罠に囚われたままの『邪竜討伐軍』強制加入ユニット
内心、不安を抱えながら護衛目的で依頼主であるミカルコアと共に国の南西。クリスタークとの国境付近を目指して移動している。
メンバーは一緒に来た7名と依頼主であるミカルコアと王女であるアヤネルヴァ。
本来であれば、一度ベタパイコーロスに戻って人数を増やして挑みたかったところなのだが、アヤネルヴァの希望により真っ直ぐ向かう事になった。
不安ではあるが状況から考えて難易度はそれほど高くない。
『邪竜討伐軍』が攻略してから約2週間が経過したと聞いた。敵に倒される事が無ければ保存食を食べている限り生きているだろう。
それに対し、遺跡の中の様子はまだ攻略して2週間という事を考えれば、新たな敵は出現していない確率が高い。……全くいない事はありえないが、経験上限りなく減っているに違いない。
……それにしてもだ。
バイ~ン……バイ~ン……バイ~ン……。
馬車が揺れる度に荷台に座るアヤネルヴァが浮く。髪や胸だけでなく、身体ごと浮く。身体に掛かる重力が4分の1なのだから、そういう感じになるのだろう。
俺的には目のやり場に困る程に胸が暴れているのだが、本人は普段の事だからと気にしない。
……コイツも王族だから、見られて恥ずかしい身体ではない! ……とか、言い出すタイプなのだろうか?
「ねぇねぇ、『魔女ティリーベルのアトリエ』って、どんな所?」
アヤネルヴァがミカルコアに向けて質問をした。
「そうですね……姫様は魔女ティリーベルをご存知ですか?」
「んー、昔活躍した【勇者】の仲間?」
「正解ではありますが……ティリーベルは1日3度の食事よりも魔法研究が大好きな人で、現代に残る一般魔法は彼女が開発したものだそうです」
……へぇ~、そうなんだ……。
「そんな彼女の研究施設が『魔女ティリーベルのアトリエ』と呼ばれるようになったそうですよ。だから、遺跡には罠がいっぱい仕掛けられている上に工房にはまだ彼女の宝が眠っている可能性もあるそうです」
「でも、結構攻略されているでしょ?」
2人の会話に思わず割り込んで尋ねる。しかし、彼女は嫌な顔1つせず。
「そうですね。簡単に手に入る彼女の研究成果は既に持ち出されて、世に出回っているそうです。ですが、魔女ティリーベルの遺産が全て発見されたと考えるには、あとから発見されるものが多すぎるのです」
確かに、【剣の乙女】も順調であれば魔剣が手に入っているわけだし、判っていても取れない品とかも存在するかもしれない。
アスパラオウム王国南西には小島がある。これが実際には天然の小島なのか、本土から切り離された物なのか、魔女ティリーベルが魔法で作ったものなのかは知らない。
とても小さく、人が生活するには不十分な広さの小島だが、そこに遺跡『ティリーベルのアトリエ』の入り口がある。
小島とは橋が掛けられていて、遺跡に挑む冒険者も多い。ただ、お世辞にも難易度低めな遺跡では無いらしい。……知っているけどね。
「ニチュー、遺跡に入る前に全員と繋いで」
「アヤネルヴァ様とミカルコアさんもですか?」
彼女に頷いてリンクされている事を確認してから遺跡へと入る。
リンクしていると、視覚情報として同階層内での位置が判る。この遺跡において、その情報は迷子対策として重要だ。
「ルーチェ、明かりをお願い」
「はい、サクリ様」
外の光が認識できる内に照明をルーチェに頼む。結果、遺跡内が明るくなる。念のため松明も用意して貰い、充分な光源を確保した。
「ミカルコアさん、遺跡に入った事は?」
「初めてです」
……ですよね。
いや、こういった動作確認で色々遺跡に入っている可能性を考えたんだけどね。
「では、ミカルコアさんは特に俺かニチリカから離れないように」
多分、アヤネルヴァは大丈夫。もし迷子になったら探しに行けば良い。本来はしっかり者だから、そんな心配は不要だと思うけれどね。
頷いて彼女は荷物から地図を取り出す。
「それは?」
「遺跡内の地図です……未完成ですけど」
多分、何処かの冒険者が売却した描きかけの地図。丁寧にワープについても書かれている。パッと見で俺の記憶の中と地図は一致しているように見えた。
……まぁ、同じなら……。
「この印、ワープ床なので注意です。逸れた先で襲われたら助けられないですからね?」
一応注意する。
「目指すは最下層……地下5階ですね」
「はい」
「じゃあ、いこ~!」
アヤネルヴァはまるで遠足気分で先を歩き始める。
「視界に見えている小マップですが、わたしと階層が変わると見えなくなるので気を付けて」
ニチリカもみんなと逸れる前に注意する。
……それがゲームと違う厄介なポイントだよな。
少なくとも『竜騎幻想』の仕様では、神視点で各ユニットの情報が手に入る。しかし、現実は当然見えないし、ニチリカのおかげでゲームのような情報把握が出来ていたけれど、ニチリカと階層が変わった瞬間、その恩恵が切れる。
「そういう訳だから、みんな勝手に離れないように」
……まぁ、俺1人なら迷う心配はないけれど。
とりあえず、さりげなく例の問題の罠がある場所へと案内した。
地下1階はたいした罠は無い。……正確に言うなら解除済みと言うべきか。
考えてみれば地下1~2階は既に多くの冒険者が攻略しただろう。もしかしたら、未発見な道をあるかもしれないが、探索ではなく最深部までの護衛がメイン。とりあえず、問題の罠までは真っ直ぐ下層を目指して移動していた。
そうして訪れた地下3階。
「何かあっさり中間地点に到達したね」
「いや、本番はここから」
ここまでの敵はボーンファイターなどのボーンゴーレム。見た目こそスケルトンと変わらないがアンデッドではなく魔法生物。仮にレベルクラウンであっても今居るメンバーなら敵ではない。
視界の小マップに敵が表示されていく。
「みんな、ここからは戦った事の無い連中ばかりだ。妖魔は居ないけれど魔法生物が相手だから気を付けて」
魔法生物は加護がない。どんな地形でも強さは変わらない。……ヒューム族と一緒。
地下3階からはワープの床が存在する。ただし、地下3階はまだ同じ階層の何処かに飛ばされる物だけだったはず。……違ったら、「現実って世知辛いよね」って事で。
ここからは通路が妙に入り組んでいて迷路のようになっているけれど、ニチリカのおかげで迷う心配はそう無い。
ワープ床に気を付けて地下4階を目指していた。
「あっ……人ぉぉ!!」
ドンッ!
割と凄い勢いで彼女からタックルをされた。その勢いで背は壁に叩きつけられ、顔を確認しようと視線を下げると、彼女は目当ての人だった。
童顔で緑色の瞳、股上まである緑髪はハーフアップツインテールにしている。そして、2週間遺跡内を彷徨ったのだろう……なかなか厳しい臭いだった。
グゥゥゥゥ。
……盛大な彼女の腹の音が空腹を訴えている。
「お願いします、助けて下さい……もう食べ物なくて……このままだと死んじゃいますぅ」
「それは大変でしたね。一緒に行動しましょう」
そう言いながら保存食を分ける。
「あぁ……ありがとうございます!!」
「ゆっくり食べようね……」
そう話しながら飲み物も分ける。
……思ったのと違うけれど、推しが無事で何より。
ニチリカに指示を出して、彼女とも繋いでもらう。……設定通りなら迷子癖があるから。
……思っていた場所とは違うところで会ってしまった。
「俺の名はサクリウス。見ての通り冒険者。そろそろ名前とここに居る経緯を聞いても?」
全部知っているからと言って聞かない訳にいかない。うっかり名前を呼ぶ前に彼女の名前を教えて貰い、知っている知識と実際にあった事の違いを確認しなくては。
「モグモグ……ゴクッ……し、失礼しました。わたしはモエロイーズ=マールテイトと申します。『邪竜討伐軍』に配属されて、この遺跡に入ったのですが……迷子になりまして……」
……やっぱり置いて行かれたのか。俺の気のせいじゃなく、本当に『邪竜討伐軍』って女性ユニットに対する扱いが悪い。彼女が男性だったら置いて行く真似は絶対にしないだろう。
「それは大変でしたね。この遺跡は迷いやすいですから離れないようにして下さいね」
「ありがとうございます」
直ぐにでも動けると答える彼女の体力に内心驚きつつも、最下層へと進み続ける。
「あの、お願いがあるのですが……」
実は迷子癖のあるモエロイーズに対し、1つの対策を用意していた。
「はい、何でしょう?」
「この指輪をお貸ししますので、遺跡を出るまでは付けて外さないで欲しいのです」
「この指輪は?」
「お守りです」
俺はその指輪を貸し、彼女の指でサイズの合う指に付けて貰う。指輪には〈マーク〉をしてあり、ニチリカにも1つ貸している。
「あっ、動く鎧見~つけっ!」
こちらに近づいて来ていた魔法生物アーマーゴーレムが近付いて来るのを察して、アヤネルヴァが先制攻撃を仕掛けた。
「えいっ!」
ドグシャァ!!
……えーっと……何でアヤネルヴァの武器がフレイルタイプのモーニングスター?
なんか、アーマーゴーレムがただの鉄屑になっている……。
「姫様、再生するので魔石は回収して下さいね~」
「はーい」
……なんだろう……実際はこんな感じなん? ゲーム画面越しでは想像もしてなかったわ。
確かにアーマーゴーレムに対して……いや、魔法生物の大半に対して打撃武器はかなり有効なだけあって、アヤネルヴァの戦闘力は【風水士】なのに頼もしいまであった。
最下層と思われる地下5階。問題の部屋の前まで来た。
その部屋を移動するにはコツがいる。
「みんな止まって」
全員が居る事を確認してから改めて説明を始める。
「この部屋、実は大きな仕掛けがあって。今は開いている手前の扉と奥の扉はあの赤いタイルを踏む事で閉じるんだ」
部屋のタイルは白いのだが、扉と扉を繋ぐように赤いタイルが敷かれている。赤いタイルを囲むように台座があり、半人半馬であるケンタウロスの彫像が飾られている。
「あの彫像は魔法生物スタチューイミテーター。最初に赤いタイルを踏んだ者を目標に攻撃を仕掛け、台座から降りることで扉が閉まる……そういう罠。だから回避する方法は簡単」
ちなみに『竜騎幻想』では仕様上回避不可……でも、現実なら割と簡単で。
「赤いタイルを踏まなければ良い。壁沿いに白いタイルだけを踏んで進み、扉から出れば良い。入り口以外は問題ないだろう」
……ただ、俺は気付いていた。馬の尻尾の違いに。
順番に入り口だけ跳躍する必要があるけれど、エスパフに重力軽減の魔法を使って貰って最重量と思われるカエディステラも無事に突破。あとは俺だけ。
「ちょっと、ニチリカの周辺空けておいて」
「サポートいる?」
「大丈夫。エスパフも外で待ってて」
尻尾が違う彫像の裏を通る。……尻尾を触って確信した。
他の尻尾は石膏のような材質に見える。しかし、これだけ普通に『毛』なのだ。
……〈リコール〉。
失敗する可能性は充分あったけれど……毛と思われた髪と共に女性を彫像から救出した。
扉は勢いよく閉まる。……台座に掛かる重さで扉の開閉をしている事は知っていた。助けた人の質量分軽くなったから扉が閉まったというわけだ。……放置すれば数分で回復する。
ただ、囚われていた方はそうはいかず……モエロイーズと違い衰弱しきっていた。
「メディス……可能な限り回復を」
「うん……ギリギリセーフってところね」
何がセーフなのかはあえて聞かず、呼び出した彼女に治療を任せる。
……あ~、彼女はリコットロンだわ。
【話術士】リコットロン=サイクリア。モエロイーズと共に『邪竜討伐軍』に加えられるユニットの1人だ。
「……ねぇ、モエロイーズさん。彼女の事見覚え……あれ?」
気付くとモエロイーズの姿が消えていた。
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