北東の町ナイルナットの依頼で内陸での活動に挑む
……身体がダルい。
まぁ、動くのに支障があるというレベルではなく、少し疲労が溜まっているなと自覚できる程度ではあるが、逆を言えば自覚できる程度には疲労が蓄積していた。
「ニチリカさん、可能であればナイルナットへも同行してくれると嬉しいんだけど……」
「もちろん、お供します」
「ありがとう」
一応、彼女もチームに加入された。ただし、他のメンバーと違って官職としての仕事がメインであり、副業的なポジションとなる。だから、一応チーム登録はしたけれど協力者的な距離感で接するようにしている。
……多分、役目を終えて解散した時、国から暇を貰った際に完全にチームメンバーとして活動するつもりなのだろう。
「それであの、他にも戦闘への参加を希望する人がいるんですけど……」
「何で急に?」
「天職の進化への期待ですね」
「なるほど」
これは『竜騎幻想』に関係なくだけど、「何かメリットを得るには、それに応じたリスクが伴うもの」と考えている。
今回ナイルナットで力を得るのであれば、それに伴うリスクが発生する可能性が高い。だから連れて行くメンバーは強い連中を多めにピックアップしようと思ったんだけど……。
「解った。希望者全員連れて行けるかは判らないけれど、頭に入れておくよ」
……まぁ、シャオリン以外はレア職を卒業しているし。優先すべきユニットはいないんだよな。
クリスタークでは、内陸側で戦闘している事が多いからか、成長速度が速いんだよな。
翌朝にはナイルナットへ向けて出発した。クリスターク王国の南西から北東へ国の中央を起点に反対側への移動。割と大所帯での出発となった。
今回同行するメンバーは俺、マオルクス、サキマイール、ヒカルピナ、ナオリン、シャワール、サチカーラ、コトリスティナ、シャオリン、アオルッティ、ユールオリンデ、ソラナディア、アイミトン、イクミタン、アサミラージュ、ニチリカ、アオランレイア、ルリーシュ、シオリエル、ユーリンチェル、ジュリエル、アヤカリカ、ヨシノノア、ミユルシアの計24名。馬車3台での移動となった。
ナイルナットは普通の町だった。大陸規模で言うところの普通であって、クリスタークにおいては治安が良く、明るい雰囲気の町だった。
最初こそ少々面喰ってしまったが、多分理由は直ぐ北にある国境。アスパラオウム王国と交流があるからかもしれない。とはいえ、簡単に行き来できるわけではなく、国同士は大きな川で仕切られている。川……淡水はニクシス族の領域。その了承を得なければならないはずなんだけれど……どうなっているかは知らない。
見た感じ小型船……川を渡る定期船もあるし、意外と国境を渡るのは簡単なのかもしれない。……むしろ、『邪竜討伐軍』はここを経由したのではないかとも一瞬思った。
町に入って直ぐ、町外れにコテージを設置するためにアオランレイアにはルリーシュを連れて町長の元へ許可を得に行って貰い、俺はニチリカとアヤカリカを連れて革工店へ向かう。
……あれ?
『竜騎幻想』ではありえない事だけど、店内にカナエアリィが居た。……いや、ゲームじゃないんだから出現位置が固定されている訳がないんだけどね。
一目見て見間違えようのない容姿だった。特に腰まで伸ばされた柳色の髪は誰かと見間違える可能性が限りなく低い。ただでさえ、アニメーション映像での彼女と目の前の彼女が全く一緒の容姿をしているのだから。
彼女は俺と目が合うと近づいてきた。
「あのぉ、もしかして冒険者ですか?」
声も一緒。……良かった……好きなんだよね、彼女の声。
「そうですけど……」
そう言いながら、彼女に冒険者カードを見せる。
「うっ……ゴールド……あのぉ、こんな事を頼むのは恐縮なのですが、話を聞いて頂けます?」
「何か困りごとですか?」
すると、彼女は少々言い淀んだ後、
「あたしはアイアン級冒険者のカナエアリィ=ペルソナハート。今、友人の【革工師】ミッコイーヴァに頼まれた依頼がありまして。あたし1人では手に余るんです。力を貸して頂けませんか?」
「えーっと、どんな内容なのでしょうか?」
「それは依頼主から聞いて貰った方が良いかと思います。あっちで話しましょう」
【革工師】の人とカナエアリィが話した後、商談をするための小部屋に案内される。
「……実は、シャドウ級の冒険者チームがモノセロス狩りに行って帰って来ないんです」
モノセロスとは、馬系の魔獣でガタイのしっかりしたユニコーンのような見た目なのだが、別の生き物。かなり好戦的なのだが、角や毛皮は高価で取引されている。
「依頼は生きていれば彼等を連れ戻して欲しいのです。報酬はそれほど出せませんが……」
そういって、ミッコイーヴァと思われる名乗らぬ彼女が提示した報酬は30万ナンス。シャドウ級を雇うには高額ではある。
とりあえず全額成功報酬という条件を了承し、その冒険者チームの後を追う事になった。
実はこの依頼、ツッコミどころがある。それでも引き受けたのはクラウディの助言に従ったからに過ぎない。
……まぁ、推しと行動できるのは嬉しいけどね。
そんな事を考えながら森に入る。奥へと進み国境越えを目指す。
国境越えする時点で6人を留守番に残し、18人+カナエアリィとミッコイーヴァの合計20名で先へと進む。
「受けておいてなんだけど、何故ミッコイーヴァさんが依頼主となって俺達に声を掛けたの?」
スルーしても構わない内容を除いても、一番気になる疑問はコレだった。こちらの事情と都合が合わなければ拒否していただろう。
「その、簡単な話の流れなのですが、彼等が国境越えをしてしまったのは、わたしが迂闊な情報を伝えてしまったからなんです。たまたま、モノセロスの目撃情報を耳にしたので」
……でも、それだけで自腹を切って捜索しようとは思わんだろう。
「モノセロスを一頭確保できれば大金を手にできる事は彼等も知っていたので、向かってしまったんですが……常識から言って、その日の内に戻ってこられない場合は捜索対象になります」
極力内陸には踏み入れない。それが常識なので普通の冒険者は内陸での野営は不可能。よって、他国であれば依頼を発注した冒険者の店からナッツリブア冒険者支援組合に連絡が行き、捜索チームが編成される。
「ナイルナットを拠点とする冒険者チームは捜索対象である彼等を除けばカッパー級のみ。カッパー級チーム3つで捜索チームを作る話もあったのですが、拒否されまして」
……まぁ、自殺行為だしなぁ。
「たまたま、皆さんが町に入ったタイミングを目撃したの。だから、あたしから声をかけさせて貰ったの」
ミッコイーヴァの代わりにカナエアリィが話し、俺に声を掛けた理由が判明した。
「……ん?」
国境を越えてから妖魔……ゴブリンやオーク、アラクネ等を倒しながら進んでいたが、小さい女の子がこちらに向かって走ってきた。
見た目は9歳くらいだろうか? ボロボロの布を纏い長い黒髪をバサバサと乱れる事も気にせず、必死に走っている。……そして、その後ろにはオークの姿。
……いや、ありえない状況である事は重々承知しているし、罠の可能性も高い。でも……。
俺は直ぐにみんなに合図を出し、その少女の保護に動き始めた。
視界が悪い森の中、ダッシュで駆け出し少女を背に庇うように立った。足元に生えている丈の低い木や普通の木によって遮られた視界などで〈テレポート〉のタイミングを逃した割には早い移動だと思う。それでも……。
ドスッ! ザシュ! ドカァン!!
一瞬にしてオーク3匹が倒される。
ハルクアルマの矢とアオルッティの斬撃、最後がイクミタンのワイルドヘアによる爆撃。ただのオークではひとたまりも無い。
追いついた後続が圧倒的な戦力でオーク達を倒していく。少女からすれば明らかに安全になり安堵する……と思ったのだが、彼女はまだ戸惑っていて今にも走り出しそうだった。
「まだ、動くと危ないから」
一声かける。そのタイミングで腰を見るが変身ベルトをしていない。だから、少なくとも妖魔や亜人の類ではないと思われる。
しかし、普通に考えてありえない。国境を越えた内陸の森にヒューム族の少女がいる事は。
幸い、ただのオークであればサクサクと倒し終え、みんなの経験値となって貰った。
「追って来たオークは殲滅完了ですね」
「みたいだね」
ニチリカの報告に頷く。
「大丈夫? 怪我は無い?」
ビクッ!
俺が声を掛けると少女が露骨に怯える。……やっぱりおかしい。
まず、正直に言って衛生的ではなかった。髪は泥がついて固まっていて、服も泥だらけな上にボロボロ。ただ布を巻きつけただけにも見える。靴は履いておらず素足でここまで走ってきた事になる。……まぁ、傷も無く出血も見当たらないけれど。
目視で亜人種の特徴は見られないし、背も130センチくらいだろう。それなら間違いなく未成年という事になる。
そうなると考えられるのは何者かに誘拐されたのか、それとも隠れ住んでいたのか?
しかし、彼女の発した言葉で思考は強制的に中断された。
「お願い……しますっ……ママを……ママを助けて」
彼女は俺にしがみ付いて見上げる。
「わかった。どっちにいる?」
彼女は黙って指し示す。それは当然彼女の逃げてきた方向。
「思う事はあるかもしれないけれど、まずは人命!」
「はいっ!」
俺の指示に全員の声が重なる。
全員が走り出すのを見てから少女に向き直り屈んで視線を合わせる。
「……さて。俺の名はサクリウス。お名前、言えるかな?」
「ミサキオレ」
不安そうに俺の目を見ながらも名前は教えてくれた。
「そっか。教えてくれてありがと。ママを襲っているのは誰か判る?」
「……あっ……オーク……」
「わかった。ママを助けに行こう」
そう言って、背を向けて屈む。
「乗って? オンブするから」
不安そうに俺の背に身を預けると膝を抱えて立ち上がり……違和感に気付く。けれど、それどころではない。
「みんなに追いつくから、しっかり捕まっていて」
「うん」
そう言って、奥へ向かって走り出したが軽く俺の想像を超える状況になっていた。
俺が追いついた頃には、みんな足を止めていた。その理由も追いつくまでに理解できていた。
「ドラゴン……」
生まれて初めて見る生のドラゴン……黒竜である。
「ニチリカ、接続して〈アナライズ〉」
返事の代わりに視界が変化し、HP0でも動いている黒竜と対峙しているオークロードのレベルクラウン。複数のヒューム族の遺体と2頭のモノセロス。そして、俺に重なる不穏なオプクース族の表示。ミサキオレは泣きながら俺の背から降りて黒竜にしがみ付く。
「ママ!」
「いき……な……さ……」
確かに聞き取れた黒竜の言葉。……そして、オーク達はこちらに目標を変えてきた。
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