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思い出の【獣操士】カナエアリィ=ペルソナハート

 MPを完全に吸い出され、意識を手放した。……強制的ではあったけど、一応合意済み。


 だから意外だった。俺が予知夢を見た事に。


「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」


 もう、この台詞から始まった時点で予知夢確定だと思っている。


「【獣操士】です。……家族の仕事をサポートできるような職業に就きたいと思います」


「職業の心当たりはありますか?」


「うーん……冒険者……とか?」


 【職審官】とのやり取りを見ながら、直ぐにこれがカナエアリィのモノだと気付いたが、これが予知夢だと把握しているだけにあまり喜ぶことができなかった。


 彼女のフルネームはカナエアリィ=ペルソナハート。年齢は今年17歳。身長は147センチで桜色の瞳、童顔でロリ声。そして最も特徴的なのが腰まである柳色の髪。ハーフアップにしていて耳を出しているがイヤリングは初期装備されていない。


 ちなみに柳色も希少色で『竜騎幻想』のキービジュアルに一応載っている。


 現実には存在しない理想の妹にして、俺の獣使い系最推しユニットである。ただし、強さはゲームの仕様では普通と言わざるを得ない。……装備で多少強くなるけれどね。


 前世では彼女のアクリルスタンドやUFOキャッチャーのぬいぐるみ、ポスターやカレンダーなども買っていて、高校生の小遣いにしては結構お金を使ったと自負していた。


 本当に「こんな妹、いるわけないじゃん!」ってツッコミいれたくなるほどにあざと可愛い理想の妹で、よく薄い本で人気の1人だった。


 個人的な感想を言えば、ビジュアルも滅茶苦茶可愛いのは言うまでもないが、演技をしている声優さんがとても妹っぽく、実妹あんじゅがカナエアリィの真似をして俺に失笑されて怒り出すまでがテンプレだったのは良い思い出だ。


 声を聞いているだけでも幸せになるのだから、メインユニットして使い続けたかったのだが、彼女は内陸侵攻の時には既にベンチ要員になっていた。


 ……仕様上無理なんだ……彼女を強くすることが。


 ミボットよりはさすがに強いが限界はあり、その労力で別ユニットを育てた方が強い。特に先に仲間になっているリンクルムが強すぎて、他の獣使い系は要らないという人もいた。


 もちろん、ミボットですら強くするために頑張ったのだから、彼女の事も頑張って強くして最終戦までレギュラーにしたことはある。……でも、正直手間の割に強さは微妙になったと言わざるを得ない。


 その理由は彼女のゲーム的な環境にある。


 彼女が仲間になるのはクリスターク王国。スタート地点であるグアンリヒト王国の反対側の国。そこに着くまでに他のユニットが充分に育っている事が1つ。


 初期装備が貧相で、アクセサリー類は装備してない。武器も弱く、レベルも1。あげくに最初から同行している相棒が犬、猫、兎、鴉と全部小動物。正直、戦闘や移動に使えず、最初から戦闘用の相棒を探すところから始めないといけない。


 ……俺みたいに愛着が無ければ、あえて仲間にしない人も正直多いと思う。




 思い出に耽っていたら、視界が暗転していた。……何か映像が流れていた気がするけれど、考える事に没頭していて見ていなかった。オープニングだろうけど、何度も見て記憶にしっかり残っているので問題はない……多分。


 表示されたのはテンプレの丸太小屋。ただ、他の寒村とは違い、小屋に装飾がされている事から貧しくはない事が表現されていた。


「あたしは、東方の村の中でも割と西の方の村出身で、それほど身の危険を感じる事は無かった。家族は両親と兄と姉の5人家族。家は軽食屋をしていて、小型犬や猫と触れあえる……そんな店があたしは大好きだった」


 ……カナエアリィのナレーション。


 丸太小屋はお店になっていて、カウンターには父親が立っている。


 お客様は年寄と子供が多く、前世で言う学童と老人センターを兼ねているような、そんな集会所のようになっていた。


 そんな中で、カナエアリィは家の手伝いをしていた。


「4つ上の兄は成人した後、兵士としてお城に勤め始めた。そんな兄は例外として、母は厩舎勤務の調教師。2つ上の姉は亡くなったペットの毛皮を加工して形見に加工する【革工師】として村で仕事をしている。もちろん、成人する前から姉は革加工を練習していて……そんな環境だったから、あたしが動物と触れ合うのは日常だった」


 ……ここでナレーションが止まる。


「はーい、餌の時間だよ~」


 カナエアリィが声を掛けると動物達が集まって来る。店にいる動物達は彼女の母によく躾けられていて、どんなに空腹でも調理場に入らない。カナエアリィの言う事を聞くのも、そう指示されているからだ。


「お待ちどうさま」


 犬、猫が自分達の分の食事を食べ始める。普通なら餌を取り合って喧嘩する子がいてもおかしくないのに、全員が行儀正しい。


「……いいなぁ、【獣操士】」


 彼女の母親の天職。そんな天職に彼女は幼い頃から憧れていた。


「カナエル、お爺ちゃんところに行って卵買ってきて」


「はーい」


 そう言って手提げ籠を持って店を出ると村外れの牧場に向かう。


「お爺ちゃん、卵買いに来た~」


「あいよ~。いつもの数か?」


「うん!」


 微笑ましいやり取りをした後、鶏小屋近くにある魔道具の箱から卵を取り出す。


「折角だから今朝産んだ奴もっていきな。それと……これはオマケ。早めに食べるよう言っておいてな」


「わぁ、お肉!」


 カナエアリィはただ動物を可愛がるだけでなく、解体作業も両親の教育方針で見ている。それだけでなく、肉食獣が草食獣を襲うところや、とってきた獲物を子供に食べさせている所も幼い頃から見ている。


「これ、牛さん?」


「牛と馬、それと猪だな」


「そっか。命に感謝しないとだね!」


「そうだね」


 動物に囲まれる環境が命の尊さと食物連鎖の学びに繋がり、独自の正義感が育まれた。




 視界が暗転して、今度は森の中に移動していた。


 彼女のキャラクター表示も変わり、三頭身ながらも成長した事が判る。……まぁ、俺が内容を既に知っている事もあるとは思うけれど。


「戻りました~。これ、ご依頼の品です。確認お願いします」


「ありがとね、カナエアリィちゃん。……うん、確かに。これが報酬ね」


 カナエアリィは結局冒険者業をしている。ただし、仕事内容は自分から制限している。


「ただいま」


「おかえり。食事は?」


「食べる~」


 彼女の拠点は実家。村に冒険者の店は存在しないので村で活動する以上、拠点は自宅となる。


 彼女のやりたかった仕事は村で困っている事に対して手助けをする『何でも屋』的な存在。そして、村の中ならばたいした仕事は無い。少々危険だったり、手間が掛かったりする仕事を億劫に思う人のために、代行を務める程度の事。だから、原則1人で大丈夫。むしろ、大勢人手が必要とするモノは手に余る。……よって、彼女はアイアン級で良いと結論をだしていた。


 ……この世界の住人としては稀な英雄願望がないタイプの人なんだよな。


 実際、主に頼まれる仕事は狩猟系。または近くの町であるナイルナットへのお使いが依頼の9割を占めていた。


「パパ、依頼何か来てる?」


「いんや、来てないよ」


 そして、仕事がない日は店の手伝い。それで充分食べていける程の田舎だった。


「じゃあ、今日は店の手伝いを……」


 カランカラン。


 店の扉が勢いよく開く。


「おぉ、いた。カナエアリィさん。急ぎで仕事を依頼したいんだ」


「どうしたんですか?」


「子供達が朝から森に入って帰って来ないので連れて帰って欲しい」


「え? 直ぐ行きます」


 報酬交渉する事無く店を飛び出していく。


 冒険者になったのに村から出ずに地味な活動を続けている彼女だが、ナイルナットやスキアーオスクリタへ行く事もある。そんな中でチームに誘われる事もあった。


 ……今見ているイベントとは別のイベントだけどね。


 それでも入らないのには理由があって、彼女にとってトラウマになっている。


 前のシーンでも指摘した通り、彼女の相棒は犬、猫、兎、鴉。彼女のクエストを進めていくとそれぞれに思い入れがある事が判るんだけど、それを知るのはプレイヤーと確か【剣の乙女】のみ。


 一度、「そんな弱そうな動物を連れて何ができる? ただのペットだろ?」なんて指摘されて以来、彼女はチームに加わろうとは思わなくなり、ずっと村で活動していた。




 視界が暗転する。場所はナイルナットの冒険者の店。


 店に【剣の乙女】が入ると、カナエアリィは食事をしていた。そこに彼女が近付いて行く。


「貴女が噂の『邪竜討伐軍』の【剣の乙女】?」


 話しかけると、彼女はそう話を切り出す。……ちなみに、この問いに対して答えは聞いていないっぽい。


「あたしは、アイアン級冒険者のカナエアリィ。実は困っている事があって……話、聞いてくれる?」


 ここに来て、「はい」or「いいえ」の選択肢が現れ、「はい」を選ぶ。


「実はダークベアが2体、近隣に出現していて人を襲うの。討伐を手伝って欲しい」


 ちなみにここではノーヒントだが、ダークベアというのは夜間にのみ出現する熊系の魔獣で物理攻撃が無効な厄介な奴。


「それこそ、わたし達なんかより地元の冒険者の方が……」


「既に何組か返り討ちに遭っていて……力を貸して欲しいとお願いしても断られているの」


 ここで「力を貸しますか?」の問いに「はい」を選ぶと依頼受付完了。


「手を貸せるのは6人までだけど、それでも良ければ……」


 この後、本来であれば魔獣ダークベアを討伐するために森へ向かう。自動で戦闘マップに送り込まれ、ダークベア2体……ではなく、4体+αと戦闘になる。


 こちらはゲストであるカナエアリィと7人で、ダークベア4体と雑魚ではあるがスケルトンやゾンビも同時に相手する事になり、ダークベアを倒し終えた時点で勝利条件が達成される。


 戦闘シーンは早送りされて、町に戻って来る。


「助かりました。無事に帰って来られたのは皆さんのおかげです。それでは報酬の……」


 ここで選択肢が表示される。1つは「お金」。もう1つが「カナエアリィを仲間に誘う」だ。ちなみに残念ながら仲間に誘うと直ぐに仲間に加わるが、お金は貰えない。当然、「お金」を選べば仲間に加える事は出来なくなる。


 このプレイヤーは「カナエアリィを仲間に誘う」を選んだ。


「ねぇ、わたしも貴女の力を貸して欲しい」


「あたし……ですか? あたしなんかではとても……」


「もし、邪竜王が完全に力を取り戻してしまったら、大陸に住む全ての生物の命が奪われる。一緒にそれを阻止してほしいの」


「……わかりました。何ができるか判りませんが、あたしで良ければ……」


 そう言って、彼女は仲間に加わる。


 実際に何ができるのか、結局プレイヤー達も予備戦力以上の力を見出す事ができなかった。




 ……目が覚めた。いや、目を開けてはいないけれど……狸寝入りはバレていると思う。


 最初に示した理由により、彼女が微妙な強さでも人気があってエンディングは3種類全部発見済み。


 ノーマルエンドは冒険者に戻って動物愛護活動を大陸規模で始めるというもの。


 ……確か、後続の【獣操士】の教育もしていたな……。


 【獣操士】から進化しても、動物愛護なんだよね。……魔獣は愛護の対象にならないようだ。


 楽しそうにモフモフの動物と戯れる一枚絵で終わるエンディングで、尺は短め。


 それに対し、バッドエンドは人同士の殺し合いに疲れ、実家に戻るというもの。


 ……バッドエンドの条件はグッドエンドに行けない事と最終戦に参戦していない事。参戦していても相棒をロストしていたらバッドエンドになる。実はノーマルエンドに行ける確率は結構低い。


 だけど彼女は暫く引き籠るものの、家族の献身により心を回復させ、『邪竜討伐軍』に加わる以前の活動を再開する。


 グッドエンドの場合は邪竜王を討伐後も【剣の乙女】と一緒に行動し、彼女の故郷で小動物カフェを開く。他にも【剣の乙女】と討伐後に同行を共にした者も彼女の故郷に移住して、カナエアリィのカフェが溜まり場となる。


 グッドエンドの条件は、彼女関連のクエストを全部攻略済みで、最終戦にも出撃し、相棒を1匹もロストせずにクリアする事。……実は、彼女の戦闘スタイルと天職が進化する事を考えるとクエスト攻略漏れでもない限り簡単に達成できる。


 ……彼女のエンディングはバッドエンドすら他の人に比べて辛いモノではない。痛々しいモノが無く、ストーリーも割とパッとしない。彼女のファンからも不満があるくらいだ。


 結果、そういった不満のあるカナエアリィのファンの手によって『真のエンディング』という名目で薄い本が作られた。実は、それらが原因で彼女の人気が上昇し、ファンに愛された事で実際の評価を覆している。




 ……そう、問題は彼女がバッドエンドですら不幸な事がない事。


 その上、仲間に加えなかったとしても彼女が死ぬことは無い。話しかけてクエストを発生させない限り、いつでも彼女は仲間に加える事ができるし、クエストを発生して仲間に加えない事を選んだとしても彼女はNPCとなるだけで死ぬことは無い。


 ただ、彼女関連のクエストが発生しなくなり、結果として救われないNPCが何名か現れる事になるものの、それは俺みたいに攻略サイトをガン見して攻略しているような人物か、何度もリセットをしたり何周も周回したりしているプレイヤーくらいしか事実を知らないだろう。


 そういった彼女の知らぬ裏の話を除けば、カナエアリィの活動は原則「困っている人を助けたい」という優しさなので……だからこそ、あまり喜ぶ事ができなかった。


 ……何ていうか、仲間に加わってしまう事が本人の希望とはいえ申し訳なくて。


「おはようございます、主人マスター。お時間です。……昨夜は素敵でしたよ」


 ……そりゃ、あれだけMPを吸えば満足だろうよ……と、心の中でユカリッサに毒づいた。

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尚、5日間連続投稿5日目+本日中にあと3回投稿します!

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