化粧品の材料である貴重な石の粉末を求めて護衛依頼
色々思うところがあったけれど、自分の部屋に帰って来た。
どう動くべきか悩んだ結果、とりあえず『邪竜討伐軍』と遭遇しなければ問題ないと思う。
……しかし、仕方ないとはいえ自分の部屋なのに全然休まらないな……。
まだ若干早い時間でベッドにいる。股間にはアダマスオーロに来た初日に合流したランファスが当たり前のように許可なく陣取っている。……多分、プルームにとっては常識なのだろう。
まぁ、彼女が股間に陣取っているのはテレツテーレに居た時も一緒だったけれど、今は隣にミサキオレも寝ている。
アスパラオウムにいる間は部屋に籠っていたのに、出国した途端に俺の部屋に戻って来てスキンシップを求めて甘えてくる。……幼いから寂しいのだろうと放置しているけれど。
問題は反対隣に寝るアズサーラ。彼女は最初1人で寝るつもりだったのに、ミサキオレの態度を見て羨ましかったのか方針を変更して一緒に寝たいと言って来た。何を考えているかは判らないが、幼い女の子への態度に差を付けたくない。……そんな理由から2人とも俺の部屋で寝るようになった。
子供の1人や2人が増えても、俺の部屋はオートマタ達が出入りする事を前提に大きく作られているから問題はないけれど……休まるかどうかは別の話だった。
「ん……おはよ」
「おはよ、お兄さん」
2人が目を覚ます。……未成年は朝の手伝いをしなければならない。この船に乗り続けるためのルール。……ちなみに俺が決めたわけじゃない。幼女に甘い俺では甘やかすだけだからと定められたルール。確かに、マリアンジュと重なってしまうので図星ではある。
見透かされているようで、2人も「サクリ」呼びから「お兄さん」呼びに変えている。幼い故の処世術なのかもしれない。
2人は自分の部屋に戻り、俺も身支度をして甲板にでると既に賑やかになっていた。
「おはようございます。サクリさん」
「おっはよ~♪」
ミューリティスとアリーエルが俺を見つけると駆け寄ってきた。……朝から元気だ。
「あのねっ、わたし達も冒険者になるって決めたの!」
「それで、後で支援組合? って所に連れて行ってほしいんです」
……あぁ、なるほど。
「わかった。ナッツリブア冒険者支援組合に後で一緒に行こうか」
いちいち指摘する程の事でもないが、間違えて憶えているのも難儀なので、さりげなく正解を伝えながら約束する。……そうか、冒険者になるか。死なせないようにしないと……。
「あっ、サクリさん。……あのっ、サクリさんが連れて来たコボルド、何とかして下さい」
ユミリアからの苦言……あれ? このイヴァルスフィアでもドワーフとコボルトって仲が悪かったっけ? ……なんて思いながら、朝食後に対応する事を約束した。
……答えは簡単で、コボルドに限らず妖魔は人類の敵なので嫌悪していた。俺……というか転生者だけがその感覚が鈍っていただけに過ぎない。
前世の感覚からすればコボルドは犬人族と言い換えられる架空の生物であり、モフモフで単純で勇敢な愛玩動物だから。
実際、最初は使っていない厩舎の一画に隔離するべきとの意見が出たけれど、割と強引な手段で地下3階のゲストルームに隔離したとマオルクスから聞いていた。
相手はレベル1コボルド。脅威ではないけれど妖魔。何も知らなければ俺も同じリアクションをしたかもしれない……そんな事を考えながら、扉をノックした。でも、返事は待たずに扉を開いて中に入る。
「……あれ? そんな姿だった?」
コボルドは泥やゴミで汚れていた。それでも、茶色い毛並みの大型犬が二足歩行しているような、そんな印象だった。人が身に付ける武器や鎧で武装されてはいたが、流石にそれは解除させた。……その姿はよく憶えている。この子の姿に限って言えば、前世での犬種で言うところの多分「アフガン・ハウンド」が近いだろうか?
だけど、今のコボルドは犬耳、犬尻尾は最初の印象と変わらない。でも、全身を包んでいた毛が無く、顔も犬より人に近い。そのおかげでコボルドが女性だと今日知った。……これは完全に犬娘。
とりあえず、羽織っているローブを脱いで彼女に被せる。異種族故にエロさは感じないけれど、毛皮がないなら寒いだろうし全裸が恥ずかしいという前世の感覚が残っているかもしれない。
「……」
彼女は何かを言っているが多分、コボルド語? 判らないけれど言葉が通じない。そこで俺は彼女に『変身の腰紐』を渡しつつ、紙にひらがなで「こしにまいて、『へんしん』といって」と書いて見せる。
「……」
彼女は素直に腰に巻いて「変身」と言ったのだと思う。その証拠に犬耳と尻尾が消えて、見た目はヒューム族になったから。
「言葉、通じる?」
「……わ、わかります!」
やっぱりヒューム語が通じていなかったか。
「転生者だね?」
「えっと……わたし、田中花梨。7歳。あと、えっと、えっと……大きなバスに乗っていて目が覚めたらパパもママもいなくて……」
……あ~、7歳って小1から小2になる春休みだったか。どうりで書かれた日本語が「助けて」じゃなくて「たすけて」だと思った。
「ずっと忘れていて……思い出したら犬のオバケでいっぱいで……」
彼女の目から涙が零れる。
「怖かったんだね? もう大丈夫」
彼女は泣いて俺に抱き着いてきた。
「ただ、今の花梨ちゃんはコボルドって種族で人間じゃないから、俺との約束はちゃんと守ろうね? ……できる?」
彼女は素直に頷く。……前世の記憶があるから成人したコボルドなのは間違いなく、7歳の記憶を思い出して混乱しているようだった。
花梨の今の名前は無い。それは不便だし前世の名前で呼ぶのもトラブルの素になるかもしれない。そこで、彼女にネオンと名付けた。本人も気に入っていたし問題ない。……最初は、某異世界転生アニメのように名前を付けたら進化したという設定が脳裏を過って身構えたけれど、その心配は作品違いのため杞憂に終わった。
仲間には、使い魔契約したから問題ないと話した。嘘だけど問題ないことは間違いない。
汚れていた毛もしっかり洗って飴色に輝き、衛生的にもなった。
常識を学ぶまでの間は通称『変身ベルト』は回収し、俺と転生者だけによる筆談で知識を教えて、まずはヒューム語の習得を目指す事になった。
そんな事があった数日後。
「あぁ、サクリウス様。お久しぶりです」
予期せぬ客が船に来た。
「マレイゼリン姫、何故ここに?」
マレイゼリンと彼女の専属メイドであるサユミズキ。2人で来た事自体は冒険者活動をしていたのだから無茶とは思わないけれど、わざわざ船まで来る用件に心当たりがなかった。
「もちろん、冒険者としてチームに入れて頂くためです。サクリウス様が大陸を巡る冒険者だという事は知っていましたので、お父様に交渉して承諾を得た後にスエロランドまで乗合馬車で冒険者として参上した次第です」
ニコッと微笑むマレイゼリンと黙って彼女の後ろに従うサユミズキ。
「えっと……サユミズキさんも一緒に?」
「もちろんです」
マレイゼリンはそう答えるが、俺はあえてサユミズキさんを見る。すると、彼女も俺の意図に気付いたようで、口を開く。
「はい。サクリウス様の強さを直接見ましたので、キッカケこそマレイゼリン様の世話係として同行を命じられた事ですが、あたし自身もそれを望んでいます」
サユミズキ=ホールデン。この前城に行った時に少し話をして知ったけれど、年齢は1歳下で身長は161センチと高身長。橙色の瞳。あと彼女を憶えていたキッカケとなった柳色の髪。長さは判らないが、低い位置で団子状に束ねていた。
……団子の大きさから察して、結構長いのではないだろうか?
彼女の天職は【戦士】で、得意武器は槍だという。……ちなみに、『竜騎幻想』に彼女はユニットとして存在していない。NPCでは名無しで存在は確認されているけれど、キャラデザインはモブメイドで個人識別できるものでは無かった。
当然、髪色が柳色なんて特徴的な色で表現されていたわけがなかった。
「俺の独断では許可できないので、食事時まで待って貰って良いですか? 全員に聞かないと」
そうは言ったがマレイゼリンは夢にも見ていた事もあって、2人はチーム入りに了承された。でも一番驚いていたのはキョーカロナで、推察通り彼女が王家の人と知らなかったようだ。
ネオンの成長を促すべく調べて貰って出た結論は、「結局レベルを上げるしかない」という事に収まった。
『竜騎幻想』の仕様と理屈は一緒のようなので、多分コボルドであっても適応されると仮定して、教育を施す。……彼女が文字を読めないので苦労はしているけれど。
『竜騎幻想』の仕様上、どんな生き物でもレベル1の段階でアクティブスキルは10種類全て賜る。この時点で魔法が使えるなら本能的に理解できる。だが、パッシブスキルは1つだけ。レベルが1つ上がる毎に1つパッシブスキルが増えていく。そしてレベルクラウンの時点でアクティブスキル10種類、パッシブスキル10種類となる。
ネオンは現状覚えているパッシブスキルは、〈トランスフォーム〉。犬形態、妖魔形態、犬娘形態の3種類に姿を変える事ができるというもの。
ステータスアップの準備をさせつつ、次のレベルで〈ヒューム語習得〉を憶えて貰えるように知識を詰め込んでいる。
そんな日々を送る中、甲板に綺麗な人が店の客として現れた。女性客同士で「綺麗な人だね」という噂をしているものだから、好奇心から覗きに行った結果……本当に美人だった。
だから何だ? ……って話ではあるけれど、普段ならそれで終わる話。
「あの人って、有名な髪結いのメグミアンヌさんじゃない?」
「王族御用達の? ……流石、美意識高いのねぇ」
……へぇ。有名人なのか。
ただ、この船は推しが沢山乗っている。元々可愛い女性が好みの俺としては美人の女性は美人なだけという評価。
チラッと俺と目が合う。けれど、気まずいだけなので直ぐに視線を逸らして部屋へ戻る。
翌日の夕方。営業終了間際。甲板にいる客も残り少し。甲板の清掃を始めていた頃に女の子が来た。女の子と呼ぶには成人女性並みに背が高くプロポーションも良いけれど、童顔で可愛らしい服装。踝まである桜色の髪。正直に言って美少女過ぎて無自覚に見つめていた。
彼女は俺のところに近づいて来る。
「あの、“サクリウスファミリア”のリーダーですよね? わたし、メグミアンヌ=ローズフィールドと申します。それで、依頼をお願いしたいと考えています」
……ん? メグミアンヌ??
「あの、もしかして……王族御用達の?」
「はい。髪結いの【美粧師】メグミアンヌです」
確かに身長や瞳や髪の色は一緒だけれど、どう見ても同一人物に見えなかった。
営業は終わっても冒険者としての仕事は24時間体制……は言い過ぎか。それでも、冒険者によっては寝ている時以外は聞く耳がある。
冒険者としての依頼という事で甲板にある未使用の店の2階に行き、話を聞く事にした。
「改めまして。メグミアンヌ=ローズフィールドと申します。一応、王族や王家の方に贔屓して貰っている髪結いをさせて貰っています」
俺は男だから知らないが、街に住む女性にとっては有名人だという事は昨日理解した。
「俺達の事を何処で?」
「有名ですよ? マレイゼリン様もわたしのお客様ですし」
「あ~……」
その一言で情報の入手先を理解した。
「じゃあ、俺達がゴールド級の冒険者という事も?」
この確認は大事で、同じ依頼でも階級が1つ違うだけで報酬額の0の数が違ってくる。
「はい。依頼内容は冒険者様なら簡単なのですが、実力の無い方に頼むとリスクがある事なんです。なので、先に依頼内容をお話しますね」
……妙な前置きだな……。
「わたしは現在髪結いを仕事としているのですが、転職を考えています。【美粧師】は理髪師や髪結いなど、髪を弄る職業に就く人が大半なんですけれど、わたしは化粧やマッサージなど美容に関するトータルケアを仕事にしようと思っているんです。今はそのためにオリジナルの化粧品を開発しています」
「凄いですね」
「化粧品作成には貴重な石材が必要となります。それが最近入荷しなくなって、仕事にも支障が出るようになってしまったんです」
正直、男だから化粧の事はよく解らないが……彼女の状況は理解した。
「それで依頼の具体的な内容ですが、滑石と麦飯石、絹雲母。それと各種霊石の粉末を仕入れる為に国の南東、南の国境付近にある職人の町ペトラフェルゼンまでの往復を護衛してほしいんです」
「報酬は?」
「ゴールド級を雇うのは高額だと聞いています。ですので、なるべく安くあげたいのです。……おいくらになるでしょうか?」
……交渉下手だな……冒険者を雇い慣れてない? そんなんじゃ言い値を吹っ掛けられる。
「額を伝える前に、地元の冒険者を雇わなかった理由は?」
「わたしが拉致されやすい存在だから。人質として価値があるのだと思います」
「解った。10万ナンス……金貨1枚で引き受けるよ」
今の俺なら1人で確実に護送できるし、国境付近なら別目的も兼ねて格安でも構わなかった。
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