甘えん坊女隊長【戦士】モエロイーズ=マールテイト
「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」
……このタイミングで予知夢を見るという事は、推しが遺跡で犠牲になったか?
「あっ……【戦士】……でした。女神様の期待に応えられるよう……が、がんばり……ます」
彼女は明らかに気落ちしていた。
彼女の名はモエロイーズ=マールテイト。身長は152センチの童顔少女で緑色の瞳と股上まである緑髪のハーフアップツインテール。城勤めの女性の平均よりはかなり素晴らしいプロポーションをしており、前世では人気のあるユニットだった。
「希望職種は?」
「あっ……えっと、そのぉ……故郷の自警団に……」
そう答えると視界が暗転する。
場面は城内の広場。オープニングの続き。
「新成人の皆よ。おめでとう」
多分アスパラオウム王国だけに存在する成人女性を城内で祝うイベント。国内で今月成人した女性達が集められていた。
女王直々に祝ってくれる機会なので、原則参加である。
イベントが進み、壇上に女王が立つ。
「そうねぇ……あなたとあなた。それと……あなた……あとは……」
女王が新成人を指名していく。共通点は容姿が秀でている事。まるで国代表の美女を選出しているようでもあった。
「それとあなたも」
しっかりと自分が指された。思わず周囲を見回して、自分を指す。
「そう、あなたね。あとは……」
女王は引き続き指名していく。結構な数を指名していたので、自分も含まれたのかと疑問に思いつつも思っていたのと違う指名なのかもしれないと女王の行動を伺う。
「……以上、選ばれた者はこの後残りなさい」
女王はそう言い壇上を下がる。
大臣や宰相の祝辞が続き、イベントは終了する。そして、会場には先程指名された者達だけが残っていた。
「さて、ここからが本題よ。今残っている者は天職に関係なく城内で働く権利を与える。断っても結構だけど、特に【魔術士】では無かった者は城内勤務より待遇の良い職業は無いと思って結構よ。……今の説明の時点で辞退を決めている者はもう帰って頂いて結構」
誰も帰らない。
「……では皆、城内勤務希望という事で話を進めます。詳しい勤務内容はそれぞれの上司が話す事になるわ。そして、職種は天職により割り振られる。あとは別の者が説明します。……国の為……国民の為に働いてくれる事、感謝します」
そう言って、女王は壇上を降りて会場から退出する。
……結果として、ノーマル職はメイドや雑用係に配置され、前衛レア職であれば衛兵や近衛兵、護衛を兼ねた専属メイドに。後衛レア職の場合は宮廷術士や魔法を必要とする部署へと配置される。
「モエロイーズさん……貴女は【戦士】ですので、王国兵団所属の衛兵になって頂きます」
「は、はい」
最初は不安に思っていたモエロイーズだったが、真面目な彼女は直ぐに功績をあげて若くして隊長にまで出世する事になる。
視界が暗転する。オープニングアニメーションは終了し、彼女の回想イベントに変わった。
「わたしは王都近くの村出身で、父は当時王国兵隊長。母は森の管理と林業を携わっていた」
モエロイーズによるナレーション。
外見的にモエロイーズ本人は赤ん坊ではなく、既に7歳くらい。
「母も管理していた森は村での主要産業のようなもので、森の恵みである果物や野獣の類は村の食卓事情を大きく影響させていた。……結果として、母は1日の多くを森で過ごし、父はそもそも王都勤務。兄と2人きりで過ごす事が多かった」
……自分がプレイ時は「近所に歳の近い子いなかったんか?」なんて疑問に思っていたが、多分いない……もしくは近所の子供同士で遊ぶ事が難しい環境だったか。……知らんけど。
根拠は無くとも推測はできて、『竜騎幻想』内でのアスパラオウム王国でも女性同士のマウント合戦は描写されていた。製作スタッフが何処までリアルに反映させるかにもよるけれど、母親同士のマウントで子供間も自由に遊べない世界……あるかもしれんし。
視界が暗転し森へ移動する。
「ママ、何処?」
周りは薄暗く、子供の彼女より背丈の高い植物に囲まれて視界が悪かった。
……彼女は迷子になっていた。
「うぅ……ママぁ……」
ポロポロと涙を零しながら、必死に母を呼ぶ。
「モエちゃん!」
「!! ……ママぁ!」
母親が現れると大泣きしながら抱き着く。
「もう、勝手に離れたら危ないでしょ?」
「ゴベンナザイ」
これが初めての事では無く、何度もあった。なので、彼女の方向音痴は生まれつきで、それが原因で臆病で泣き虫、優柔不断で少し劣等感の強い子になってしまった。
視界が暗転し、別のクエストのイベントシーン。
モエロイーズは成長して11歳になっていた。
「えいっ、とぉっ!」
城勤めは障害の残る負傷を負った事により退職。村の自警団に所属していた。父の天職は【騎士】。片目を失明したとはいえ、自警団員にしては圧倒的な力を有していた。
母は【精霊術士】。現在も森に長い時間滞在している。
「ほら、頑張れ!」
「えいっ、とぉっ!」
一生懸命木剣を振っているが、父親は苦笑する。
「モエロイーズ、魔法の勉強しようか?」
多分、父親は剣術の才能が無く、魔法使いになれれば将来有利になると思い提案したと思う。
「やだっ、パパと訓練する!」
別にモエロイーズは剣術が好きな訳ではない。かといって魔法が嫌いというわけでもない。実際、魔法の勉強もしている。
……別に魔法使いじゃなくても簡単な魔法なら使えるからね。
「パパ、これ、なぁに?」
彼女が手にしたのは鞭。
「これか? これは……こう使う」
スパンッ!
良い破裂音を鳴らしながら鞭を振って見せる。途端にモエロイーズは目の色を変えた。
視界が再び暗転する。モエロイーズは15歳に成長していて、成人間近となっていた。
「えいっ!」
彼女の掛け声は何とも力弱く、へにゃって感じなのだが……。
ズバンッ!
彼女の振った鞭は凄い勢いで的を抉っていた。
……鞭使いの才能があったようで、モエロイーズの鞭捌きは大人からも一目置かれていた。
一目置かれていたのは鞭捌きだけではなく、身体も成熟して年齢不相応な色気を放っていた。
再び視界が暗転する。
今度は成人後。王国兵として働く事になったモエロイーズは衛兵として働いていたが新人兵らしくない強さで活躍し、国民男性からの人気も高い事を知った団長が彼女を呼ぶ。
「モエロイーズ、貴女の活躍と人気を鑑みて、班長に任命する」
「……えっ? あっ、はい!」
……まぁ、普通戸惑うよな。俺も初見は「なんだ、そりゃ?」って思った。
他のクエストを見て理解した事だけど、兵士の評価の中で一番重要なのは当然強さ。それは何処の国でも一緒。ただ、アスパラオウム限定の価値観として国民からの人気がある事という評価がある。
元々女王は「多くの異性からモテる者が人として優秀」という持論を持っている。なので、国全体が目を惹く見た目と配慮できる性格、任務遂行能力、それと美しい戦い方。それら全てが評価対象であり、モエロイーズは全てにおいて優れていた。
……当然、本人は無自覚だ。故に初見の俺と同じ反応になったわけで。
ただ、彼女の優秀さが発揮されるのは部下を得てからだった。
視界が暗転してゲーム画面に切り替わる。
モエロイーズが鞭を振り回し、男女含めて9名がキビキビと戦う。敵を殲滅すると、アニメーションが始まる。
「皆さん、お疲れ様でした」
彼女が労いの言葉を掛けると9人は直立姿勢を取る。……中には彼女よりも先輩が含まれているはずなのだが、ちゃんと統率がとれていた。
「※※さん、今日も素敵でした」
「※※さんも、いつもありがと」
1人1人、褒めていく。
「※※さんは……無茶ダメですよ。次危ない事したら怒りますからね?」
「は、はい、マム」
……マム? なんて最初は思ったが女上官への呼称なのをこれで知ったっけ。ちなみに男上官に対してはサーだという。
彼女が率いると部下が何故か実力以上に働くという噂が広まり、『マールテイト班』の名声は王都内において有名になる。
もちろん、モエロイーズ本人は軍に入って間もない新兵ではある。だが、そんな彼女を守護するように働く屈強な兵士は評判が良かった。
「モエロイーズ、付いて来てくれ」
再びゲーム画面に切り替わると団長に呼ばれ、城内に入る。すると、小部屋で女王様が待っていた。彼女がその場で跪こうとするのを女王自ら制止する。
「良い。非公式の場だから。……楽な格好で聞いてちょうだい。どういう訳か貴女の人気が異常な事になっているの。心当たりある?」
モエロイーズは少し考えた後、首を横に振る。
「……でしょうね。どうも貴女は人を率いる才能もあるようね。試しに貴女を隊長に昇格させます。恐らく周囲の隊長や班長は納得いかないとは思うけれど……どうしても統率できなければ班長へ戻します。頑張って見なさい」
「は、はひ」
緊張しすぎたのか変な返事をしてしまう。
……だが女王の見立て通り、マールテイト隊の隊長として活躍してしまうんだよね。
視界が暗転し、ゲーム画面ではあるのだが画面中央にいるキャラは【剣の乙女】だった。
彼女は街から城へ向かい、城内に入ると謁見の間まで移動する。
「ようこそ、『邪竜討伐軍』の方々。そして【剣の乙女】の※※※※様。お噂はわが国にも届いております」
「女王様にお会いできて、とても嬉しいです」
……個人的に、ここはアニメーションでも良いと思うんだよな……。
「それで、ただ挨拶に訪れたわけでもないでしょう。ご用件は?」
「失礼致します。わたしはこの『邪竜討伐軍』付き【秘書官】でオイファルと申します」
そう切り出して、彼女は深々と頭を下げる。
「良い、話せ」
「はい。現在我々は復活した邪竜王の討伐に備えるため、活動資金の援助と国内で自由に動く許可、有能な人材をスカウトさせて頂きたいのです」
それを聞くと女王は少し考える。
「人材不足……か。それなら……」
女王は宰相に指示をする。数秒後にモエロイーズが入ってきた。
「お呼びでしょうか?」
「マールテイト隊長。貴女が部下の中から9名選び、『邪竜討伐軍』に助力してほしい」
「わたしが……でしょうか?」
「今、わたしの周りにいる優秀な兵士の中で一番若いのは貴女よ。多くの経験を積み、無事に帰って来て国を支えて欲しいの」
「……承りました」
……まぁ、女王様からの命令に断れる者はいないだろう。
謁見の間を出ると誰か追いかけてくる。……見た目はモブ家臣の女。
「マールテイト隊長。女王様からの伝言でございます」
「伝言?」
「男は連れて行かないようにとの事。アスパラオウム王国を代表する者なのだから魔力に優れた若手を連れて行きなさいと……。もし、選べないようでしたらご相談下さい」
そう言って、家臣は下がっていく。
「……それって、連れて行くべき人を指定されたようなものじゃない……」
正直、困っていた。
この時点でプレイヤーは知らない情報ではあるが、モエロイーズを特に支えていたのは男性隊員である。彼女にとって女性隊員は少し扱い辛い。
それでも、純粋に向上心がある人や同性愛の気がある人は従順に従ってくれる傾向ではあるが……。
「まさか、そんな子達だけを連れて行けと言われているの?」
思わず言葉にしてしまい、慌てて口元を押さえる。周りを見回して、今の特大な独り言が聞かれていない事に安堵した。
……初見だと「そんな子」がどんな子か判らないんだよな……。
視界が暗転し、毎回のパターンだとエンディングだと思うのだが……。
「王家の者を死守して!」
鎖鞭を振りながら周囲の兵士に指示を出す。
城は炎に包まれ、襲い来る魔法使い達を倒していく。
……これは、バッドエンドか。
自分で見た事は無いけれど、動画では見たことがあった。
エグイのは、これがゲーム画面ではなくて、アニメーションなんだよなぁ。
敵は学院派の魔法使い。近接戦闘員はほぼ居ないけれど、火力だけはえげつない。
「女は見た目じゃない! 優秀さは魔法使いとしての適性の高さよ! 見た目だけの役立たずに粛清を!」
遠くから、そんな声が聞こえてくる。
「……拙い……倒さないと……」
そう言って追いかけようとした瞬間、背後から炎弾を喰らう。
「きゃあ!!!」
「見た目だけの無能には死を!」
フードを目深に被った女魔法使いが聞こえる距離で呪文を詠唱し、火弾が倒れて動けない彼女を襲い……死亡する。
……これがモエロイーズのバッドエンドだ。
ちなみに、グッドエンドもノーマルエンドも自力で見たが、大して差は無い。
どっちも生存エンドで、学院派を退けた王女派は街の復興のために働く。ノーマルエンドなら街の住民と働き街全体の復興に貢献する。
グッドエンドなら城内で死んだ団長の代わりに新団長として指揮をする。王都は復興しモエロイーズは女王を支える。
実は、モエロイーズのバッドエンドは偶然クリアする前に見てしまっていた。だから、プレイ中は強制加入ユニットでもあったので、バッドエンドにならぬよう注意してゲームを進めていた。
……んっ……。
多分、色々思い出そうと頭を使ったからだろう。……目が覚めてしまった。
モエロイーズの得意武器は鞭系。他の武器を使わせても戦えない事はないが命中率が結構下がる。鞭系は火力こそ低いが中距離攻撃が可能で、スキルを使えば遠距離でも物理攻撃ができる。普通の鞭を使わずとも鎖鞭を使う事でそれなりに攻撃力が上がるので中盤はとても役立つ。
何故なら彼女は【軽戦士】には進化する。その移動力の高さと回避率の良さは中盤の攪乱には打って付けのユニットだ。
ただ、終盤はどうしても火力不足。【軽戦士】の次には進化しないからだ。少なくとも進化の仕方は知られていない。
無理して戦わせると死なせる可能性が高く、装備を贅沢にして強化しても得意武器が鞭故にどうしても火力が低すぎる。
……まぁ、バッドエンド回避のためには終盤は控えに居て貰うしかないわけだ。
「ん~」
起き上がって伸びをする。
『邪竜討伐軍』が攻略してから2週間……予知夢を見たんだから、生きているよな?
……これ、便宜上『予知夢』と言っているだけだから、実際は確約されていないけどね……。
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