達を戦わせに行く事に彼女は反対の立場だった。
そして、冒険者登録している警備員だからこそ、実戦経験のない初心者こそ駆除依頼を受けてしまう事に杞憂していた。
「そうか? 臨時収入のチャンスだろ」
男の発言に、リョーコロンは深々と溜息を吐いた。
視界が暗転して、画面の中央には三頭身の【剣の乙女】が足踏みしている。
場所は採石場。そこに敵ユニットが4体。それを確認するとユニット選択画面に変わり、総出撃数が6体で、一体は※※※※と【剣の乙女】がデフォルトで選択されていた。
仲間にしているユニット一覧を見ると、あまり育っていないが大体のユニットが平均的に育てられていた。
……この時点でプレイヤーが俺でもムッチミラでもないと理解。じゃあ、誰が操作しているんだろう?
5人選択して、計6人で戦闘が始まる。
【剣の乙女】を最初に動かして戦闘を仕掛ける。
「いくよ!」
ザシュッ!
敵ユニットが一撃で倒れる。
……参考までに言うと、【剣の乙女】が特別強いわけじゃない。順当な成長具合だと思う。だから、それだけ敵が弱いという事。
次に別のユニットが移動し、攻撃を仕掛けて同じように一撃で倒していく。
1ターンキルで全滅させるとイベント戦闘が終了する。
……ちなみに、俺がプレイヤーの時は仲間にしたばかりで一番弱いユニットを1人で戦わせて経験値を総取りする。
戦闘が終わると出撃したユニットは【剣の乙女】以外全員が消え、モブキャラ多数とそこに混ざる形でリョーコロンも【剣の乙女】の近くに並ぶ。
「ありがとうございました」
一番前にいるモブキャラが代表して礼を述べた。
「国境を越えた内陸側は危険です。何故、このような場所で活動を?」
「国の経済を支えるためです」
このイベントはクエストでもなければメインストーリーでもない。だから、【剣の乙女】が来なければ発生しないイベントであり、放置するとストーリーが若干変わる程度。しかも、別のイベントで修正が可能なもので重要でもない。
ただ、このイベントでリョーコロンを仲間にするフラグが立つ。もちろん、それだけでなく、いろいろなフラグになっている。
場面が変わり、冒険者の店。テーブル席に1人でいるリョーコロン。そこへ【剣の乙女】が彼女の横へと移動して話し掛ける。
「仲間になってくれませんか?」
……実際だったら、拒否一択。フォローするなら、省略されているだけで絶対に自己紹介したり、『邪竜討伐軍』の事を説明したりしていると思う。
「はい、お願いします」
……そんなアホな……とプレイヤーならツッコミいれるところ。多分、大人の事情で会話が削られたのだと思いたい。
そんな訳で。リョーコロンはイベント戦闘すれば冒険者の店で話し掛けるだけで仲間になる。
視界が暗転して、次は最初からアニメーションだった。
「祝! ペトラフェルゼンが誇る英雄リョーコロン=ヴェラーリーの帰還?」
リョーコロンが町に入ると、町の入り口に横断幕があり、そう書かれていた。それを思わず声に出して読んでしまっていた。
「おかえり、リョーコロンちゃん」
「リョン! 無事で良かった!」
町の人達が彼女の帰りを待っていた。……普通は感動のシーン……と思うのだが、リョーコロン本人は不思議そうに周囲を見回す。
……これは、彼女のグッドエンドのエンディング。
「あ~……えっと……ただいま?」
邪竜王を討伐して故郷に帰って来たリョーコロンだが、当然両親は亡くなっている。
[墓参りだけするつもりだったんだけどな……]
内心、彼女はそうボヤく。
お祭り騒ぎには気まずいながらも参加し、そして落ち着いた頃に両親の墓参りをする。
「よぅ、リョン」
「……あっ、生きてた?」
「失礼だな。生きてるよ」
声だけ。姿は画面に表示されない。初見であっても声優さんが違うから父親の声ではない事は判るはずだ。
「待ってた」
「うん……ただいま」
「おかえり」
その後、その声の主と思われる男性と結婚。子供と一緒にいる一枚絵が表示される。
ちなみにノーマルエンドは、大陸を巡る冒険者となって邪竜王の傘下に入っていた残党を掃討する旅を続けている。
そして、バッドエンドは同じく町に戻っては来たけれど、帰還を祝うお祭り騒ぎをスルーして、再び採石場の守護者となる。他人を寄せ付ける事無く、町の人達とも距離を置いて生活している。
……目が覚めた。周囲はまだ薄明るい感じで若干時間的に早いのは判っていた。
川の字になるよう、両隣にはミサキオレとアズサーラが寝ている。股間には言うまでもなくランファスが寝ている。
……動けん。
下手に動いて起こすわけにもいかない。……相手は子供だし。
『竜騎幻想』でのリョーコロンは見た目が超絶美少女だ。王族の姫様達と並べても劣らない美貌の持ち主で、ネタ装備であるドレス系とか着せると、本当に姫様に見える。
成人前から始めた話し方の改善と元来の可愛らしい声により二次創作においては人気があるキャラクターではあるが、ユニットとしては人気が無かった。
理由は【戦士】という天職。物語の前半に需要が高い天職なのだが、早めに出会う北周りでは仲間にできない仕様で、南周りだと彼女が不要なくらい既に充分な戦力が整っている状態。
……正直、俺は開発者の意図がわからない。
余程戦闘にミスしてユニットを減らし過ぎて【戦士】でも良いから補充したいという状況でもない限り、仲間に誘わないだろう。……俺みたいなキャラ好きな育成厨でもない限り。
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