迷子が発見の隠し部屋、毒棘の緑鞭『リエルディラ』
気付いて直ぐに探しに行けば何も問題ないのは知っている。しかし、治療中の現在は離れる事ができなかった。少なくとも意識が回復するまでは……。
……ヒーラーを1人でも連れて来れば……いや、まさか遺跡に行くことになるとは思わなかったんだから仕方ないか……。
準備不足は覚悟の上だった。
「……んっ……」
救出して治療を開始して30分。彼女の意識が回復した。
「あ……の……」
「まだ無理は良くない。ここは囚われていた部屋の外。……とりあえず薬を飲ませて貰って」
ポーションでも何でも自分で飲んで貰うより、【学者】に飲ませて貰った方がパッシブスキルの影響で効果は高くなる。……どういう理屈か判らないけれど、それがスキルというもの。
メディスも役割を果たしたので帰って貰い、更に数分後には身体は厳しいものの会話は可能な状態にまで快復した。
「助けて頂きありがとうございました」
身体は起こせないので寝たままで彼女は話し始めた。
「わたしはリコットロン=サイクリア。『邪竜討伐軍』に所属し、この遺跡の攻略最中に罠に掛かってしまい……今に至っています」
やっぱり放置されたか。……解除方法知らなかったんだな。
俺は面倒だったから〈リコール〉を使って助けてしまったが、当然正攻法の救出方法は用意されている。
「俺はサクリウス=サイファリオ。国外から来た冒険者チームを率いるリーダーだ。詳しい事情を聞きたいところだけど、俺達は依頼遂行の途中だし、ここも安全とは言えない。それで、確認したい。俺達の依頼に同行して貰っても構わないだろうか? 人道的には出口まで直ぐに連れて行くべきだろうけど……目的地が直ぐそこなんだ……」
「もちろん、構わないです」
「ありがとう……あとはモエロイーズさんを探しに行かないと……」
……良かった。リコットロンも『竜騎幻想』での設定と変わらなくて。
アスパラオウム出身の女性であれば、男に対して雑な反応をされる可能性は高い。でも、丁重なリアクションをくれて安堵する。
「隊長も一緒にいるのですか? 彼女なら大丈夫です。凄く強いですから」
……まぁ、発見時も空腹だけが敵だったような感じだったからなぁ……。
リコットロンの了承を得て、まずは先に進む。目的地はゲームと同じく安全地帯だというミカルコアの言葉を信じて。
……本当にモエロイーズを助けに行かなくて大丈夫なのか? そもそも、何処にどうやって行ったのか?
疑問に思いつつも、行き止まりまで来る。
「ここ?」
見た感じ他の行き止まりと変わらないように思えるが、迷わずに来たのだから余程自信があるのだろう。
「……うん。間違いない」
彼女は鞄から『ティリーベルの懐中時計』を取り出すと、それに反応し壁が割れて道が現れる。
「いきましょう」
現れた道は一本道で、進んでいくと家が建っていた。どうやって資材を運んで来たのか謎だったり、何故普通の家なのかという疑問もあったりするが、間違いなく洞窟の中に建つ庭付きの普通の家だった。
「少し待っていて下さい」
彼女だけ建物の中に入ると、建物の中はもちろんだが、庭も明るくなった。
「……動作確認、成功です。中で休憩しましょう」
戻ってきたミカルコアは俺達に中へ入る事を勧める。
「え? ……綺麗?」
サヤカレットが驚いて、思わず思った事を言葉にしていた。そして、その発言は誰もが思っていた事だろう。
普通、何年も放置されていたら埃が積もっていても変ではないし、仮に他の冒険者が訪れていたとしても掃除する義理はないだろう。
「どういう仕組みなんだろ?」
ミボットも不思議そうに部屋を見回す。
「それはわたしの仕業です」
そう言って現れたのは若い女性だった。俺達よりは少し年上と思われる……多分20代半ばくらいだろうか?
「え?」
「初めまして。皆さんはサクリウスっていうヒューム族の仲間達よね?」
「サクリウスは俺ですけど……」
彼女の俺達への聞き方に違和感。
「初めまして。わたしは聖属性の中位精霊でシルキーと申します。貴方の仲間にわたしと契約してくれる方がいるらしいの。付いて行っても良いかしら?」
……金髪金眼の【精霊術士】ならカナージャの事だろう。
「それは構いません」
彼女は「ありがとう」と一言述べるとスッと姿が消えた。
今更、精霊が俺達の事を知っていても驚く事はない。でも、聖属性の精霊が人型だった事は正直驚いた。
「とりあえず、ここは安全で確定した事だし、モエロイーズを連れてくる」
……対策しておいて良かった。
[モエロイーズさん、聞こえますか?]
[はい……って、えっ? 声? サクリウスさんですよね? 見てないで助けて!]
慌てなかった理由。それはニチリカがリンクしてくれていた事で、モエロイーズとは何時でも念話が可能だから。ただ、マップに彼女が表示されていないから階層は違う事くらいしか判らない。
[わかった。指輪をかざして……壁とか無い場所でね]
[うっ……わかりました……んんっ……しました!]
……〈リコール〉。
これで、モエロイーズの前に来た……けれど、これは……。
「何やってるんですか?!」
俺の目の前には、彼女の下半身が宝箱に吸い込まれている姿だった。両腕で箱が閉まるのを阻止しているが、宝箱から伸びる触手がそれを邪魔しようと力比べしている状況だった。
「助けて……」
「箱、開けたんですね……」
これはミミック? いや、マンイーターか?
「助けてください……」
「……ビジュペ、撃て」
魔法生物を倒すのは簡単だ。ただ、俺が倒すと経験値が入らないので他に譲っていただけの話。だって、魔法生物の弱点は金属性魔法なのだから。
「了解」
厳密に言えば、金属性攻撃魔法の追加効果である『解呪』。これが決まると魔法生物にとっては即死魔法となるんだよね。
「た、助かった……」
「大丈夫? 何故箱を開けたのか……」
見ると彼女の下半身が液体でドロドロになっているし、変な臭いもする。
「ごめんなさい」
……まぁ、助けに行くのが遅かったけど、無事で良かったわ。
とりあえず、ドロドロの服は洗う事ができず。靴は我慢するにしてもズボン類は着替えるという事で。……俺は部屋の外へ。
「サクリウスさん、そこに居ますよね?」
「いるよ」
「絶対見ちゃダメですよ?」
「見ないって」
……それ、フラグなんだけどな……見ないけれど。
「飛ばされてから、直ぐにさっきの状態だったの?」
「違います。最初は脱出しようと歩き回ってみて……この空間から出られない事が判ったの」
「敵は?」
「全部倒しました」
改めて彼女のステータスを確認。レベルはクラウンのようだけど、最初がレベルいくつか見て無かったんだよな……。
「何も無かった?」
「いえ、有ったんですけど……一番大きな宝箱から調べようと思ったら、この有り様で……」
……敵が居ないのならば、見て回って来るのも良いかも知れない。
「お待たせしました」
臭いは……まぁマシになった。
「……探しに来てくださり、ありがとうございました」
「いや、念の為一緒に見て回ろうか」
「はい」
何故か嬉しそうに彼女が先を歩き始める。
「あの、モエロイーズさん」
「はい?」
クルッと身体ごと振り返る。
「隣を歩いて下さい。離れるとまた迷子になりますよ?」
何故か恥ずかしそうに隣を歩く彼女は、顔が赤くなっていた。
別の部屋をモエロイーズに案内される。
「ここ、何かありそうだと思って……宝箱も小さかったので後回しにしたんです」
『何かありそう』ではなく、『何かある』である。
この部屋は見覚えがあった。もちろん初めてきたのだが、似た部屋は何度も見ている。
部屋の中央には穴。そして、少し離れているところに転がっている鞭。それと部屋の片隅にある小さな宝箱。
「どうやら、ここは遺跡『魔女ティリーベルのアトリエ』内ではないようだね」
「え?」
……仮説。遺跡『魔女ティリーベルのアトリエ』の下にもしかしたら轟竜王の封印された場所があったのかもしれない。そして、順番的に元々封印があって、そこにアトリエを作ったのではないか? ……だから何だって話ではあるけれど。
そんな事を思いながら、俺は転がっている鞭に触れる。
[種族確認……適正確認……思考同期成功。これにより所有権が正式にユニット名『サクリウス=サイファリオ』へ移行されました。適応を開始します。個体名を変更して下さい]
名付けは毎回悩む……えーっと、緑色の鞭……鞭かぁ……。
「名前は『リエルディラ』」
[名称変更を確認。今、この時より名称を“毒棘の緑鞭” リエルディラに変更されます。よろしいですか?]
「はい」
俺は『リエルディラ』を拾うと束ねて装備する。
ちなみに小さい宝箱の中身は『空竜晶』。それも遠慮なく鞄の中に突っ込んだ。
「さぁ、他の部屋も見て回ろう」
彼女が言った通り、ワープ床は存在しない。本当に閉じ込められたようだ。
「うーん、他に何も無いみたいだし……戻ろうか」
「え? どうやって?」
「じゃあ、俺の手を握ってから目を瞑って」
彼女が指示通りにしてくれたのを確認してから〈リコール〉する。
「おかえりなさい」
その声で彼女は目を開ける。
「え? どうやって?」
リチリカのところに戻ると、リコットロンも大分回復しているように見えた。
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